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「ヒラリー」名の新生児がクリントン政権時代に86%減少! ヒラリーはなぜ嫌われる?

HARBOR BUSINESS Online 10/8(土) 9:10配信

◆焦りのトランプVS余裕のヒラリー

 米国大統領選挙は投票日まで約1カ月を残すのみとなり、いよいよ佳境を迎えています。9月27日、ヒラリー・クリントン民主党候補とドナルド・トランプ共和党候補による、第1回テレビ討論会が行われました。初の直接対決を見守ったテレビ視聴者の数は、約8400万人と最高記録を更新し、今回の選挙に対する米国内の関心の高さを表しています。

 放映直後に行われたCNNの調査では、討論の勝者をヒラリーとした視聴者が62%、トランプとした視聴者が27%となり、民主党の圧勝という結果が出ました。明らかに準備不足だったトランプに対し、ヒラリーの周到な準備とイメージ戦略が功を奏したといえましょう。

 討論に際し、トランプはヒラリーをSecretary Clinton(クリントン国務長官)と呼びました。最重要閣僚のポストを担ったヒラリーに対する敬称のようですが、secretaryには「秘書」という意味もあることから、挑発的な含みがあったとも囁かれます。対するヒラリーは討論相手を「ドナルド」とファーストネームで呼び捨てにしました。親しげな風を装いつつ、実は「長官」「知事」「議員」などの政治タイトルを持たないトランプの素人性を強調する計算だったと言われています。

 テレビ討論は、候補者たちが「何を言うか」よりも「どう見えるか」が往々にして勝敗の鍵を握ります。トランプはいつも通り、空手チョップやアコーディオン演奏のようなダイナミックな身ぶりを駆使して熱弁をふるいましたが、「自信」を印象づけるには至りませんでした。ヒラリーが話す段になると、作り笑いをしたり、かぶりをふったり、前後に揺れたりと、むしろ落ち着きのなさが目立ちました。

 一方のヒラリーは終始リラックスした様子で、百戦錬磨の政治家らしい貫禄を示しました。トランプが司会の進行をさえぎりながら「ヒラリーには自制心がない」「自分の気性は大統領にうってつけである」とまくしたてると、「ヒュー、オーケー!」と一息ついて、満面の笑みともに肩先だけでダンスする余裕すら見せました。

 討論が進行するにつれ、トランプはますます焦りをつのらせ、ヒラリーはいよいよ楽しげに振る舞いました。トランプが無軌道にわめきちらす様を、喜劇でも見ているかのように軽やかにあしらってみせるヒラリーの姿は、これまでの「冷酷な、感情を殺した女」というイメージを払拭するのに大いに役立ったことでしょう。

◆ヒラリーはなぜ嫌われる?

 実際のところ、ヒラリーにはトランプと並んで「史上もっとも嫌われる大統領候補」という不名誉な称号がつきまとっています。彼女の不人気は、今に始まったことではありません。例えば、クリントン政権最初の5年間で、「ヒラリー」と名付けられた新生児の数は、86%も減りました。この極端な現象には、間違いなくヒラリー大統領夫人の影響があったことでしょう。「ミシェル」「ローラ」「バーバラ」など、他の大統領夫人の名には見られなかった傾向です。

 古今東西を問わず、上昇志向の強い女性が権力者の伴侶となると、悪女伝説が生まれます。中国の四大悪女と呼ばれる呂后・西太后・則天武后・江青(毛沢東夫人)、日本三大悪女の北条政子・日野富子・淀殿、いずれも共通するのは「最高権力者の妻」ということです。夫を意のままに操る、或いは夫の権威を笠に着る野心家の女性のことを、西洋ではシェイクスピア悲劇の有名なキャラクターの名を借りて「マクベス夫人」と呼びます。夫マクベスをそそのかして悪の道に引きずり込んだ「マクベス夫人」は、そのままヒラリーのニックネームとなってしまいました。

