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ノーベル賞研究は「役に立つ」のか? 近視眼的見方に“待った”の声が噴出

nikkei BPnet 10/11(火) 16:52配信

 毎年10月の前半はスウェーデン、ノルウェー両国がノーベル賞受賞者を発表する「ノーベル賞ウイーク」だ。日本からは過去2年、連続で受賞者が出ていたが、2016年も新たに一人の受賞者が誕生した(11日時点、ノーベル文学賞は13日発表)。

 2016年は、分子細胞生物学者の大隅良典氏(東京工業大学栄誉教授)が単独で生理学・医学賞を受賞した。細胞の内部で、不要あるいは有害なたんぱく質が分解される「オートファジー(自食)」が起こる仕組みの解明に関する研究が認められた。その受賞記者会見における大隅氏の発言がネット上で大きな話題となっている。

●基礎研究は「すぐに役立つ」とは限らない

 話題となっているのは以下の発言部分だ。「1つだけ強調しておきたいことは、私がこの研究を始めたときに、オートファジーは必ずがんにつながるとか、人間の寿命の問題につながるということを確信して始めたわけではありません。基礎的な研究っていうのはそういうふうに展開をしていくもんだということを、ぜひ理解をしていただければと思います。基礎科学の重要性をもう一度、強調しておきたいと思います」(引用元:ノーベル生理学・医学賞を受賞大隅良典氏の会見(全文1)少年時代からの夢、THE Page、記者会見映像:ノーベル医学生理学賞に選ばれた大隅良典氏会見(ノーカット)、時事通信ニュース映像センター)。

 この発言部分は、時間の都合でテレビなどのニュースではカットされている場合が多いようだ。しかし、ノーベル賞受賞に浮かれる世間一般のお祭りムードとは別に、ネット上では大隅氏の研究環境に対する危機意識を敏感に察知し、賛同の声を上げる人が数多く出ている。

「何で?」「知りたい」という気持ちを長期的視点で支える仕組みを

 もちろん、オートファジーの研究が役に立っていないというわけではない。細胞が持つ基礎的な能力であるオートファジーは、最後には細胞自身を分解してしまう作用でもある。その機能はがん細胞の抑制のための研究を進める基礎となっているし、アルツハイマー病やパーキンソン病など、細胞内に感染する特定の疾病の治療方法の解明に「役立っている」ことは間違いない。

 だが、大隅氏自身が「オートファジーが原因でこんな病気になりました、ということの因果関係がわかっているのは、まだ本当にほとんどありません」と述べている。(参考記事:ノーベル賞大隅氏「“役に立つ”という言葉が社会をダメにしている」賞金は若い研究者のサポートに、ログミー)

 実際、記者会見では、ある記者が「それ(オートファジー)が何に役立っているんでしょうか?」という質問を投げかけている。大隅氏はその質問には「役に立っているかという答えは難しいんですが、そういうのが生命の本質だとすれば、そのことの理解なしにはいろんなことができないだろうと思っています」とやんわりと回答しているが、のちに別の記者から科研費の請求でも「どう役に立つのか」を書かないとなかなか請求できない現状について意見を求められると、以下のように「本音」を漏らした。

「私は『役に立つ』という言葉はとっても社会をダメにしていると思っています。科学で数年後に起業化できることと同義語みたいにして使われる『役に立つ』って言葉は、私はとっても問題があると思っています。本当に役に立つことは、10年後かも20年後かもしれないし、実をいうと100年後かもしれない。そういう社会が将来を見据えて、科学を1つの文化として認めてくれるような社会にならないかなということを強く願っています」

 その上で、大隅氏は800万スウェーデンクローナ(約9500万円)ともいわれるノーベル賞の賞金を、基礎研究を志す若い人を支える仕組み作りに使いたい意向を述べた。

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最終更新:10/11(火) 16:52

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