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電通「過労自殺」事件にみる労働生産性の低さ --- 池田 信夫

アゴラ 10/11(火) 16:40配信

電通の1年生社員が昨年末、自殺した事件が労災と認定された(http://digital.asahi.com/articles/ASJB767D9JB7ULFA032.html)。その原因をめぐっていろいろな論議が起こっている。彼女の遺したツイッターに苛酷な労働実態が記録されていたからだ。

彼女のいたデジタル・アカウント部はインターネット広告を担当しており、この時期に電通は111社に633件の不正請求(合計2億3000万円)を行なっていたことが今年9月に発表された。トヨタが7月に指摘したことが発端だが、それまでにもクライアントから苦情が来ていたと考えられる。彼女もその実態を知っていただろう。

“部長「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」
わたし「充血もだめなの?」
― まつり (@matsuririri) October 30, 2015”

自殺との因果関係は不明だが、労基署の認定した残業時間は105時間で、極端に多いわけではない。これだけで自殺していたら、毎月200時間以上残業している霞ヶ関では自殺者が何万人も出るだろう。問題は彼女のツイッターに残されている労働環境だ。

“休日返上でつくった資料をボロくそに言われた。もう体も心もズタズタだ。”

“もう4時だ。体が震えるよ… しぬ。もう無理そう。つかれた。”

資料づくりに朝4時まで残業するという昭和的な仕事のやり方が、日本のホワイトカラーの労働生産性が低い原因だ。先週のアゴラ経済塾(http://agora-web.jp/archives/2021363.html)でも議論したが、日本の職場は上司や同僚との長期的関係で情報を共有することが目的なので、ネットワークでできる仕事でも大部屋でやる。

そもそもインターネット時代に「広告代理店」という仕事が必要なのだろうか。今は彼らがネット・リテラシーの低い企業に代わって広告を出しているが、ネット広告の規模はグーグルのほうがはるかに大きい。電通の社員は、グーグルのコンピュータがやっている仕事を人海戦術でやっているのだ。

その結果、グーグル(Alphabet)のROE(株主資本利益率)が14.8%なのに対して、電通は4.8%。時価総額はアルファベットの55兆円に対して、電通は1.5兆円だ。それでも電通は日本では高収益の独占企業であり、多くの企業はもっとひどい。日本の会社は、世界から取り残されてしまったのだ。

気の毒だが、電通社員が明け方まで資料づくりをしても、グーグルには絶対に勝てない。仕事のやり方が根本的に間違っているからだ。本来は電通のような低収益企業が市場から退場してグーグルのような新しい企業が出てくるはずだが、資本・労働市場がそれを許さない。これが日本の潜在成長率が低い原因である。

池田 信夫

最終更新:10/11(火) 16:40

アゴラ

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