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二刀流、160キロ超え……4年という月日を積み上げて、球界の常識を覆した大谷翔平

ベースボールチャンネル 10/11(火) 17:02配信

高校時代の藤浪と大谷の違いは”完成度”

 鳥肌が立った。
 
 優勝を決めた9月28日の西武戦の試合後に語った大谷翔平の言葉に、この4年間、いや高校時代からの成長を感じずにはいられなかった。

「きょうは僅差の試合だったし、フォークはいらないと思ってほとんど使いませんでした。特に追い込んでからはストレートとスライダーだけでいいかなと。点差が1点でしたしね。フォークのほうが失投になりやすくて危ないので」

 2種類の球種だけで抑えられる。
 その言葉尻だけを捉えれば、何とも大胆なやつである。ややもすると“ビッグマウス”のような印象を受けるかもしれないが、それが言いたいのではない。大谷はたどりついたのだ。大きな山を乗り越えたその瞬間に立ち会えたことに感動を覚えたのである。

 思い出すのは5年前に花巻で聞いた大谷の言葉だ。

 ドラフトを控えたちょうど今頃、同じく注目されていた藤浪晋太郎(阪神)と大谷をインタビューする企画で取材したものだが、その時に大谷がしきりに語っていたのが「完成度」という言葉だった。

 それは150キロのストレートを持ち、スライダー、カットボール、フォークをコーナーにコントロール良く投げて、春夏連覇を果たした藤浪との自身の違いを挙げてそういう言葉が出てきたのだ。

 大谷の言葉を反芻する。

「(藤浪君は)高校生ですけど完成されていますよね。春・夏連覇という結果出たこともそうですけど、投球自体が安定しています。ストレートと変化球とのコンビネーションがいい。打者として対戦したときも、スライダーとカットボールの印象が残っています。完成度が高いピッチャーだったなぁと」

 一方、当時の大谷には、欠けている部分があった。
 今になって思えば、それは成長過程の一部分にすぎないのだが、大谷が羽ばたいていくためには乗り越えていかなければならい高い壁だったのだ。つまり、それがスライダーだった。

高校時代にスライダーの多投を避けた理由

 高校時代の大谷は、スライダーを多投していない。できなかったと言ったほうがいいかもしれない。
 なぜなら、スライダーを投げることの弊害がピッチングフォームに出てしまうからだ。
 高校時代の恩師である花巻東の佐々木洋監督が、大谷にある癖についてこんな話をしている。

「スライダーを投げると、大谷の身体の動きが横ぶりになるという悪い癖があったんです。スライダーって怖い球で、投げると非常に楽なんですよね。多少、ひじを下げても抑えられます。でも、それだと本当に速い球を投げる投手になれないんです。だから、高校の時は、ストレートを極めるためには、スライダーを禁止していた時期のほうが多かったです」

 もし、高校時代に大谷が勝利を優先してスライダーを多投していたなら、勝てる投手に近づいていたかもしれない。しかし、高校3年夏の岩手大会でマークした160キロには届かなかったという見方もできるのだ。

 高校生時分での「完成度」を置き去りにした。つまり、勝てるピッチャーにはなれなかったのだが、大谷にはこだわりがあった。

 大谷も当時、こう話している。

「スライダーを投げすぎると、ストレートがシュート回転する癖があったんです。身体が横ぶりになるからですけど、ストレートに影響が出たりするのが嫌だったので、スライダーは投げすぎないように、と。だから変化球はカーブを投げるようにしていました。それだと体を縦に振ることができますから。身体を縦に振りながらスライダーを投げることができるようになれれば良いんですけど、そこはこれから考えていかなければいけないことかなと思います」

 もっとも、そうした癖は大谷だけが陥るわけではない。
 かつてはPL学園高校時代の前田健太(ドジャース)にも同じような経験があった。前田も高校時代はスライダーを投げていない。今の姿を見れば想像もつかないだろうが、前田はスライダーを投げるとストレートの質が悪くなることを危惧していたのだ。プロ入り後、身体ができるのを待って、前田はスライダーを習得したのである。

 いわば、9月28日の試合、大谷がストレートとスライダーだけ1安打完封を果たした背景には、そうした彼の4年間の積み重ねがあるというわけである。

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最終更新:10/11(火) 17:02

ベースボールチャンネル