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破壊の魅力を描くアニメーション 宮崎駿と庵野秀明、そして『アングリーバード』

リアルサウンド 10/6(木) 15:59配信

 『シン・ゴジラ』で、文字通り最も「熱量」の高いシーンは、やはりゴジラが東京の街を大破壊するシーンだろう。建物が次々に崩壊していく様子に、興奮と快感を覚える。しかし同時に、そこに何か後ろ暗い感情を抱いてしまうのも確かである。

 鳥のキャラクターを弾丸のように弾き飛ばし、建造物を破壊しながら、卵を奪ったブタを倒していくアクションパズルゲーム、「Angry Birds」(アングリーバード)も、かわいい絵柄ながら、童話「三匹のこぶた」のオオカミのように家を破壊していくという暴力的快感が、ある種の大きな魅力となっている。「Angry Birds」は様々なメディアミックスが展開され、すでにナンセンスな風味のTVアニメシリーズが作られているが、今回の劇場用アニメーション『アングリーバード』は、CGを駆使し飛躍的にハイクォリティーな作品となっている。

 飛べない鳥たちが住むバードアイランドで、怒りっぽい性格から島の皆に理解されずに一人孤独に暮らす、眉毛の太い「レッド」が本作の主人公だ。彼は、アルバイト中に理不尽な客に対してキレまくってしまったことで、裁判所命令によって「アンガーマネジメントクラブ」に通い、グループセラピーの手法で怒りをコントロールする方法を学ばされるはめになる。独り身の生活の孤独や、法律による無謀行動への制裁というリアリティある要素が面白い。子供向け作品とはいえ、子供たちを劇場に連れていくのは親だ。近年のアメリカの子供向け劇場用作品では、大人たちをも喜ばせるネタをいろいろと仕込んでいることが多い。

 そうこうしているうちに、ブタの一団が島にやって来て、鳥たちの卵を奪ってゆく。本作の見せ場になるのが、やはりゲームの内容を再現する、ブタの住む建造物に巨大パチンコによって、鳥たちが弾丸となって次々にぶつかっていくアクションだ。このシーンが、あまりにも異様なのである。卵を奪われた親たちが、我が子を取り返すために必死になっているとはいえ、果たして、自ら建造物に体当たりするという行動に出るだろうか。他にもっといい方法はなかったのだろうか。前半でグループセラピーなど、リアリティのある人間ドラマを丁寧に作り上げてきたことで、原作のゲーム自体がもともと持っていた異常性が際立ってしまっているのである。だが、この活劇には、これが著しく異常であるからこその、凄まじい勢いを感じるのも確かだ。

 バードアイランドにやって来たブタは、島にいろいろな物資を持ち込み、資本主義的な文明を築いていく。ブタたちはカウボーイの恰好をして、素朴な島民に享楽の味を教え、白人的な価値観を浸透させようとする侵略者である。それに対抗する象徴が、本作にも登場するハクトウワシ、すなわちアメリカン・イーグルである。アメリカの先住民たちは、ハクトウワシを聖なる鳥として崇め、その羽を頭に飾っていたという。つまり、アメリカ侵略への先住民の精神が、『アングリーバード』の戦いに重ねられているのである。

 しかし、ここでひとつ問題が浮上してくる。たしかにアメリカ先住民は侵略された側であり、その戦いは正当防衛と呼べるが、敵の街を破壊するという行為を爽快に描くところまでやってしまうと、その描写が暴力礼賛、報復礼賛のメッセージだととられる余地がある。『アングリーバード』や『シン・ゴジラ』の破壊シーンに、なにか罪悪感のようなものを我々が持ってしまうというのは、その「暴力」に快感やカタルシスを感じ、どこかでそれを肯定してしまっている自分自身を見せつけられるからではないだろうか。

 それは作り手の側も同じである。『風の谷のナウシカ』で宮崎駿監督が庵野秀明に担当させたという、『シン・ゴジラ』の破壊シーンの原点ともいえる、巨神兵による破壊シーンを思い出してほしい。ここで作り手が描きたかったのは、文明によって自然を支配しようとする人間の傲慢さと愚かしさである。にも関わらず、巨神兵のビーム攻撃による爆破炎上の様子は、ものすごくかっこいい。「戦争はかっこいいぞ」、「でもだめだぞ」、「戦争はかっこいいな」、「いや、でもダメだぞ」宮崎駿監督の活劇作品は、これの繰り返しである。イデオロギーでは戦争に反対しているのに、戦闘描写やミリタリー描写に、必要以上の愛情を込めて描いてしまう。頭と心が乖離してしまっているのである。

 宮崎駿監督が『風立ちぬ』で描いたのは、戦争という悲劇が起こったことによって、優れた飛行機を設計するという夢を叶えることができた男の姿である。そこではおそらく、宮崎監督が自覚する、自身の矛盾した内面が投影されているはずだ。そしてそれは、テーマと魅力が矛盾してしまっている、多くの娯楽作品があらかじめ持っている「業」でもある。『アングリーバード』や『シン・ゴジラ』の都市破壊に凄まじい熱量を生じさせている原因のひとつとは、おそらくこのような、作り手や我々のなかにある理性と感情による摩擦なのではないだろうか。

 いま、ディズニー作品を中心に、アメリカのアニメーションの多くは、様々な意味で「進歩的で正しい」作品を作り、子供たちをより良い方向に導こうとしている。そのなかにあって、このような、正しいのか何なのかよく分からない描写を含んだ作品に出会うというのも、映像作品を「体験」することの醍醐味の一つであろう。

小野寺系

最終更新:10/6(木) 15:59

リアルサウンド

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。