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メドゥーサがプロデュースした“ちいさな反乱”――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第199回(1995年編)

週刊SPA! 10/12(水) 9:10配信

 それはアランドラ・ブレイズ、つまりメドゥーサがプロデュースしたちいさな“反乱”だった。“レッスルマニア”“サマースラム”“ロイヤルランブル”と並ぶWWEのスーパーイベント、“サバイバー・シリーズ”(1995年11月19日=メアリーランド州ランドーバー、USエアー・アリーナ)のリングに6人の日本人レスラーが立っていた。

 WWE世界女子王者アランドラ・ブレイズは、アジャ・コング、井上京子、長谷川咲恵、渡辺智子、チャパリータASARI、ライオネス飛鳥(フリー)の6選手をたった1試合のためにわざわざ日本からブッキングした。全日本女子プロレス・サイドでネゴシエーションにあたったのはロッシー小川広報部長(当時)だった。

 “サバイバー・シリーズ”の第2試合にラインナップされた4対4イリミネーション・マッチは、ブレイズ&京子&長谷川&チャパリータ対バーサ・フェイ(モンスター・リッパー)&アジャ&飛鳥&渡辺という組み合わせだった。

 京子、長谷川、チャパリータの3選手がベビーフェース・サイドで、アジャと飛鳥と渡辺がヒール・サイド。かつてモンスター・リッパーのリングネームで全女のレギュラー外国人選手として日本に長期滞在した経験を持つバーサ・フェイは、全女メンバーとの再会を喜んだ。

 WWEのPPV(生中継)の試合は、時間的な制約がひじょうに大きい。1本めは試合開始のゴングから1分42秒、ブレイズがジャーマン・スープレックス・ホールドで飛鳥から3カウントを奪った。2本めは2分16秒、アジャがバックドロップ一発で長谷川をフォール。3本めも0分27秒、セカンドロープからのフライング・ボディープレスでアジャがチャパリータをフォールした。チャパリータのスカイツイスター・プレスがほんの数秒間ではあるがアメリカの観客をあっと驚かせた。

 4本めは0分37秒、またしてもアジャがコーナーからのフライング・ボディープレスで京子をフォールした。プロレスの技術では(この時点では)まちがいなく世界のトップレベルにあった京子がそのテクニックの片りんすらみせることなくいきなり“退場”してしまったことは、京子本人にとっても、アメリカのPPV視聴者=プロレスファンにとっても、またこの試合をバックステージから観察していたWWE首脳陣や選手たちにとってもたいへん残念な結果だった。

 リング上はフェイ&アジャ&渡辺対ブレイズの3対1のハンディキャップ・マッチ的なシチュエーションになった。

 5本めは1分28秒、パイルドライバーからブレイズが渡辺をフォールし、6本めも0分41秒、ブレイズが超巨漢のファイをジャーマン・スープレックスで投げて3カウントを奪った。

 ファイナル・フォールの7本めは、2分50秒、アジャが裏拳でブレイズをフォール。試合終了のゴングが鳴ると、アジャが観客に向かって舌を出しながら両手を腰にあてて「チャンピオンベルトを奪うぞ」というゼスチャーをしてみせた。

 トータルでわずか10分弱というファイトタイムは、日本の女子プロレスのレベルの高さをディスプレーするにはあまりにも短かすぎた。アメリカの観客が日本の女子プロレスに関する予備知識を持っていなかったことも明らかだったが、試合後にアジャが「いつもより多めにパフォーマンスでもしておけばウケるのかと思ってた」と語ったとおり、全女サイドもWWEのプロレス、あるいはアメリカの観客についてやや研究不足だったこともまた事実だった。

 WWEは全女からの6選手のブッキングに、往復の航空チケット代や滞在中のホテル代といったファイトマネー以外の諸経費に5万ドルの予算を用意した。ブレイズ、というよりもメドゥーサは“サバイバー・シリーズ”に自分と日本人選手の試合ワクをつくることをビンス・マクマホンにブレゼンテーション=直談判し、ビンスもこの案を了承した。

 WWEは翌年(1996年)1月のPPV“ロイヤルランブル”でブレイズ対アジャのWWE女子世界選手権を予定していたが、結果的にこの試合は実現しなかった。じつはメドゥーサは、この時点でライバル団体WCWへの電撃移籍に向けた水面下での予備交渉をスタートさせていたのだった。(つづく)

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。

日刊SPA!

最終更新:10/12(水) 9:10

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