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原因は微少な“死の虫” 謎に挑んだ人びとの苦闘

Book Bang 10/6(木) 8:00配信

 新潟、秋田、山形といえば日本屈指の米どころだ。田園を支えるのは豊富な水量を誇る大河から網の目のように分かれるその支流である。だがそこには恐ろしい虫が潜んでいた。

 夏場、作業をする農民はこの虫に刺されると40度近い高熱に苦しめられ、場合によっては意識を混濁させながら死に至った。新潟では赤虫、秋田では毛ダニ、山形では毛谷と呼ばれるツツガムシの脅威であった。

 古くから「恙(つつが)」とは病気、災難を表していた。明治期の医学者が病気を起こす虫として恙虫と名付けたのは言いえて妙だったともいえる。

 明治以前は、日本海に面する特殊な地域で起こる謎の風土病としてしか知られていなかった。稲穂が実りはじめる8月に死者は集中した。

 原因は肉眼で辛うじて見える微少な虫。体の色は橙色がかった赤色で、草の陰や岩に付着しており、人の背中や胸などを刺す。やがてそこが水疱から膿疱になり黒褐色の瘡蓋を形成する。このころから全身の倦怠感、食欲不振、発熱、そして全身に赤い発疹がみられ、最悪の場合、3日か4日で意識朦朧の中、死んでいった。

 本書は明治時代から始められた研究の経過を、時系列で記していく。原因の虫はわかっているのに、治療方法が見つからず、虫除(むし よけ)不動尊などに頼るしかなかった人々の悲哀はどれほどだったろうか。

 研究には北里柴三郎をはじめとした当時の最先端の人たちが関わっている。ツツガムシの宿主がわかり、病原体がリケッチアという微生物であることが判明しても、肝心な治療法が確立されない。テトラサイクリンという抗生物質による治療薬ができたのは、なんと戦後になってからのことであった。だが平成の今、新たな虫の感染症が報告されている。

 デビュー作『毒蛇』(文春文庫)から、ハブの血清造りやフィラリア根絶などについてのノンフィクションを描いてきた作家、小林照幸ならではの渾身の一冊である。

[レビュアー] 東えりか(書評家)
※「週刊新潮」2016年9月22日号 掲載

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最終更新:10/6(木) 8:00

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