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障害と2度のガンを経て気付いた自分の役割(後編)

Wedge 10/6(木) 11:20配信

 今回は患医ねっと(株)代表取締役の鈴木信行さんをお迎えしております。

 鈴木さんは二分脊椎症による下肢麻痺及び直腸障害を持って生まれ、20歳のときに精巣腫瘍に罹患し手術。24歳で再発し人生の転機を迎えました。

 「自分にしかできないことを追い求めていこう」と患者の目線で、患者と医療者、企業を繋ぎ社会を変えていきたいと幅広く活動されています。

* * *

初瀬:鈴木さんはガンの再発が人生の転機となって、様々な活動をされるようになったのですが、『みのりcafe』は社員に任せ、この夏に『患者スピーカーバンク』の理事長からも外れたので、現在は、患医ねっと(株)がメインということになりますね。

鈴木:患医ねっと(株)というのは、患者と医療者をネットワークで繋げたいという思いから設立しました。ガンが再発して9カ月間入院しているときに感じたのは、患者の目の前で医療者が問診しているのに、心の距離がものすごく遠いということでした。患者は医療者に言いたいことを言えないし、逆に医療者だって患者に本音を語っているのだろうか、という疑問も湧きました。もっと患者と医療者は心で繋がらないといけないと思ったのです。距離が近づくとお互いに良いことばかりのはずなんです。そういった活動を患者の視点でやっていきたい。そんな思いのこもった会社です。

初瀬:心の距離ですか、確かに遠いです。患者にしてみれば言いたいことが言えませんからね。その関係はよくわかります。具体的にはどんなことを?

鈴木:患医ねっと(株)がやっていることは、患者と医療者がいっしょに行う研修会であったり、対話の会であったり。場所にしても病院の中で患者が医療者に研修を行ったりもします。その他には薬剤師会にも研修のカリキュラム等を提供しています。

 薬局って街中にあって当たり前で、お店の名前すら憶えてもらえないケースが多いんです。ですが、薬剤師さんたちの能力は非常に高くて、この能力をもっと患者さんたちのために役立てることはできないだろうか、また、患者側に立てばもっと活用する方法はないだろうかと考えました。

 我々がカリキュラムを提供することによって、薬剤師がもっと患者に対してアピールできるようになっていきます。すると患者側も薬剤師を活用しようと考えるように変わっていきます。

初瀬:研修や講演、コンサルティング業務を通して、患者と医療者の距離を近づける。そういったサービスを提供する会社ということですね。

 ところで、患者と医者の距離が遠い原因はどこにあるとお考えですか。

鈴木:医療者側の問題として、医者が医療職種のトップだという教育をされ過ぎていることが考えられます。医療に携わる者も先生と呼ぶし、患者にしてもお医者様と呼ぶ人がいるくらいですから、日本ではあたかも医者が偉いかのような風土がある。そこにまず問題があると思っています。

 二つ目の問題は患者側ですが、お医者様に任せておけば治していただけると考えていることです。そんな意識が日本人にはあります。本来病気というのは自分が治すもので、医者を活用するのが患者のあるべき姿なんじゃないかと思うんです。

 我々が夕食の材料をどのお店で買おうかと考えて八百屋や肉屋を選ぶように、病院や医者を選ばなければいけないんです。患者が選ぶという発想にならなければ、医療は変わりません。

 患者側も医療者側もお互いに意識改革をしなければいけないんです。それを我々は、患者側の人間として患者に対して、自分たちは変わらなきゃいけなんだよ、と言っている数少ない会社です。

 これはマスコミも医療者も言えないんですよ、なぜならば、障害者とか患者というのは社会的な弱者であり、守られる、もしくは守るべき存在という認識だからです。

 我々は当事者だからこそ言えることがあり、できることだと思っています。

初瀬:障害を持っていたり、ガンになって様々な気づきがあったり、いろいろな方たちと縁が生まれるうちに患者や障害者の視点から社会をより良くしていこうと患医ねっと(株)を立ち上げて、患者と医療者の意識改革を行っているということですね。

 僕も目が悪くなってから、なぜ自分は目が悪くなったのだろうと考えるようになりました。長崎県の高校を卒業していますが、同級生200名のうち半数近くが医者になるような学校でした。今でも同級生に会ったりすると、僕以外みんな医者だということがあるくらいなんです。

 その中で僕は弁護士になろうと中大法学部に進んだのですが、視力を失ってその道を諦めました。人生の全てを失ったように落ち込んで、外に出ることも怖くなり、周りの人たちの普通に見えている目が憎くなってくるんです。悲しいことに「なんでこいつらは見えて、俺だけが見えないんだ」って思ってしまうんです。そんなときに、中学時代からやっていた柔道に救われて、パラリンピックにも出場することができましたし、別の道に進むことになりました。

鈴木:その気持ちは理解できます。なんで俺がって思うんですよね。悩んで考えて、その意味を求める。だから生きる意味が見えてくると思うんです。

初瀬:先ほど鈴木さんがおっしゃったように、僕も何のために自分は障害者になったのか、とその意味を考え続けました。その答えが「自分は健常者と障害者の架け橋になる」というものでした。

 僕は目が見えないので就職活動でものすごく苦労しました。視覚障害というだけで面接を受けられないんです。その辛さを知っています。だからこそ経験を生かして、理解したうえで僕が障害者の就職の手助けをする。そのために自分は障害を負ったんだと考えるようになりました。それが僕の行動の原動力になっています。

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最終更新:10/6(木) 11:20

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