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タイの内戦が日本の平和ボケを打ち砕くかもしれない

JBpress 10/12(水) 6:10配信

 ※タイの王室庁は2016年10月13日に声明を出し、プミポン国王が13日に88歳で死去したと発表しました。(2016年10月14日編集部)

 先月末にタイを訪れた。これまでと変わらない風景の中にも、どこかに緊張感が感じられた。

 それは国王であるラーマ9世(プミポン・アドゥンヤデート国王)の容態が思わしくないためであり、その雰囲気はどこか昭和天皇が病床に伏せ、X-dayが取りざたされた昭和63年の秋に似ていた。

 ただ、タイにおける王権の引き継ぎは日本のようにスムーズに行きそうにない。

■ 暗雲立ち込めるタイの内情

 多くの国民はプミポン国王を敬愛している。国王は立憲君主でありながら政治に大きな影響力を及ぼしてきた。

 国王はクーデターが起こるたびに、そのカリスマ性によって国の分裂を防いできた。ここ30年ほど、タイが順調に経済発展を遂げることができた背景には国王の存在があった。

 現在でもタイには不敬罪が存在する。タイ人は王室について語るとき慎重にならざるを得ないが、それでも私的な場では小声でいろいろと語り合っている。

 皇太子のワチラーロンコーンは3度の離婚や愛人問題など若い頃から行状に問題があり不人気である。妹のシリントーン王女は人気が高く、未来の王位に就くことを望む声も多いが、いまのところ独身であり子どもがいない。そのために、シリントーン王女が王位をついでもその次が問題なる。タイの王室は問題だらけというわけだ。

 ここまでの話は他のマスコミも伝えており、知っている読者も多いと思う。筆者は農業からアジア経済を見てきたが、今回はその視点からタイ王室の継承について考えてみたい。

■ 急速な工業化で生じた格差問題

 多くの日本人はタイと言えばコメを連想する。長粒米であるインディカを日本人は「タイ米」と呼ぶこともあるくらいだ。この話からも分かるように、タイは農業国。コメはその社会の中心にあった。今もコメを大量に生産しており、国民の約半数は農村に住み農業に従事している。

 そんな国が急速な経済成長を遂げて大きく変わった。今や1人当たりGDPは5000ドルを超えており、中進国の仲間入りを果たしている。

 トヨタやホンダの工場が立ち並び、日本の自動車産業の東南アジアにおける拠点になっている。バンコク中心部にはビルが立ち並び、その光景は東京やニューヨークに遜色のないものになっている。

 しかし、その成長は工業部門や都市部に限定される。タイの人口の約半数を占める農村は成長から取り残されてしまった。

 地方の疲弊はなにも日本だけに見られるものではない。農業国が工業化するときに必然的に生じる現象である。

 日本は明治以来100年の時間をかけて工業化を達成したが、タイや中国ではその現象はここ30年から40年ほどの間に生じた。そのためにより激烈な格差が生じている。中国の農村の疲弊は日本でもよく話題になるが、タイでも同様の現象が見られる。

 日本では格差を是正するために公共事業と農業へのバラマキが行われた。その是非が問題になるところだが、これらの政策によって都市と地方の格差が極端に拡大することを防いだことも確かだ。

 しかし、日本以外のアジアの国々において、そのような政策が強く行われることはなかった。その結果として都市と農村の格差が拡大している。

■ 日本企業も平和ボケしていられない

 中国は選挙がないために警察の力など強権によって農民の不満を押さえ込んでいる。一応タイは民主化されており選挙が行われるが、選挙を行うと農民が支持するタクシン(第31代首相、在任期間2001~2006年)が選ばれてしまう。

 王室の周辺にいる支配者階級はタクシン政権では甘い汁を吸えないので、軍事クーデター(2006年9月)によってタクシンを追放して、非民主的な政権を作り上げてしまった。そのような事態を国民が許容しているのは、国王のカリスマ性による部分が大きい。

 直近のクーデターが起こったのは2年前であるが、その頃すでに国王の容態が思わしくなかった。そんな時に混乱を起こしてはいけないという自制心が国民の間に働いている。こんな状況の中で不人気な皇太子が王位に付けば、大きな混乱を引き起こすことになろう。

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最終更新:10/14(金) 14:45

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