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もはや「事件」!? 少女に誘拐された大学生の奇妙な監禁生活を描く西尾維新原作のコミカライズ『少女不十分』レビュー

おたぽる 10/10(月) 11:00配信

 もはやTVアニメだけに留まらず、劇場アニメ化まで果たした『<物語>シリーズ』を代表とする、数々の作品を世に送り出してきた西尾維新氏の原作を、『さんかれあ』でアニメ化を果たした、はっとりみつる氏がコミカライズするという、豪華なタッグで刊行されたのが『少女不十分』(ともに講談社)である。第1巻の表紙の少女を見て、ゾッとした読者も多いかもしれないが、別にこの作品はホラーではない。むしろ、幽霊や異形の出て来る本当のホラーであってくれれば、いくらかマシだと思えるほどに、心をえぐる物語なのである。

 ある作家志望の大学生が、通学途中でとある事故現場に遭遇して、そこに居合わせた少女のある問題行動を見てしまったがために、「U・U」(ここでは敢えてイニシャル表記にされている)と名乗るその小学4年生の少女に拉致監禁されてしまう──と書くと、まさか大学生が本当に小学生に誘拐されるわけがないと常識では考えるだろう。しかし現実に、彼はUの家の物置に監禁されてしまった。もともと破綻した計画であったのに、それが逆に足かせとなって彼は逃げ出せず、不可解な一週間を送ることになってしまう。

 10年後の主人公の視点から語られるこの物語は、正確に言うなら「物語」ではなく「事件」である。小学生による、大学生の拉致監禁事件。なんというおかしな響きだろう。彼は一週間の監禁生活の中で、Uのおかしな行動や性質を肌で感じ、危険ながらも不可思議な人間関係を築いていく。それは「信頼関係」と呼ぶにはあまりにも危ういが、二人の間に何かしらの感情を芽生えさせるのには十分な接点となった。彼はUを「少し頭のおかしな子」と思っていたが、監禁されていた物置の扉をレールから外すという方法で自由を得て、Uの家の中を探索してみると、そのあまりの不自然ぶりに驚愕させられることになる――。

 挨拶にこだわり、言われたことを素直に聞くという、誘拐犯にあるまじき態度を見せるU。そんな彼女の両親に興味を持った主人公は、Uの留守中に自宅内にその手がかりを探す。本当はすでに、この家に連れてこられた時に気づいていたのかも知れないと、10年後の彼は語るのだが、まだこの時の彼はあまりにも未熟で、本当の現実から目を逸らす性格でもあったため、最後まで事実は隠されたままだ。

 監禁最終日にUの部屋で見つけたノートを見て、彼はすべてを理解した。Uが何故友人が事故に遭った現場であのような行動をとったのか、どうして彼の言うことを素直に聞いていたのか、どこまでも挨拶にこだわっていた理由も……。親のしつけという単純な原因は、Uにとっては実に重い鎖となっていたのだろう。彼は学校から帰ってきたUを、敢えて監禁されていた物置ではなく、玄関で出迎える。「疲れた」と最後の力を振り絞ってUが彼に頼んだのは、「お話してください」という簡単なのに困難な望みだった。

 そして作家志望の大学生は語り始める。それは有名な夢のあるおとぎ話でも、勧善懲悪の爽快な物語でもない。ただ、どんなに道を外れた者でも、間違って社会から脱落してしまった者でも、そこそこ楽しく、面白おかしく生きていけるものだという、彼だけの創作話を紡いだのだ。やがて事件はあっさりと幕引きされる。そして後日談も語られるが、それは読者が自分自身の目で確かめて欲しい。原作小説では主人公の心模様が大きく語られているが、マンガでは絵がつく分、またリアルに感じられるだろう。「これって本当にフィクション?」と言わしめた作品を、マンガと小説の両方で味わってみると、尚一層楽しめるはずだ。
(文/桜木尚矢)

最終更新:10/10(月) 11:00

おたぽる

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