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【ニッポンの家電物語】世界初の防水対応ソーラーケータイ『SOLAR PHONE SH002』

@DIME 10/9(日) 11:10配信

世界の最先端を突っ走ったニッポンの家電たち。時代を先取り、何よりも人々に夢と希望と驚きを与えてくれた傑作・迷作家電を、アツく語っていく。

第1回は世界初の防水対応のソーラー充電を可能にした、au「SOLAR PHONE SH002」(2009年5月29日より発売)をご紹介する。

■早過ぎた!? 太陽光で充電できるソーラーケータイ

 今や国内の半数を超えるところまで普及したスマートフォン。ここ1~2年で製品の完成度も高められてきた一方、デザイン的にはスレート状(板状)のボディを採用したものがほとんどで、今ひとつ個性が感じられなくなってきた印象もある。

 そんなスマートフォン全盛の今から振り返ること、約7年前。各社の個性的なケータイが華やかだった時代に、それまでにない新しいアプローチを取ったケータイがあった。太陽からの光で充電できるソーラーパネルを備えたauのシャープ製端末『SOLAR PHONE SH002』を覚えているだろうか。

 屋内を中心に利用する家電製品と違い、ケータイは当然のことながら、主に外出先で利用する。そのため、本体に内蔵されたバッテリー(電池パック)に電気を蓄え、それを使って、通話をしたり、さまざまな機能を利用する。現在のスマートフォンは最近の「ポケモンGO」を見てもわかるように、バッテリーの消費が大きく、すぐに充電が必要になってしまう。これに対し、当時のケータイはフル充電にしておけば、現在のスマートフォンよりも確実に長時間、使うことができた。とは言え、当時のケータイはiモードなどの各携帯電話会社のコンテンツサービスをはじめ、ワンセグやカメラ、おサイフケータイ、非常に高機能であったうえ、通信の高速化や指定通話定額サービスによる通話時間の増加などもあり、電池残量を気にすることが増えていた。

 そんな中、2009年3月にauから発表されたのがシャープ製の『SOLAR PHONE SH002』だった。SOLAR PHONEはディスプレイ部が反転する二軸回転式の折りたたみボディを採用し、端末を閉じたときの表面側(トップパネル側)に備えられたソーラーパネルを使い、太陽の光で充電することができた。10分のソーラー充電で1分程度の通話、もしくは2時間程度の待受が可能とされ、それまでになかった新機軸の機能に業界内でも話題になったことを記憶している。

 現在は東日本大震災以降、政府が力を入れていることもあり、自然エネルギーが注目を集めているが、それ以前の2009年に、なぜ、こういう端末が企画されたのだろうか。

 当時、『SOLAR PHONE SH002』のプロダクト担当だったKDDの小林敦氏(現在は同社ビジネスIoT営業部)によれば、「当時はケータイの全盛期で、他製品にはない何か抜きん出たものを探していて、そのひとつとして、ソーラーというデバイスが候補に挙がった」と当時を振り返る。シャープは住宅向けソーラーパネルでトップシェアを持ち、太陽光発電の変換効率でも高い性能を示していたこともあり、SOLAR PHONEが企画され、auに提案されたそうだ。他製品にはない新しいデバイスだったが、はじめてソーラーパネル搭載ケータイの提案を受けたとき、小林氏は「シャープさんのソーラーパネルの充電性能の良さはわかっていたが、ケータイのサイズに落とし込んだとき、はたして十分な性能が得られるかどうかは少し不安だった」という。

 また、KDDIで現在のシャープ製スマートフォンを担当する中村智果氏(プロダクト企画部)は、当時、カタログの制作などを担当しており、各社の個性的なケータイが数多くラインアップされていた時期だったこともあり、「カタログに記載するための新機能などを各担当に聞くのが楽しかった」と当時を振り返る。ちなみに、当時のauはエコとスポーツに積極的に取り組んでおり、その意味合いからも『SOLAR PHONE SH002』の開発が後押しされたという。

