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松下幸之助は「部下からの情報」を重視した

東洋経済オンライン 10/7(金) 9:00配信

江口克彦氏の『経営秘伝――ある経営者から聞いた言葉』。松下幸之助の語り口そのままに軽妙な大阪弁で経営の奥義について語った著書で、1992年の刊行後、20万部を売り上げるヒットになった。本連載は、この『経営秘伝』に加筆をしたもの。「経営の神様」が問わず語りに語るキーワードは、多くのビジネスパーソンにとって参考になるに違いない。
 経営者にとって一番大切なことは、いばることではなく、会社を発展させる道を見つけ出すことやな。わしはできるだけ、部下の話に耳を傾けるということを、心がけてやってきた。

 どうしてかと言うとやな、そりゃあ、聞けば、きみ、いろいろな考えというか、知恵というか、いまの言葉でいえば、情報やな、情報を集めることができるわな。とくに今日のように情報を集めながら、仕事をせんならん時代は、部下や多くの人から話を聞くということは、きわめて大切なことと言えるわな。

■人間ひとりの知恵には限度がある

 人の知恵は借りない、人の話は聞かないということで、自分でなんでも考えて結論出して、それで成功すると。まあ、そんな人は、普通はおらんね。正直なところ。人間ひとりの知恵には、限度があるわな。そんな限度ある知恵で無数の課題をもつ経営をしようとしたら、うまくいかんのや、わしの経験から。

 きみの知っておることと、わしの知っておることと同じではないわね。わしの知っておることもきみは知らんと。けど、きみの知っておることも、わしは知らんと。まあ、そういうもんやろ。知らんことを尋ねること、聞くことによって、お互いに知識とか知恵とか身につけることが出来る。そういうことで、部下の話を聞くということは、ごく自然に、たくさんの知恵を集めることができる。自分以上の、たくさんの知恵を集めることができる。なあ、便利やろ。

部下の話を聞かないのは責任者として失格

 部下の話を聞くときに、心掛けんといかんことは、部下の話の内容を評価して、いいとか悪いとか言うたらあかんということやな。部下が責任者と話をする、提案をもってくる、その誠意と努力と勇気をほめんといかん。

 まあ、部下からすれば、緊張の瞬間ということになるわね。ところが見ておると、大抵が、部下のもってくる話とか知恵の内容を吟味して、それで、「あんたの話はつまらん」とか、「そういうことは以前やってムダであった」とか、「そんなことは、だれでも考えられる」とか、時には「もう、そんな話なら、わかっておるから、聞かなくていい」とか、そういうことで部下の話を聞かない。そういうことを責任者がやるとすれば、責任者として失格や。

■部下の提案が圧倒的に良いものだけならば…

 だいたいが責任者より部下のほうがいい提案を、いつもいつもするようならば、一面、その責任者と部下と、立場を替えんといかん、ということになるわね。部下のほうが優秀だということにもなるからな。

 そうではない。部下の話は、何回かに一回ぐらい、うん、ええ提案だと、ええ知恵やな、ということになれば、それで十分なわけや。それよりもなによりも、部下が責任者のところへ話をしにくる、提案をしてくる、その行動をほめんといかんのや。「あんた、ようわしのところへきてくれた」、「なかなか熱心な人や」、と言うて、まずそれをほめんといかんわけや。その部下が持ってきた話とか提案の内容は、二の次でいい、早く言えばな。

 そうすると部下は、それからなお勉強して、どんどん責任者のところへ話とか情報とか提案とか、そういう知恵を持ってきてくれるようになるんや。なんでもいいから、部下に知恵を持ってこさせる、話を持ってこさせる、それが大事やね。

 そやな、部下は話や提案の内容を、極端に言えば吟味する必要はない。さっきも言ったように内容の吟味は上司の心のなかで、頭のなかでやればよろしい。まあ、そう言っても、部下は部下なりに一生懸命考え、研究して提案したり、話をしたりするもんやから、そうアホなものはないよ。経営者は、たくさんの話や知恵のなかから、あるいは知恵を組み合わせ、自分で考えて考えて考え抜いて、ひとつの決断をしていく。そうすれば、大概は間違いなく経営を進めていくことができる。

 わしは、よくテレビでまげもん(時代劇)を見るけどな、銭形平次な、子分はなんやったかな、ガラッ八か。あれがいつも「親分、たいへんだ、たいへんだ」といって、親分のところへ駈け込んでくるわな。あれが大事なんや。そういうときに親分が、おまえの持ってくる情報はつまらんとか、あかんとか言っとったら、ガラッ八は、来なくなるわな。もう、ああいう親分のところには行きたくない。そう思うのが人情やで。

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最終更新:10/7(金) 9:00

東洋経済オンライン

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