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「ノート7」の発火事故は対岸の火事ではない

東洋経済オンライン 10/12(水) 14:30配信

 サムスン電子は10月11日、同社の最新のスマートフォン「ギャラクシーノート7」の生産を中止することを明らかにした。ここ1カ月あまりの発火事故の原因がバッテリーパックだけではないことが明らかとなり、ノート7の再発売を目指していた戦略は頓挫。製品自体の出荷・生産をグローバルで停止することになった。

 これをもって、サムスン1社の問題のように捉える読者も多いかもしれない。しかし、これはサムスンだけの問題ではない。

■救世主になるはずだった

 ノート7は、サムスンにとって過去最大のヒット製品になるのではと前評判の高く、業績が下降線にあるサムスンにとって救世主となるはずだった。8月19日に北米市場で発売された同製品は、実際、過去のギャラクシーシリーズの中でも最高の売り上げ台数、予約台数を記録していたからだ。

 しかし、8月30日に発生したバッテリー発火事故を皮切りに、バッテリーの発熱・発火問題が続出。サムスンはノート7そのものの生産・出荷を停止し、グローバルで販売された約180万台の別機種への交換や返品などの対応に追われる事態になった。

 サムスンは発火問題発生後、独自に調査を行った結果として、内蔵するバッテリーパックが原因だと発表した。そして、問題があると考えられるバッテリーパックを搭載するロットを特定。製品交換を行うリコール措置を取りつつ、10月1日には韓国内での販売を再開していた。

 だがバッテリーパックを交換した後の同製品も発火事故を起こし、日本では発売に至らないまま、姿を消すことになった。

業績への影響は?

 サムスンが10月7日に発表した7~9月期決算の速報値は、売上高が前年同期を5.2%下回る49兆ウォン(約4兆5000億円)。営業利益は5.6%増の7兆8000億ウォン(約7200億円)を確保したが、前四半期からは減収減益。来期はさらに業績全体への影響が懸念される。バッテリー問題に関連した損失は1兆ウォン(約920億円)と見積もられていたが、韓国・中央日報によると再度の問題発生により180万台の回収・交換などにかかる直接の費用だけでも3兆ウォン(約2800億円)に上ると見られている。

 しかし、業績への影響は直接的な対策費用の発生にとどまらない。この年末にもっとも期待されていた主力製品の喪失と、ブランドやメーカーに対する信頼感の喪失という、“ダブルの喪失”は、業界全体のダウントレンドと併せ、サムスンをさらに厳しい立場に追い込むかもしれない。

■「燃えやすい」リチウムイオン電池

 今回の問題は、携帯型の電子機器が宿命的に背負っている運命を物語っている。

 リチウムイオン電池はその性質上、電子機器を構成する主要パーツの中で、唯一と言ってもいいほど「燃えやすい」パーツだ。構造などによって派生種(リチウムポリマーなど)はあるものの、バッテリー内に有機溶剤を用いているため、過熱などの条件が重なると燃えやすい性質を持っている。無機溶剤が用いられる他の二次電池との大きな違いだ。

 リチウムイオン電池の歴史は性能や機能性を高める歴史でもあったが、同時に、有機溶剤を用いながらもいかに安全に運用するか、創意工夫の歴史でもあった。リチウムイオン電池は、乾電池やニッケル水素電池のように、バッテリーセル単体での販売が行われないが、これは充電制御やセルの保護など、システムとパッケージ全体で品質保証を行う必要があるからだ。

 このため、過去にも発火事故は何度も発生している。バッテリーセルの生産後、事前充電を行う工場で爆発事故が発生したこともあった。パソコンにリチウムイオン電池が使われ始めた1990年代後半には、いくつもの製品が発火事故を起こしている。ひとたびセルの生産工程に問題が起きると、2006年のソニー製バッテリーを搭載したパソコンが(全種類ではないが)発火の可能性あって回収になるなど大きな問題に発展する。

 当時はバッテリーパックを本体と切り離して脱着できる設計が一般的だったがため、バッテリーの回収・交換は比較的容易だったが、製品と一体化されるのが当たり前になってきた昨今のデジタル製品では、本体ごと交換せねばならない。年末商戦の主力製品の離脱は可能なかぎり避けたかったはずだが、製品の完全な生産停止という選択は、事の深刻さを示している。

 そして、この“深刻さ”は単にノート7だけの問題にとどまらない、ブランド価値への影響もある。

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最終更新:10/12(水) 14:55

東洋経済オンライン

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