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「不老不死に憧れる気持ちが、実は書いていて一番わからなかった」不死の一族を描いたダーク・ファンタジー『夜に啼く鳥は』【千早茜さんインタビュー】

ダ・ヴィンチニュース 10/5(水) 17:30配信

都会の闇の中で生きる、不死の一族を描いたダーク・ファンタジー『夜に啼く鳥は』(KADOKAWA)を刊行したばかりの千早茜さん。恋愛小説の名手として知られる彼女は、もともと「化け物」や「異形」が大好きなのだとか。人気作家の知られざる一面と、創作の舞台裏をロングインタビューでうかがった。

――『夜に啼く鳥は』はエンタメ色の強いダーク・ファンタジーですね。

千早茜さん(以下、千早) 今回はかなりエンタメを意識しました。キャラクターの性格をいつもより分かりやすくして、漫才的なかけ合いも入れるようにしています。

――中村明日美子さんのカバーイラストが、妖しい作品のイメージにぴったりですよね。

千早 中村明日美子さんは昔から大ファンで、こちらからぜひにとお願いしました。今回は男性でも女性でもない、性別のない存在を描きたいと思っていたので、中村さんが合うんじゃないかなと。描いてくださったキャラクターが、自分の頭の中のイメージにぴったりで感動しました。

――美しい姿のまま、老いることも死ぬこともない〈蟲宿し〉と呼ばれる一族が登場します。これはヴァンパイアのようなイメージでしょうか。

千早「ヴァンパイアって本当はこうじゃないの?」という疑問から生まれてきたという感じですね。ヴァンパイアって、不老不死ということを抜きにしても生物学的には矛盾だらけの存在な気がして。生き物の血を吸うのは感染症のリスクが高いし、相手に接近しすぎると身の危険にさらされやすいですしね。血を吸って仲間を増やせるなら、生殖器は要らないだろうとか。

――それで〈蟲宿し〉の一族には性別がないんですね。

千早:そうですね、長い年月で不要になっていったという設定です。現代ものでもファンタジーでも、大体こういう作り方です。人が人に痕跡を遺すってどういうことだろうという疑問から『あとかた』が生まれたり。異性の友人ってどういう存在なのか、と考えて『男ともだち』を書いたり。

――ベースにあるのは、人魚の肉を食べた者は不老不死になる…という〈八百比丘尼〉の伝説ですね。この伝説への興味はいつごろから?

千早 ずっと前から興味がありました。初めて知ったのは、手塚治虫の『火の鳥』かな。あれに八百比丘尼の出てくるエピソードがありますよね。いつまでも死ねないというのがものすごい恐怖で、強く印象に残っていました。

――八百比丘尼ものといえば、高橋留美子のマンガ「人魚」シリーズも有名ですが。

千早 他の方にも指摘されたんですが、それは読んでいないんですよ。子どもの頃、家に日本各地の民話を集めたシリーズものの本があって、アフリカに住んでいた頃(注:千早さんは小学1年から4年までアフリカのザンビア在住)、よく読んでいました。人魚だけじゃなく、だいだらぼっちとか、妖怪の出てくる話が特に好きでしたね。

――1話目の主人公・シラは、村の祠に祀られていた〈腐らない魚〉を食べたことで、不老不死の体になってしまいます。その魚には青緑色の光を放つ蟲が宿っていて…という設定ですが、人魚の肉じゃないのはなぜですか?

千早 そこはそれほど深く考えてはいないんですよ。思いつくままに書いています。イメージしたのはバクテリアとか、プランクトンですね。魚の切り身って放置しておくと夜光ることがあるじゃないですか。人間の目には見えないところで小さな生物が活動しているというのが個人的には恐くて、それで描いてしまうんです。

――恐いからこそ描くという感じですか?

千早 気持ち悪いものほど、詳しく描写したくなる(笑)。本当は海とか魚も苦手なんです。苦手だからこそ、強く惹かれますね。

――体内の蟲が病気や怪我を食べてくれる、という設定もユニークですよね。

千早 生物が好きで、サイエンスものの本もよく読むんですが、地球上にはあらゆるものを餌にする虫がいるんですよ。だったら傷みとか劣化とか、自然界の負の要素からエネルギーを得る虫がいてもおかしくないかなと考えました。

――1話目の「シラ」を雑誌に発表した段階で、全体の構想はあったんでしょうか。

千早 全然(笑)。どんな短編を書いてもいいという依頼だったので、好き勝手に書かせてもらいました。後のことは考えていませんでしたね。

――2話目、3話目は怪談専門誌の『Mei(冥)』に掲載でしたね。

千早 続きを書きたくても、当時は現代ものの依頼ばかりで、ファンタジーをやらせてくれるところがなかったんです。しかも「両性具有を描きたい」と言っていたので、なおさら相手にしてもらえなくて(笑)。それを『Mei(冥)』が拾ってくれたという感じです。ファンタジーの形にするなら両性具有でもいいですよと言ってもらえました。そうか、ファンタジーにはこういう使い方もあるんだと勉強になりました。

――2話目以降は現代の東京が舞台になります。主人公の御先(みさき)と四(よん)は、どちらも異様なほどの美貌の持ち主として描かれていますね。

千早 わたしは異形が好きなんです。人並はずれた美しさっていうのも、一種の異形だと思うんです。人と違うという刻印みたいなもの。だから2人は世の中に居場所がないんです。

