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サンマが獲れなくなったのは中国・韓国・台湾の乱獲のせいなのか? 漁業者性悪説のウソ

デイリー新潮 10/12(水) 11:45配信

■漁業者性悪説のウソ(1)

秋の味覚と言えば、真っ先にサンマを思い浮かべる人も多いだろう。そのサンマの価格が乱高下している。

昨年は約40年ぶりの深刻な不漁を記録し、今年はさらに水揚げが減ると予測されたことから、7月のシーズン当初より価格が高騰。築地市場では1匹当たり3300円の高値がつくこともあった。

ところがその後、徐々に水揚げが増えて価格が下がり、10月に入るとスーパーでは1匹100円を切るようになった。すでに60円台の特売セールを行うスーパーも出始めたというから、まさにジェットコースター並みの急降下である。

なぜサンマの価格は、このような乱高下を見せたのか? 漁業経済学者の濱田武士・北海学園大学教授に話を訊いた。

「魚価が乱高下すると、世間でよく槍玉に挙げられるのは、第一に〈漁業者による乱獲〉、第二に〈非効率な流通市場〉です。近年は、とくに中国・韓国・台湾など近隣諸国の漁業者による乱獲が問題視される傾向があります。」

「しかし、不漁の原因を〈乱獲〉だけに求めるのは無理があります。たとえば、夏期に漁獲量が伸びなかったのは、道東・三陸沖に長い間暖水塊が止まっていた影響もあります。根拠のない漁業者性悪説を振り回せば、かえって問題をこじらせるだけでしょう。そもそも専門家から見れば、魚価が乱高下するのは〈当たり前〉なのです」

どういうことか? 濱田教授と藻谷浩介さんの対談が収録されている『和の国富論』(新潮社刊)から、一部を再構成してお伝えしよう。

■漁業は「野生生物」が相手である

藻谷 濱田さんの『日本漁業の真実』(ちくま新書)を拝読して、漁業の流通の仕組みは、同じ一次産業である農業や林業とはまったく別物だということがわかりました。

濱田 同じ「自然」を相手にする一次産業と言っても、漁業の場合、どこにどれだけの数がいるか完全に把握できない「野生生物」が相手ですから、農業や林業とはかなり状況が異なります。

藻谷 言われてみれば当たり前なんですが、たとえば山の中で獲ってきた野生のシカやイノシシだけで食肉マーケットが成り立つか、あるいは「原っぱに生えていた麦を取ってきました」だけで農業が成り立つかどうかを想像してみれば、漁業の特異さがわかります。養殖は別として、一般漁業のように純粋な野生生物を捕獲してくるだけで、これだけ多くの人を養っている産業なんて、他ではありえない。
自然任せを脱せられない漁業が、大規模な産業として成り立っていること自体が奇跡的です。もし今の技術を使って里山で好き放題に狩猟採集をしたら、あっという間にハゲ山になってしまう。

濱田 それだけ海の再生産能力がすごいということです。とは言え、徐々に漁業が経済的に成り立たなくなっているのが現実です。今の経済社会システムにおいて、その供給の不安定さは、やはり大きなマイナスポイントになってしまいます。

藻谷 農業であれば、品種改良や農法で安定性を上げることも出来るし、売れなくなってきたらパッと転作するという手もある。林業であれば、100年先のことまで考えて計画的に植林できるし、市況が悪ければ5年10年寝かせておいても品質が劣化しない。もちろん、農業も林業も天災の影響は被りますが、それでも漁業に比べれば、かなり安定している。

濱田 その点、漁業は本当に出たとこ勝負で、獲れたり獲れなかったりの差が激しい。その日にどの魚がどれだけ獲れるかわからない。その上、すぐに腐る。冷凍という手もありますが、基本的に水産物は鮮度がものを言う商品ですから、獲れたらなるべく早く売らなきゃいけない。

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最終更新:10/12(水) 13:41

デイリー新潮

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