ここから本文です

まるでダチョウの平和? 日本の尖閣認識はアメリカ以下だ

PHP Online 衆知(Voice) 10/7(金) 20:20配信

「狙いは日中二国間協議へ引き出すこと」

 やはり日本の国難と呼ばざるをえないだろう。最近の尖閣諸島(沖縄県石垣市)への中国の一大攻勢の日本にとっての意味である――。
 今年8月に入ってのわが尖閣諸島海域への中国の侵入が、急激に勢いを増してきた。「中国海警」の武装艦艇がこれまでにない規模と頻度の威圧的な攻勢で日本の領海、そしてその立ち入りには日本側の了解を得るべき接続水域に連日のように入ってくるのだ。
 中国海警の艦艇はその数も一時に十数隻と、これまでの水準をはるかに超え、さらに数百隻もの「中国漁船」を従えている。この「漁船」の実態は民兵なのだ。そのうえにすぐ背後には中国人民解放軍の艦艇や航空機、ミサイルが控え、軍事力の脅威を誇示する。日本の法治はもちろんのこと、国際的規範をも踏みにじる無法な行動である。
 中国のこのエスカレーションの究極の目的は尖閣諸島の奪取だろう。日本固有の領土に対し中国側は一方的に領有権を主張しているからだ。日本の領土を暴力的手段で奪おうとする中国の行動の前例のない拡大と過熱は、日本にとっては戦後でも珍しい国難だといわざるをえない。
 だが中国側はなぜ、この特定の時期に特定な方法でこうした新攻勢に出てきたのか。当面の動機や目標は何なのか。また日本の安全保障にとって今回の中国の尖閣攻勢の急拡大は何を意味するのか。そんな事態は日米同盟に何を意味し、アメリカはどう認識しているのか。
 こうした疑問への答えを、アメリカ側で日ごろ中国の軍事動向や海洋戦略を一貫して研究する専門家たち5人に問うてみた。ほとんどがワシントンを拠点に活動する人たちである。
 日本への攻勢に対する対応はもちろん日本が独自に考え、実行することが基本である。しかし尖閣事態に関してはアメリカもほぼ当事国なのだ。尖閣諸島が軍事攻撃を受ければアメリカも日米安保条約の規定に従って日本と共同でその防衛に当たる、という方針を言明しているからである。
 結論を先に述べるならば、これらアメリカ側専門家たちからは、中国の今回の動きはたんに尖閣奪取への前進という目的に留まらず、東シナ海全体への覇権をもめざす野心的な目標への新展開だと見る点ではほぼ共通する答えが返ってきた。
 なぜいま、あえてこの時期の中国側の攻勢拡大なのか。
 アメリカの中国研究者でも長老級のロバート・サター氏は「尖閣諸島への自国の領有権主張という基本目的は別として、中国がこの時期にあえて中国海警や『漁船』を前例のない数、出動させて日本への威圧行動を始めたのは、まず日本が南シナ海での中国の無法な行動への抗議を国際的に最も強く広く表明していることへの反発や怒りのためだろう」という。
 サター氏は国務省、中央情報局(CIA)、国家情報会議などで中国問題を40年ほども担当し、最近、ジョージワシントン大学の教授となったチャイナ・ウオッチャーの大ベテランである。とくに中国の対外戦略に詳しい。
 そのサター氏は中国の動機として、今年7月に国際仲裁裁判所が南シナ海での中国の主張を違法だとした裁定への抗議をアメリカなどの国際社会一般にぶつけ、さらには中国のその断固たる抗議の姿勢を自国民に誇示するためにも尖閣への未曾有の大規模な攻勢を始めたのだろう、とも述べた。
 サター氏はさらに付け加えた。
「今回の尖閣へのエスカレーションは規模だけから見ても習近平国家主席が完全に認知しての大胆な動きだ。中国は9月上旬の杭州でのG20サミットまではこうした国際的に対決的な行動は取らないだろう、という一部の観測は見事に外れたようだ」
 中国側の今回の対日大攻勢の動機が少なくとも一部には国内向けの示威だとする見解は、アメリカ海軍大学の中国海洋研究所ピーター・ダットン所長からも示された。
「第1に、中国指導部が最近の国内経済の停滞やその他の国内的弱点の悪影響の広がりを懸念して、中国の国民に海洋での拡張能力の強化を誇示することで前向きな国家意思の強さを示すという計算が考えられる」
 ダットン氏はそのうえで、国際仲裁裁判所の裁定への激しい反発を中国の第2の動機として挙げた。この点もサター氏の見解と一致する。ただしダットン氏は慎重な注釈を加えた。
「この裁定への怒りをぶつけるようなかたちで国際社会全体との対決も辞さない、という中国のいまの言動パターンがあくまで怒りや対決を土台とする衝動的な反応なのか、あるいはじつはもっと計算され、今後は持続的な中長期の戦略となるのか、まだ判断は下せない」
 アメリカ海軍大学は、米海軍の少佐以上の将校らに大学院レベルの教育を供するとともにアメリカの安全保障や防衛に関する調査、研究を常時、進めている。中国海洋研究所はその大学の一部として2006年に新設された。ちょうど中国の海洋活動が無法性を滲ませながら膨張を始めた時期である。同研究所は中国の海洋活動を専門に分析する機関としてはおそらく世界でも唯一だろう。
 海軍パイロット出身でその後に法律や安全保障を学んで法学博士号を有するダットン氏は同研究所の発足の翌年に研究員となり、2011年には所長となった。中国の海洋戦略に関しては全米でも有数の専門家とされ、議会での証言や論文の発表も多い。
 ダットン氏は中国側の狙いについて、興味ある指摘をした。
「今回の動きは明らかに日本を威圧する新たなエスカレーションで、中国が南シナ海でフィリピンなどに対して取った、いざとなれば軍事行動をも辞さないというふうな強硬作戦だといえる。中国のその当面の狙いは、日本を尖閣諸島の領有権をめぐる日中二国間の協議へと引き出すことだろう。いまのエスカレーションが嫌なら、中国との二国間の協議に応じろ、という威圧だともいえる」
 尖閣諸島の領有権をめぐる日中二国間協議などという事態が起きれば、それだけで中国側の大きな勝利となる。周知のように日本政府は尖閣が日本固有の領土であり、領有権紛争などそもそも存在しないという立場を堅持しているからだ。二国間協議というのはその日本側の立場の崩壊である。

1/3ページ

最終更新:10/7(金) 20:20

PHP Online 衆知(Voice)

記事提供社からのご案内(外部サイト)

Voice

PHP研究所

2016年12月号
2016年11月10日発売

780円(税込)

【総力特集:笑うプーチンを信じてよいか】日露提携の期待と不安、今後の影響とは。米韓二国を読み解く論考も掲載。

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。