■ 住宅用ソーラーモジュールをベースに開発

『SOLAR PHONE SH002』に搭載されたソーラーモジュールは、シャープが住宅向けソーラーパネルとして供給する製品をベースに、携帯電話向けに新たに開発された多結晶シリコンによるソーラーセルで、半導体などのパッケージング技術を活用することにより、モジュール部分は当時の業界最薄レベルの0.8mmに抑えられたものだった。性能的には最大300mWという高出力を実現していたが、「ソーラー充電」という言葉に対する一般消費者の認識とは少し違う部分があり、解説記事などでは少し注釈が必要だった。

というのも一般的に、光で充電する身近な製品としては、電卓や腕時計などがあり、室内でも蛍光灯などの明かりで充電することが可能だ。しかし、ケータイは消費電力が大きく、電卓用などのソーラーパネルでは出力がまったく足りない。そこで、シャープは住宅向けソーラーパネルをベースに高出力の専用ソーラーモジュールを開発し、『SOLAR PHONE SH002』に搭載したわけだが、このソーラーモジュールの充電は蛍光灯などではなく、太陽光、もしくはそれに相当する強い光を当てなければ、充電できないという仕様だった。ちなみに、太陽光については、地域によって、高さや時間帯による差があるため、開発時はauとシャープの関係者が各地に飛び、向きなどを検証しながら、どれくらいの効率で充電できるのかを調べ、それを取扱説明書に反映したという。

『SOLAR PHONE SH002』は陽当たりのいい場所で太陽光に向けて充電するため、端末本体が高温になってしまう可能性があるが、その場合はソーラー充電が停止するしくみが採用されていた。同様に、電池残量が約80%以上、残っているときも電池パックを保護するため、充電されないように設定されていた。

 また、端末は折りたたみボディのため、閉じた状態ではディスプレイを確認できないため、充電状態などを表示するためのサブディスプレイがソーラーパネルの横に装備されたのも面白い特徴だった。サブディスプレイには電子ペーパーが採用され、充電状態をアイコンで表示できたが、最近でこそ、電子書籍ビューアーなどで、電子ペーパーの採用は多いものの、当時はまだ携帯電話などへの採用が少なく、ソーラーパネル同様、先進的なデバイスをいち早く採用した端末となっていた。

この他にもソーラー充電量を待受画面に表示する待受Flashを提供したり、今となっては当たり前だが、電池残量を3段階のピクト表示からパーセント表示に切り替えられるようにするなど、『電池』をキーワードに、ソフトウェアもさまざまな工夫が盛り込まれていた。

 太陽光による充電が可能な『SOLAR PHONE SH002』だが、開発には難しいところはなかったのだろうか。前述の小林氏に聞いたところ、意外なところに苦労したのだという。「実は、メーカーからサンプル(試作)を出してもらったところ、ソーラーパネルの色というか、黒さにバラツキが出てしまったのです」

 つまり、住宅用ソーラーパネルであれば、屋根などに敷き詰めて設置するため、わずかな色合いの差があっても気にならないが、携帯電話の場合、ソーラーパネルを手近で目視できるため、わずかな色合いの違いが明確にわかってしまい、複数の端末を並べると、ハッキリと識別できるほどの差ができてしまったというのだ。『SOLAR PHONE SH002』はauの製品として販売する以上、ソーラーパネルの色合いとは言え、個体差があることは好ましくないため、品質管理部門と協議し、一定のパーセンテージで許容範囲を決め、最終的な出荷を決めたという。

 また、シャープ側で苦労したと言われるのは、構造が複雑な二軸回転式のヒンジ部分の防水処理だったという。一般的な折りたたみボディの防水処理の技術はすでに確立されていたが、二軸回転式の防水端末はシャープとしても初の取り組みだったそうだ。

■ 思ったほどの大ヒットには結び付かなかったが……

 こうして世に送り出されたSOLAR PHONE SH002だが、実際の市場での反響はどうだったのかというと、「思ったよりは売れなかった」(前述・小林氏)のだという。

