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「キトラ古墳の被葬者は誰?」発掘担当者に聞く

週刊SPA! 10/8(土) 9:10配信

 極彩色の壁画で注目され続ける、奈良県明日香村のキトラ古墳。9月24日、その周辺地区が歴史公園としてオープンした。石舞台地区、高松塚周辺地区などを含む「国営飛鳥歴史公園」の第5番目の地区となる。

⇒【写真】「四神の館」にある石室のレプリカ

 当日、地元幼稚園児によるわらべ太鼓演奏でスタートした記念式典では、田中良生国土交通副大臣らが挨拶。高取国際高校吹奏楽部によるオープニングコンサートや海獣葡萄鏡作り体験、古代衣装体験など、さまざまなイベントが開催され、多くの人で賑わった。

 かつては2013年のキトラ古墳石室一般公開や、翌年の東京国立博物館の「キトラ古墳壁画展」に古墳好き・古代史好きが殺到。いまだに多くの人を魅了するキトラ古墳だが、まだ謎の部分が多いという。

 そこで実際にキトラ古墳の発掘調査を担当した、明日香村教育委員会文化財課調整員の西光慎治(さいこう・しんじ)さんに話を伺った。

◆古墳に描かれた天文図は、朝鮮半島・中国大陸の星空だった

――キトラ古墳の被葬者が天皇である可能性はありますか?

西光:古墳時代終末期の天皇陵は、一般的に八角形をしていた(八角墳)と考えられています。キトラ古墳は円形(円墳)であることから、その可能性は低いでしょう。

 宮内庁によって天皇陵だとされている「天武・持統天皇陵(野口王墓)」は鎌倉時代に盗掘にあっていて「石室内が一面朱に塗られていた」という記録はありますが、キトラ古墳のように四神や天文図などの壁画が存在したとの記録はありません。また他の終末期古墳でも漆喰を塗った古墳はありますが、壁画は描かれていませんでした。

 つまり、天皇陵やその他の階層のお墓にも壁画を描く習慣がなかったのでしょう。また、マルコ山古墳はキトラ古墳と同様の石室構造をしていますが、壁画はありませんでした。同じ形態をした古墳でも壁画の有り無しがあり、さらに飛鳥の他の終末期古墳でも壁画が存在しないことからみても石室内に壁画を描くことは主流でなかったことがわかります。

――キトラ古墳や高松塚古墳のある「檜隈(ひのくま)エリア」とは、当時どのような場所だったのでしょうか?

西光:飛鳥時代には渡来系の東漢氏(やまとのあやうじ)一族の氏寺とされる檜隈寺が建立され、渡来系の人々が住んでいたオンドル(朝鮮半島で普及している床下暖房)のある建物などの遺跡がキトラ古墳周辺で確認されています。

 実は、キトラ古墳の石室に描かれている天文図は、高句麗(平壌)や中国(洛陽・長安)の星空であったという説が出されています。これらの条件で考えると、キトラ古墳の被葬者は中国や朝鮮半島にルーツのある人と考えることもできます。

 飛鳥(檜隈)の地にお墓を造ることができた人物となると、いったい誰でしょうか。中国や朝鮮半島の思想や文化が反映された石室内の壁画が重要な鍵をにぎっています。そう考えると壁画の存在は被葬者像を考える上で手がかりになると思います。

◆天文観測を担っていた皇族や高位高官の可能性も!?

――ほかの説についてはどうでしょうか?

西光:一方で「王宮の南西側に王族の墓を設ける」という中国の制度に紐づけると、このエリア一体がその陵園にあたるとされています。またこの時代、王権の大事として天文観測が行われてきました。

 つまり、キトラ古墳の精緻な天文図を描くことができる知識や技術を有していたのは、限られた階層の人々であったと考えることができます。そうすると、被葬者は皇族(天武天皇の皇子たち)や実務にあたる高位高官が候補にあがってくると思います。

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 どの情報を優先するかによって被葬者は異なってくるようだ。古代に活躍した人々のお墓(古墳)や遺跡が千数百年の時を経て目の前にあり、飛鳥時代を体感することができることこそ、明日香村を訪れる最大の魅力だろう。現地に行ってキトラ古墳壁画体験館「四神の館」で学び、被葬者や当時の風景について思いを馳せてみてはどうだろうか。

【西光慎治氏】

大阪府生まれ、明日香村教育委員会文化財課調整員。明日香村教育員会文化財課主任技師を経て2014年から現職。博士(文学)。関西大学非常勤講師。

【キトラ古墳壁画体験館「四神の館」】

 キトラ古墳の資料館であるとともに、壁画を保管する施設でもある。地下1階では、実物大の石棺や壁画などをシアターによる解説で楽しめる。

 周辺地区には古代ガラス作りを体験できる工房や、檜隈寺跡などの展示が見られる休憩所など、見どころも多い。週末には、勾玉づくりや富本銭づくりなどの体験プログラムも実施。飛鳥駅から四神の館のある周辺地区まで、1日5本の直通バスが走っている。また、飛鳥駅前などにはレンタサイクルもある。

※明日香村の観光情報については、明日香村の観光ポータルサイト「旅する明日香ネット」を参照ください。

取材・文・撮影/鈴木 麦(ライター、老舗企業・古代史研究家)

日刊SPA!

最終更新:10/8(土) 10:57

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