ここから本文です

少年少女の眼差しが捉えた、“リアル”なジュブナイル・ミステリー。 『ぐるぐる猿と歌う鳥』 (加納朋子 著)

本の話WEB 10/7(金) 12:00配信

忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。
今日は門脇舞以さん。

 幼少の頃に誘拐されかけた、という主人公の少年が体験した衝撃的なプロローグから始まる本作。児童書シリーズの一冊であり、大人も子どもも楽しめる物語だろうと認識していただけに、想定以上に容赦のない展開にまず驚かされる。その上、居合わせたはずの少女は忽然と姿を消してしまう。少年が家を訪ねてみても、そんな女の子は元より住んでいなかったと告げられるのだ。

 幼稚園の年長で“事件”に遭遇した少年・高見森(たかみ・しん)は、小学5年生で父親の転勤のため東京から北九州にある社宅へ引っ越してきた。彼が転校してくるまでの腕白エピソードの度合いもなかなかのものであるが、「くだらない」が口癖の父親や後味の悪い教師の対応など、大人達の癖の強さもまた印象に残る。腕白である自分を制御できず孤立しがちであった少年は、同じ社宅に住む少年少女らとの出会いと秘密の共有により、持ち前のポテンシャルをみるみる引き出していく。互いを認め合い、補い合う中で、抜けるように晴れ上がっていく彼らの世界。そんな高揚感を共に味わいながら、私はなるほどと思った。誘拐時の圧倒的な恐怖、大人たちの粗(あら)。そして、森少年の著しい成長を予感させる、人々からの純粋な笑顔や褒め言葉の数々……それらにある種の引っ掛かりを感じた訳は、どれも森少年が、少年であるが故の眼差しで捉えた”リアル”そのものであったからこそなのだと――。

 少年少女による、少年少女のための珠玉のジュブナイル・ミステリー。私たちが本を閉じ、大人に戻ったとしても、その清々しい想いは失われることなく在り続けるだろう。

門脇 舞以(かどわき・まい)

2001年、声優デビュー。主なアニメの出演作に『Fate/stay night』『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』(イリヤスフィール・フォン・アインツベルン役)、『ストライクウィッチーズ』(サーニャ・V・リトヴャク役)などがある。読書好きとして知られ、また日々の子育てに奮闘する“ヲタママ”でもある。

文:門脇 舞以

最終更新:10/7(金) 12:00

本の話WEB