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映画監督 西川美和さんが「モノを増やしたくない」理由

NIKKEI STYLE 10/12(水) 7:47配信

 オリジナルストーリーを生み出して『ゆれる』『ディア・ドクター』など映画を監督し、小説やエッセーでもファンの多い映画監督の西川美和さん。前編(「『これじゃないとダメ』な創作ノートの条件」)ではノートやペンなどの仕事道具を中心に語っていただきましたが、後編では、劇中に出てくる家具などのモノの選び方、プライベートでのモノとの向き合い方などについて語っていただきます。

 新作『永い言い訳』は、妻を事故で亡くした人気作家の津村啓こと衣笠幸夫が、同じく妻を亡くしたトラック運転手・大宮陽一と出会い、その子どもたちの世話をするうちに作家としても再生していくというストーリー。西川監督は「衣笠家」と「大宮家」という対照的な2つの家庭を、どのように形作ったのでしょうか?

■部屋の中にあるモノが、キャラクターを物語る

 映画の中のモノは、いつも美術や小道具などのスタッフと相談しながら決めていきます。

 『永い言い訳』の大宮家の人たちは、ある意味、安物買いの人たち。いいなと思ったら、どんどんモノを買うので、生活空間にはいろんな色があふれていく。雑多で、にぎやかで、洗練されていない。大宮陽一は、ほとんど家事をやったことのないような男なので、洗濯物も整然と干されず、靴下は裏返し、パンツも裏返し、そこに止めるんじゃない!ってところに洗濯ばさみでつまんでいたりする(笑)。

 かたや幸夫の部屋は、ある意味、無駄を省くのがうまそうな奥さんがいたこともあって、洗練されている。「さすがですね」と編集者たちに言ってもらうのも見越して、インテリアは有名デザイナーのものを置き、しかも一番有名なものではなくて、ひとつマイナーな椅子を置いていたりする。

 そうやって大宮家と幸夫の空間を対比させるとともに、整然としていた幸夫の空間が、奥さんが不在となることでどれだけ崩れていくか、というところも、時間をかけて考えた気がします。

 私が考えるのが得意なのは、大宮家的なものの方ですね。どうしたらスタイリッシュな空間になるか、というアイデアは私の中にはあまりない。でも、大宮家をどうやったら汚せるかは、よくわかっている(笑)。

 それは私が普通の家庭に育ったからだと思いますが、もともときっと、あんまりぜいたくな匂いのするものが好きではないんですよ。たまに海外の映画祭に呼ばれてすてきなホテルに泊めさせていただくんですけど、すごく気持ちがいい半面、こういったラグジュアリーな空間が日常になることは考えられないなと思う。ちり一つなく、きれいな家具に囲まれた家に暮らすっていうのは、なんていうか……すごく居心地が悪い(笑)。

 それに、美意識だけでやってられないのが暮らしであって、庶民の大多数は、大宮家のように、いろんなものに神経が行き届かないと思うんですよ。私はそんな血の通った暮らしぶりに温かみを感じますし、生涯書いていきたいと思っている。なので、あまりそこから離れたくないな、という気持ちもあります。

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最終更新:10/12(水) 7:47

NIKKEI STYLE

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