ここから本文です

船員組合に運行が左右される自衛隊の海上輸送

Wedge 10/7(金) 11:10配信

 2016年9月6日付の讀賣新聞朝刊に「陸自輸送 契約船使えず」との記事が掲載された。その記事によると、2016年2月の北朝鮮による長距離弾道ミサイルの発射に際し自衛隊は、年間輸送契約を締結していた「新日本海フェリー」所属のフェリー「はくおう」でミサイル落下に備えるための部隊を沖縄本島から石垣島などへ移動させようとしたが、船員が加盟する全日本海員組合が難色を示したため同船の使用を断念したとのことである。自衛隊はその後、定期船などを使って部隊を運び、ミサイル発射にはぎりぎり間に合った模様である。

 また記事では、本件の原因は防衛省と「新日本海フェリー」との契約では、輸送支援の事例として「災害派遣等」を挙げており、ミサイル発射に対処するための輸送がこれに該当するか否かで防衛省側と組合側で見解が分かれたこと、ならびに組合側が武器の輸送はしない姿勢であることとしている。

東日本大震災以降における自衛隊の海上輸送力強化の動き

 自衛隊が平素に民間船舶を使用することは常態化している。著者も四国の陸上自衛隊の部隊に勤務中、北海道での転地訓練のために民間フェリーを使って移動した経験がある。ただし、転地訓練のように年度の計画に基づく輸送であれば民間船舶を事前に確保できるものの、災害派遣等で突発的に輸送ニーズが発生した場合、海運会社及び海員組合の協力無くして民間船舶を確保することは難しい。例えば、2011年の東日本大震災の時点で、自衛隊の海上輸送力の主力は「おおすみ型輸送艦」3隻であったが、震災に際してこのうち2隻が主として救援物資の輸送等に従事した(1隻は定期修理中のため不稼働状態)。このため、北海道から被災地に赴く陸上自衛隊の海上輸送は民間フェリーと米海軍の揚陸艦が実施した。この際の民間フェリー会社と海員組合による協力は特筆に値する。その一方で、緊急時における自衛隊の海上輸送が民間フェリー会社と海員組合による協力に左右される実態を強く再認識させたのも事実である。

 東日本大震災以降、自衛隊は海上輸送力の強化を進めてきたが、そこには二つの特徴が見られる。第一の特徴は『民間フェリーの安定的な使用』である。防衛省は2014年度以降に新日本海フェリーの「はくおう」(総トン数1万7354トン、トラック122両などを積載可能)と津軽海峡フェリーの「ナッチャンWorld」(総トン数1万712トン、トラック33両などを積載可能)を借り上げる年間契約を結び、契約期間内に自衛隊から輸送要請があった場合には72時間以内に船を出すことになっていた。

 しかし、冒頭に述べたように北朝鮮のミサイルの発射に際して、この契約は機能しなかった。2016年3月にはフェリー会社などが出資する特別目的会社「高速マリン・トランスポート」が設立され、防衛省が同社から「はくおう」と「ナッチャンWorld」をチャーターする仕組みが構築された。そして、同年4月の熊本地震に際して「はくおう」が陸上自衛隊の災害派遣部隊を輸送し、早くもその仕組みが機能した。とはいえ、冒頭に述べた海員組合の姿勢を踏まえれば、災害以外の緊急時における民間フェリーの安定的な使用には不安が残る。防衛省は、災害以外の緊急時にはこれらのフェリーを非組合員の予備自衛官に操船させる計画と言われているが、十分な数の予備自衛官を確保できていない模様である。このため自衛隊は、民間フェリーの安定的な使用を追求するとともに、自前の海上輸送力の整備にも注力する必要があろう。

1/2ページ

最終更新:10/7(金) 11:10

Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2016年12月号
11月19日発売

定価500円(税込)

■特集 クールジャパンの不都合な真実
・設立から5年経過も成果なし 官製映画会社の〝惨状〟
・チグハグな投資戦略 業界が求める支援の〝最適化〟
・これでいいのかクールジャパン

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。