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オーストラリアの社会問題解決を目指すタクシーの取り組み

ニューズウィーク日本版 10/7(金) 16:25配信

ソーシャルイノベーションをサポートする政府系組織[tacsi] (写真:CEOの仕事スペース。一見そうとは思えない、カジュアルで可愛らしい部屋。)


[課題]  政府が解決できない社会課題の解を見つける
[施策]  当事者のなかに入り込んでともに課題を探る
[成果]  豪州のソーシャルイノベーションをリードする存在に


 2009年、オーストラリア州アデレードに、ソーシャルイノベーションをサポートする政府系組織タクシー(tacsi:The Australian Centre for Social Innovation)が立ち上がった。

 発案は、ヨーロッパのソーシャルイノベーション組織NESTAのCEOであるジェフ・モーガン氏による。コ・デザイナーのマーガレット・フレイザー氏によれば、タクシーの存在意義は「長らく改善の見られない社会課題に対し、政府と異なる立場から解決を試みる」こと。

「政府が直接的に『チェンジ』を生み出すのが難しくても、それを促進することは可能。われわれのように、外部から影響を与えられる組織が必要なのです」(フレイザー氏)

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当事者が抱えている課題を時間をかけて理解することから始まる

 初年度の活動は社会起業家に対する融資に留まったが、翌年には「サービスプロバイダ」へと舵を切った。「Family by Family」が最初のサービスである。その内容は、問題を抱えた家族と彼らをサポートする家族を引き合わせるというもの。

 一般的にソーシャルイノベーションはサポート側に回ることが多いが、タクシーは自らが主体となって当事者のなかにどっぷり入り込み、ともに課題を探る道を選んだ。

「調査のフェーズでは、スーパーマーケット等で『家族の話を聞きたい』と告知したところ、素晴らしい反応がありました。出会った家族にインタビューし、十分な時間をかけて彼らが抱える課題を理解していったのです。たとえば、『子供のしつけをよくしたい』『外出する時間が欲しい』。彼らの多くは自分たちの問題を自覚しているのですが、解決方法がわからないでいます」とディレクターのクリス・ヴァンストーン氏は語る。

「Family by Family」を機に、タクシーはソーシャルイノベーションをリードできる存在として認知された。現在は、タクシーとパートナーシップを結びたい大手企業も現れているという。

「企業は、彼らの顧客が生きたい人生を生きる助けをすることに、目を向け始めている。ビジネスとソーシャルは全く別ものですが、しかし一方では、多くのソーシャルグループがビジネスを求め、また多くのビジネスが社会的影響を求めているのです。これこそ社会的革新だと、私は思います」(フレイザー氏)

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調査対象者を招いたワークショップを開く大きな部屋がいくつかある。

25人のスタッフが働いているが、固定席は10席前後。執務エリアもアットホームな雰囲気のデザインになっている。

キッチンスペースは、簡単なミーティングスペースになることが多い。

赤ちゃんを連れて出社するスタッフ多数。



お手製の集中ブース。大きな部屋を区切るパーティションとしての役目も果たす。

(左上)市内にある歴史的建造物の一角をリノベーションしたオフィス。(右上)古い建物を改修しているため個室が分かれている。部屋をつなぐ廊下も作業スペースとして活用。(下)実施したプロジェクトはドキュメントにまとめられ、同じ課題に取り組む人たちのヒントとして役立てられる。

一番大きなワークショップスペース。訪問した際には、さまざまな小道具が無造作に置かれていた。

オフィスの中央にはキッチンや黒板などが集約され職員同士の情報が共有される。

タクシー最大のプロジェクト「Family by Family」

 オーストラリアには家庭の事情から児童保護施設に預けられる子供が多い。「Family by Family」のミッションはその予防だ。「Family by Family」はサポートを必要とする家族とサポートを提供できる家族をマッチングする。

 調査から「"うまくいっている"家族ほど他の家族の世話になっている」ことが明らかになったのである。事務手続きから家族との1対1の話し合い、マッチング作業に至るまで、サービスのプロトタイピングは8週間で終えた。

「全ての家族の立場になってアイデアを練る」(フレイザー氏)。特にマッチングにおいては、「『友人関係になりたい家族』同士を引き合わせる気配りが重要」だとか。

創業:2009年
従業員数:25人
http://tacsi.org.au

コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計:自社

WORKSIGHT 08(2015.10)より

text: Yusuke Higashi
photo: Masahiro Sanbe

プロジェクトに携わった人たちの温かい雰囲気の写真が飾られ、来訪者の気持ちを和ませる。

ワークショップルームの1つ。窓から差し込む自然光、壁面の装飾や床のラグなど、どこか家庭的な雰囲気を感じる。

左がディレクターのクリス・ヴァンストーン氏。右がコ・デザイナーのマーガレット・フレイザー氏。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です


WORKSIGHT

最終更新:10/7(金) 16:25

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北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。