 冒頭でも説明したように、ケータイは本体に内蔵されたバッテリーを使い、動作させる。そのバッテリーを充電するため、端末にソーラーパネルが装備されていれば、太陽光が当たるところに置いておくだけで、いつでも充電することができる。

 しかし、実際の利用シーンで考えてみると、国内の都市部で利用している限り、比較的、電源を確保しやすい環境にあり、ACアダプタを持ち歩いていれば、何らかの形で充電することが可能だ。しかもソーラーパネルによる充電は条件が整ったところで、10分の充電で約1分の通話か、2時間の待受、90分の充電で約9分の通話か、約9時間20分の待受が可能になるとされていたが、『SOLAR PHONE SH002』はACアダプタなら、約2時間20分でフル充電が可能なため、より短時間で電池残量を回復させられたわけだ。筆者も当時、実機を購入し、何度も外出して充電を試していたが、どちらかと言えば、わざわざ充電のために陽の当たる場所を選ぶ必要があったことを記憶している。

 また、携帯電話の場合、どうしても避けられない問題として、端末の売れ行きが価格設定に大きく左右されてしまうことが挙げられる。今年も総務省や公正取引委員会によるスマートフォンの「実質0円販売」に対する指導が話題になったが、当時もやはり、さまざまな形での値引きが行なわれており、「端末そのものの魅力よりも店頭価格が優先されてしまった」(前述・小林氏)のだという。

 ただ、このソーラーパネルによる充電というスタイルは、特定のジャンルの人たちに受け入れられたのも事実で、登山愛好家やアウトドアを楽しむ人たちには、電源のないところでも充電ができるということで、SOLAR PHONEが支持されていたようだ。さらに、『SOLAR PHONE SH002』の発売から2年後、東日本大震災が起き、各地に大きな被害を与えたが、このときも「停電時にSOLAR PHONEで充電ができた」というエピソードが各地からSNSなどを通じて伝えられていた。

 ところで、現在のスマートフォンで再びソーラーパネルを装備した『ソーラースマホ』を企画することはできないのだろうか。小林氏と中村氏によれば、「スマートフォンはケータイに比べ、格段に消費電力が大きいうえ、端末を操作する時間も長くなっているので、現在のソーラーパネルでスマートフォンの電力消費をまかなうことは難しいだろう」という見方を示した。ソーラーパネルを本体に搭載するより、モバイルバッテリーやACアダプタでの充電の方が実用的というわけだ。

今、振り返ってみると、『SOLAR PHONE SH002』は『ソーラーパネル』というデバイスありきで企画された印象もあるが、エポックメイクなケータイであったことは間違いない。中村氏が「カタログ制作などのために、各担当に特徴を聞くことが楽しかった」という言葉からもわかるように、当時は各社のケータイにはさまざまな知恵と最先端の技術が盛り込まれ、各社の激しい競争がくり広げられていた時代であり、そういう時代だからこそ、生まれてきたと製品と言えるだろう。

 ちなみに、その後、2010年6月には後継モデルとなる『SOLAR PHONE SH007』が発売され、発電効率が10分の充電で約2分の通話、約3時間の待受が可能になる仕様を実現していた。

この後継モデルに搭載されたソーラーモジュールは、シャープが当時、開発したばかりの『BLACKSOLAR(ブラックソーラー)』と呼ばれる製品の技術をいち早く取り込んだものだった。このBLACKSOLARは現在、シャープが住宅用太陽光充電システムに採用しているもので、業界トップクラスとなる変換効率を実現し、各方面から高い評価を受けている。『SOLAR PHONE SH007』発表当時は開発直後だったため、BLACKSOLARの名称は使われなかったが、ソーラーケータイに搭載された技術によるソーラーパネルが今も各地の住宅の屋根で力強く発電を続けているというわけだ。

取材・文/法林岳之(ほうりん・ たかゆき)

@DIME編集部

最終更新:10/9(日) 11:10

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