 なぜ「冷血女」呼ばわりされるのか―ヒラリーは自分のイメージの由来を「Humans of New York」というブログで明かしています。彼女がハーバードの大学院入試に臨んだ時、女性の受験者はヒラリーとその友人だけでした。試験官の到着を待つ間、男性受験者たちは女性ライバルに罵声を浴びせました。「なんでここにいるんだ」「他にすることがあるだろう」「お前のせいで落ちたら俺はベトナム戦争に行って死ぬんだぞ」。暴言が飛び交う中、ヒラリーはうつむいて沈黙するしかなかったといいます。

「自分が『高慢で冷たく感情がない』と言われるのは承知しています。でも若い頃から、私は感情を抑えて生きなければならなかったのです――自分を守るために」

「私はバラク・オバマではない。ビル・クリントンでもない。2人とも自然体が魅力ですが、私は彼らが自然に振る舞うために、どれほど努力をしているかを知っています。1人は私の夫で、1人は上司ですから」

「私も拳を振りかざし、大声を上げて情熱的に演説をしたい。でも女性が男性と同じことをすれば『耳障り』『きつい』と批判されるのが現実です」とのヒラリーの話には、多くの共感コメントが寄せられました。

 テレビ討論会でのヒラリーの姿勢は、女性の連帯意識を刺激したようです。トランプが51回にわたってヒラリーの発言をさえぎっても、ヒラリーは怒りを見せませんでした。「私の気持ちが分かるでしょう」とでも言いたげに、黙ってカメラを見つめ、視聴者と目を合わせました。トランプ支持者だった一女性は「ヒラリー支持に転向したわ。私の話をすぐにさえぎって話し出す元ボーイフレンドを思い出したから」と語っています。

◆離婚経験者の大統領はロナルド・レーガンだけ

 討論の終盤で、ヒラリーは、元ミス・ユニバースのアリシア・マチャドに対するトランプの侮辱発言を取り上げて、敵をうろたえさせました。かつてトランプは体重が増えたアリシアを「メス豚」、また彼女がラテン系であることから「家政婦」と呼んでいたのです。トランプの性差別・人種差別・階級差別を暴き立てるのに充分なエピソードでした。

 女性差別者というイメージが決定づけられてしまったトランプですが、次回の討論会では、ビル・クリントンの女性問題を種にヒラリーを攻撃すると予告しています。ヒラリーの夫ビルは、大統領在任中に「不適切な関係」にあったと認めたモニカ・ルインスキー以外にも、多くの女性スキャンダルを指摘されています。そして不貞な夫をかばい、許し、今なお結婚生活を続けるヒラリーにも、批判の矛先は向けられてきました。ただし、女性問題を俎上に乗せれば、3度の結婚歴のあるトランプ自身も無傷ではいられないでしょう。ビルの不倫の最大の被害者であるヒラリーに連帯責任を負わせる前に、自らの首を絞めることになりかねません。

 大統領選挙にまつわる、一つの興味深い統計があります。「2組のうち1組は離婚する」といわれる離婚大国・アメリカでも、離婚歴のある大統領は過去43人中ただ1人、ロナルド・レーガンしかいないのです。

 離婚経験者が大統領選に出馬しないわけではありません。過去20年の大統領選に出馬して敗れた5人の最終候補の内、最初の結婚を維持しているのはモルモン教徒のミット・ロムニーだけです。ボブ・ドール、ジョン・ケリー、ジョン・マケインの3人は離婚経験者、アル・ゴアは結婚生活の破綻を公言しています。

「離婚すると大統領になれない」というジンクスを、3度の結婚を繰り返しているトランプが破れるのでしょうか。初の直接対決ではヒラリーにリードを許したトランプ陣営が、今後どのように巻き返しを図るのか。10月9日の第2回テレビ討論会が待たれます。

<取材・文/羽田夏子 写真/Veni>

●はだ・なつこ/1984年東京生まれ。高校から米国に留学。ヒラリー・クリントンの母校であるウェルズリー大学を卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科にて国際関係学修士を取得。国連機関インターン、出版社勤務を経て、翻訳編集プロダクションを立ち上げる。日本メンサ会員。

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:10/8(土) 9:20

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