――感情をあまり出さない御先と、直情タイプの四。2人の関係も魅力的ですよね。

千早 性格的にはわたしは御先に近いんです。御先はすべてを一歩引いたところから観察したい人。わたしもそういうところはありますね。たとえ修羅場に巻き込まれても『人間ってこういうところがあるんだ』って、どこか愉しんじゃう。意地悪なんだと思いますけど(笑)。

――御先は不老不死であることにも執着がない感じですよね。

千早 わたしもそうです。実は書いていて一番わからなかったのが、不老不死に憧れる気持ちなんです。作中では権力や富を得た人は不老不死を求めるものだ、と書きましたけど、実感としては最後までピンときませんでした。

――死ぬのが恐いという思いもないですか?

千早 ないですね。さすがに今、このカフェに車が突っ込んできたらイヤですけど(笑)。いつまでも長生きしたいという気持ちはないです。でも年齢が止まるのは、面倒がなくていいかな。いちいち年相応に見せ方を変えなくてよくなるから。

――4話目の「ひとだま」、5話目の「かみさま」では、御先たちと偶然出会うことになった少女たちのエピソードです。秘密を抱えた小学生、「死にたい」が口癖の女子高生と、2人とも社会とは相容れない部分を抱えていますね。

千早 マイノリティのために書きたい、とはいつも思っているんです。もし世の中からマイノリティが消えて、わたしが書く必要がなくなるんだったらそれはそれでいいと思います。でも人間がいる限りそれはありえないので。

――千早さんご自身、マイノリティ意識があるんですね。

千早 小さい頃からありますね。アフリカから帰ってきて日本の小学校に通った時、ひどくからかわれたんですよ。向こうですごく綺麗な景色を見てきたのに、同級生には全然伝わらなくてアフリカの悪いイメージでしか見てくれない。「人間って分かり合えないものだなあ」と達観しました。もともと空想癖がある方だったんですが、それでますますひどくなって自分の世界にこもってしまいました(笑)。

――御先に思いを寄せる付き人・雅親も印象的なキャラクターですよね。

千早 雅親は御先に対する愛情を認められず、尊敬と取り違えて身動きが取れなくなっているタイプ。面倒くさい人ですよね。セリフがくどくなるんですよ。ひたすら尊敬語、謙譲語みたいな(笑)。雅親だけでなく、この作品の登場人物はみんな他人に対する執着心が強いんです。そういう意味でも、化け物っぽい。恋愛している時の人間って、つくづく化け物だなあと思うんです。誰かとずっと一緒にいたいと願うなんて、自然界で人間だけじゃないでしょうか。

――ご自身に雅親的な部分は?

千早 ないです。気が狂ったら出てくるかもしれないけど(笑)。ただそういう狂った心理を想像するのは愉しいですね。

――千早さんの作品には珍しく、派手なアクションシーンもあります。

千早 あえてやったことがないことをしようと思いました。「千早、アクション下手だなー」、と呆れられるかもしれないんですけど、負荷をかけないと書いてて面白くないですから。ただ、編集さんからは「もっと擬音を入れたらどうですか?」と言われたんですが、それだけは無理でしたね。「ドカーン!」とか「バーン!」とか、どうがんばっても受けつけないんですよ。「爆発音がした」って書けばいいのになと思ってしまう。

――千早さんといえば、デビュー作の『魚神』も遊郭を舞台にした幻想小説でしたよね。

千早 自分でもいちばん好きなのは『魚神』みたいな幻想小説なんです。でも、そのジャンルだけ書いていたら、今の日本では職業作家として生きていけない。デビュー以降は、あえて現代ものを書くようにしていたんです。そうしたら『あとかた』が直木賞の候補になったり、島清恋愛文学賞をいただいたりしてしまって。現代ものの男女の話を多く求められるようになったんです。ありがたいことですが。

――今回は久々のファンタジーで嬉しかったです。今後も幻想ものを手がけるご予定は。

千早 書きたいですね。わたしは皆川博子さんが大好きなんです。いつかは皆川さんみたいに、好きなものをたくさん書いて暮らしたい。そのうち書きたいと思っているのは、サーカスとハーメルンの笛吹男を組み合わせた幻想小説。これは絶対書きたいですね。

――それは面白そうですね!では『夜に啼く鳥は』についてメッセージをお願いします。

千早 イラストが素晴らしいので、中村明日美子さんのファンはぜひ買ってください(笑)。わたし自身かなり愉しんで書いた作品なので、愉しんで読んでもらえたらいいなと思います。

取材・文=朝宮運河


夜に啼く鳥は
千早茜/KADOKAWA

その里は地図に載っていないという。里のお屋敷には燃えるような躑躅の花が植えられており、どんな病でも治してしまうという“蟲宿しの一族”の末裔で強大な力を得た御先が住んでいた。御先は心から慕ってくる雅親を突き放し、里を出て夜の店で働いていた四と出会う。そして“事件”は起こった…。現代の都会の闇に紛れ込み、不老不死の一族が、時を超えて愛しい人を求める、禍々しくも哀しい現代奇譚。

最終更新:10/5(水) 19:20

ダ・ヴィンチニュース

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