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本質を押さえる能力が高い人は、「落とし穴」を知っている

nikkei BPnet 10/7(金) 10:35配信

 ようやく暑さがやわらいで秋らしくなってきましたね。大学でも後期の授業が本格的に動き出しています。僕がコースリーダーを務める「論理思考とリーダーシップ」クラスでは今期、「受講生をたくましくする」ことをメインテーマにしています。

 「たくましい」とは例えば、「全部授業で教えなくとも、論理思考力を駆使して自分で経験から学んでいける力がある」とか、「プロジェクトで打開策が見えないときも粘り続けられる」などを指します。

 そんなテーマを持って授業の準備に取り組んでいると、時々ハッとすることがあります。それは、自分たちが良かれと思ってやっていることが、実は受講生の「たくましくなる」機会を奪っているかもしれない、ということです。

 例えば、経営学部なのに、ビジネスの題材ではなく大学生にとって身近な例を使って説明や演習をすることは、たくましくすることとは逆行しているかもしれません。

 もっとも、最初に「ダメだ、難しすぎる」とか「こんな小難しいことは自分はいいや」と挫折されては、たくましくなる機会もなくなってしまうので、ハードルの上げ方も徐々に高くしていく必要はあるのですが、それにしても「伝えよう」「わかってもらおう」という、教育に携わる者としての強い欲求に気を付ける必要があります。

 このように、良かれと思って動いているとか、ビジネスの進歩の流れに乗っているのに、実はとても大事なものを失うことになっている、というケースは珍しくありません。そういう事態は避けたいというのはもちろんありますし、こういう状況は同時に「本質を押さえる力」を高める機会でもあります。

 そこで今回は、そんな、「良かれと思って動いた結果、大事なものを失ってしまう事態」を避けるための方法について考えてみたいと思います。

「健康のため」電子マネーを使わない?

 まずは僕自身の例を挙げてみます。僕は、ある時期から電子マネーで買い物をしなくなりました。大きな金額の買い物やネットショッピングではクレジットカードを使いますが、日常の買い物をするときは現金オンリーです。

 これについて、「どうしてだと思う?」と学生たちに聞くと、「無駄遣いしないように」という答えが返ってきます。確かに現金のように目に見えるものでないと、いつの間にか使ってしまうというのはありそうですね。でも、それが理由ではありません。

 一番の理由は、現金で払った方が「面倒くさい」からです。「え? 逆じゃないの?」と思われそうですが、ミスではありません。

 面倒なことをなるべくしないで済むようにしたいというのは、自然な欲求ですし、僕もそうしていることはたくさんあります。でも、面倒なことをやらずに済むようになると、実は人はその分、退化していることがあります。ナビに頼るようになって方向感覚や地図を見る力が落ちる、手書きで字を書かなくなって漢字を忘れる――等々。

 それでもナビやワープロの場合は得られるメリットが圧倒的に大きいと思うのですが、電子マネーの場合、ちょっと楽をするために、良い「脳トレの機会」を失っているように思います。

 現金で払うときに行うこと、財布の中から必要な紙幣や硬貨をつまみ出して相手に渡すという動作は「ちょっと面倒」なくらいに頭と指を使っています(指を使うということは当然、脳で動かしています)。また、日本人は現金で支払う場合に、おつりの硬貨枚数が少なくなるように一瞬で計算しますね。それも財布の中にどんな硬貨がどれだけあるかによって変えたりします。そして、もらったおつりを確認するときにも脳を使っています。

 ついでに言えば、現金で払うと店員も、こちらが渡した金額を数え、レジに打ち込んで、しかるべきところに仕分けて入れるというように頭を使います(最近はこれを全部自動でやってくれるレジもありますが)。現金で払うと、小さな機会ではありますが、このように頭が使われます。

 これが実際にどの程度の効果があるのかは知らないので、十分に科学的とは言えませんが、こういうことを意識して、面倒を排除するか受け入れるかを判断することには意味があるでしょう。

 社会全体に目を向けると、日本ではこれから高齢者の比率がどんどん高まっていきます。生活の中で自然と頭や体を使う機会はなるべく残しておいた方が、実質的な高齢化を遅くできます。そう考えると、最近エスカレーターの設置が増えていることも、再考すべきかもしれません。

 エレベーターと違って、エスカレーターを使えるということは、あれを乗り降りできる俊敏さを持っているということです。その状態でエスカレーターに頼るということは、階段の上り下りという運動の機会を失っているわけです。

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最終更新:10/7(金) 10:35

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