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「私がコンビニの店長なら朝礼はちゃんとしたい」芥川賞作家・村田沙耶香が語る“コンビニ愛”

週刊SPA! 10/5(水) 16:20配信

既存の価値観を根底から揺さぶる作風で、近年大きな注目を浴びつづけてきた作家・村田沙耶香。最新作『コンビニ人間』が第155回芥川賞を受賞し、現役のコンビニ店員であるという異色の経歴も話題になった。幼少期から生きづらさを抱えてきた少女が、作家になってたどり着いた境地とは――

――『週刊SPA!』と申しますが……ご存じですか?

村田:はい。お店で売っています。

――今も、コンビニで週3回アルバイトをされているんですもんね。

村田:若い男性のお客様がよく買っていかれる雑誌だな、というイメージを持っていました。いつもは売る側なので、出る側になるのは不思議な気持ちです(笑)。

――村田さんが口にする「お客様」をナマで聞けるとは感慨深いです。『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子は、コンビニで働いているときだけは自分も“普通”でいられる、自分も世界を動かすシステムの歯車になれる……と喜ぶ36歳の独身女性ですが、ご自身とヒロインが繋がっている部分はあるのでしょうか?

村田:私自身ごく自然に、システムの一部になりたいと思っているような子供だったんです。おとなしくて内気で、家族からも「村田家にどうしてこんな繊細な子が生まれたんだ」とおののかれるくらいで(笑)。他の子はできる普通のことが、自分にはできない。どうしてなんだろうといつも悩んでいて、世界の“上手な部品”として動ける能力がずっと欲しかった。そういう気持ちに苦しめられている主人公は今までにも書いてきましたが、もっとユーモラスに書いてみたいと思ったのが『コンビニ人間』。「読んで笑った」と言ってくださる方もいれば、「怖かった」と言う方も多いんですが(笑)。

――笑えますし、怖いです。

村田:実は最初は、理想のコンビニを小説で書こうとしていたんです。例えば、私が働いているコンビニは朝礼がないんですが、自分が店長だったらちゃんとしたいな、とか。

――朝礼はあったほうがいい?

村田:そのほうが引き締まるなと思っていて。でも、店長がいい人で、店員もお客さんもみんないい人みたいなお店を書いていたら、すごく薄気味悪くなって、途中で方向転換しました(笑)。すごく嫌みな人物や、人間らしい生々しさのある人物を書いたことで、むしろ全体はユーモラスになった気がします。

――個性的な登場人物の中でも、白羽という新米バイトは強烈です。主人公と同年代のアラフォーなのに、婚活目的でコンビニにやってくる。そのくせ女性に対して差別発言や呪詛の言葉を連発するという……。

村田:白羽さんは「自分が男の子だったら、こんな苦しみを抱えていたんじゃないか」という発想で作った人物でした。今まで自分は女性の苦しみをずっと書いてきたけど、男に生まれたら男ならではの苦しみがきっとあったんだろうな、と。例えば、専業主夫として家事を完璧にやっているのに、ヒモみたいに言われたりすることがあるじゃないですか。

――そういうことを言いたがる人はいますよね。

村田:同窓会などで、そういう場面を見て怖いなと思うときがあります。同窓会って、みんなで「今、何やってるの?」って話をする場所ですよね。自己紹介の後、陰で「あいついい年して、バイトらしい」とか言われてる男の子もいて、なんて残酷なんだろうと。本人は今の仕事に、すごい喜びを感じているかもしれないのに、勝手に“普通”の価値観を押し付けられて、その一日だけの情報で人生が裁かれる。

――白羽の台詞にもありましたね。「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ」。

村田:女の子は女の子で「子供はまだ?」とかデリケートな問題を直球でぶつけられて、後で号泣したりしていて……。そのことがあって、『しろいろの街の、その骨の体温の』という話を書いたんですが、それでもまだ足りなくて、『コンビニ人間』を書いたんだと思います。一度は“普通”を目指すんだけれど、結局は“普通”の価値観をきっぱり断る。そんな主人公を、大好きなコンビニを舞台に書いてみたかった。

※このインタビューは10/4発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです

【村田沙耶香】

’79年、千葉県生まれ。’03年、「授乳」で第46回群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。’13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。以後、『殺人出産』『消滅世界』ほか、既存の価値観を揺さぶるような作品を発表し続けている。’16年、『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞

取材・文/吉田大助 撮影/寺川真嗣

日刊SPA!

最終更新:10/5(水) 16:20

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