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事業が好調な時こそ次の一手を打て

Wedge 10/5(水) 12:30配信

 事業には残念ながら寿命がある。既存事業はできるだけ延命させつつ、別の根幹になる事業を創出し、新規事業へ移行しなければ企業活動は続いていかない。

 同時にそれは、会社の求める人材が変わっていくことにつながる。日本企業はこれまで雇用を守り、長期に人材を育成することで、会社の競争力を獲得してきた。しかし、それは通用しなくなる。今後はAIやロボットなど、技術の進化のスピードが加速するため更にこの問題の起こる周期は短くなるだろう。こうした環境の変化で経営者はいかに無駄なく人材を活用するか悩んでいる。

 人事は経営者に寄り添い、まずは人材のポートフォリオの見直しから始めたい。既存事業が好調なうちに、経営戦略、R&D戦略の各部門と連携し、会社のビジネス戦略、技術戦略のロードマップに沿って、会社全体に人的資源をいかに供給するかの絵を描く。そして、このままだと既存事業に取り残されてしまう人材はどのくらいになるのかをシミュレーションし、それを防ぐための行動を起こしてほしい。

 ソニーにいたとき、当時のCTOと相談し、これに挑戦したことがあった。当時、ソニーではアナログからデジタル、ハードからソフトへの大幅な技術変換をしないと、事業が立ち行かなくなることが懸念されていた。必要な人材像はシステムアーキテクトのようにソフトとハードの双方に精通しつつ、半導体、通信ネットワーク、ソフト開発のどれかに強みを持つ人材だった。

 必要な人材像は定まっても、社員自身が自主的に変わろうとしてくれなければ既存の人的資源は活用できない。社員に自主性を持ってもらい、必要な能力を得られるようなプログラムを用意する必要があった。

 まず、社員に危機感を持ってほしいと、プログラムへの参加者を募集する際に、各部門と人事で描いた5年後のビジネス、技術戦略のロードマップを見せた。会社が求める技術領域はこれだけ変わると明示したうえで、自主性を重んじるため、あえて研修プログラムへの参加には、5000円の自己負担を求めた。

 その代わり人事は、各技術領域で社員が一番話を聞きたい、当時考える限り最高の講師陣を用意した。九州大学の安浦寛人副学長(現在)をはじめ、一人一人直接会って研修の趣旨を話し、講師を引き受けてもらった。

 結果、休日開催だったにもかかわらず、プログラムには延べ2000人以上の社員が参加した。社員たち自身が、これから必要となる技術を渇望していたため、講義開始前から講師陣に質問を浴びせ、議論をしかけ、それに講師陣も応えた。研究と実業に従事する双方の応酬で、会場は異様な熱気につつまれた。

 人的資源をできるだけ無駄なく活用するポイントは、彼らのようにいかに将来を見通して自ら変化できる人材をつくれるかだ。とあるエンジニアが「最高に刺激的なプログラムでした」と言ってくれたことを今でも鮮明に覚えている。人事冥利につきる嬉しい一言だった。

寺川尚人

最終更新:10/5(水) 12:30

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