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「松茸狩り」は想像以上にサバイバルな現場だった…【森の中でしのぎを削るキノコ猟師たち】

週刊SPA! 10/12(水) 16:20配信

 秋の味覚、その王様と言えばやはり松茸をおいて他にはあるまい。この時期、松茸を始めとするキノコは旬を迎え、キング・オブ・キノコである松茸だけではなく天然物のシメジや舞茸は高額で取引されている。そんな旬のキノコを狙うのはキノコ猟師だ。富士山の麓に広がる原生林一帯でキノコ狩りをする40代の男性に話を聞いた。彼にとって、秋のキノコ狩りシーズンは言わば“かき入れ時”となる。

⇒【写真】まさかこんな所に…松茸を採る瞬間

「オレの本業は農家で、その傍らに山菜なんかを採って売ってるんだ。秋になれば野生のキノコを採るんだけどこの時期、高級な松茸だけじゃなくて天然物のシメジや舞茸は高値で取り引きされる。他にもキクラゲ、ナメコ、クロカワなんかも採れればイイ値で売れるんだよ。もちろん天然物だから毎日必ず採れるワケじゃないけど、『採れたら電話くれ』って人で順番待ちになったり、そうじゃなくても地元の販売所に卸せばいいだけだからさ。だから8月の半ば、下旬から10月の終わりにかけてはほぼ毎日森に入るよ。この時期の儲けは多い年だと一年の半分弱。1/3くらいはこの時期に稼ぐわけだから、荒らされることは死活問題なんだよ」

 キノコ猟師たちにとって、最も稼ぎが大きいものはやはり松茸だ。その松茸を狙って森の中ではしのぎが削られているという。

「松茸が生える場所ってのは毎年同じなんだ。だから松茸が採れた場所ってのは、オレたちにとっては生命線。オレにもこの世界に入ったときの師匠みたいな人がいるけど、松茸が生えてる場所は弟子でも教えてくれない。松茸の本場って言われる長野とか京都の山は松茸が出てくるシーズンに入れば有刺鉄線張って電気流して24時間体勢でパトロール。噂じゃ地元のチンピラ雇って用心棒にした……なんてことも聞いたことがある。松茸ってもう、そういう存在なんだ。だから、誰でも入れちゃうこの辺り一帯はシーズンインと同時にサバイバル開始(笑)。同業者であっても情報の共有なんて一切しないよ。林道沿いに車を止めて森に入るんだけど、同業者の目をくらますために車を止めた場所から森に入らず、別の場所から入ることもある」

 そんな彼に取材班は同行したのだが、それは想像以上にシビアで過酷な現場であった。

 森に入って歩くこと20分、それまではキノコ狩り事情を明るく話していた彼は唐突に声を押し殺して言った。

「しゃがんで。声出さないで」

 苔と枯れ木に隠れながら、彼は周囲を見渡す。すると、前方30m程先に人影が見えた。「どうしたのか?」という問うと……

「キノコ狩りに来た人だな。近所にいる同業者じゃないんだけど、向こうからオレを見れば“プロ”ってわかるからさ。キノコ狩りする連中は、オレたちみたいなプロがどこで何をしてるのかを調べて、そこから松茸の生息地を割り出すんだよ」

 まさか……と思ったが、彼は続ける。

「以前、同業者の知り合いが森の中で松茸を採ってる写真をブログにアップしたんだよ。そしたらこの広大な富士の裾野の森にもかかわらず場所を特定されて、片っ端から掘り起こされたことがあったんだ。タチが悪いのは、シャベルでゴッソリ掘り起してそのまんま。そんなことされたら松茸は二度と生えない。オレたちは別に既得権益があるワケでもないし、素人さんが松茸を見つけて採ってもいいと思ってる。でも、マナーはあるじゃない。そういうマナー違反がここんところ目立つんだ。マジで腹が立つよ」

 同行した取材班も森の中で、人工的に掘り起こされた箇所をいくつか目にした。それは自然を愛する者の所業とはとても思うことはできなかった。

 数分後、彼はまた立ち止まり声を押し殺してこう言った。

「しゃがんで後ろを向いて、少し待っててもらってもいいか?」

 聞けば松茸の生息地がすぐそばで、確認してくると言うのだ。その現場を見たいと交渉したのだが、「さっきいたキノコ狩りしてるヤツがいるかもしれないから、この場所はちょっとヤメてほしい」と言われてしまった。言われた通り待つこと数分、素晴らしい香りと共に彼は手に一本の松茸を持って来た。

「3日前に確認して、様子見だったけどちょっとカサが開いちゃってるな」

 彼によれば、松茸が生える場所を日々巡回して生えているかを確認。確認したらその大きさによって収穫の日を決めるのだという。そして採ったという場所を見せてもらったのだが、その周辺には掘った形跡すらなかった。

「掘り起こした形跡があると、そこが松茸のポイントってバレる。だから掘り返した後は自然な形に戻すのが鉄則なんだ。オレたちは森に入ると毎日歩く場所を変えるんだけど、それは同業者の目をくらますことと同時に同業者の掘り返した痕を探すって意味もある。でも、お互いにバカじゃねぇから、松茸が生えてない全然違う場所をワザと掘り返してポイントをずらすように誘導したりすることもある。足跡が付かないように注意するのは当たり前だけど、逆に足跡をワザと残して違う場所に誘導したりもする。そうやって自分の松茸ポイントを守りながら、新しいポイントを開拓していくんだよ」

 そういって彼は歩いてきた足跡が付いた場所やその周辺に枯れ葉を振りかけて次の場所へと向かった。そしていよいよ「写真は撮ってもいいけど、アップの写真だけ。掘り起こす前はNG。撮った写真は確認させること」を条件に松茸を採る瞬間を我々に見せてくれた。

 そこは何の変哲もない森の一角。我々は全員しゃがみ込み口を閉じ、周囲に人がいないことを確認した。「ここもポイントの1つなんだ」そういって地面を見つめた。すると数本の小枝をどかすと、おもむろに土の中に指を突っ込み、グイッと持ち上げるとそこには手のひら大の松茸が出てきたのであった。

 我々からすると、何の変哲もない地面に他ならない。その場所から魔法のように松茸が出てきたことがまったくもって信じられなかった。何の変哲もない地面を見て、どうやって新しい松茸ポイントを開拓するのか……と聞いてみると、彼はサラリと応えた。

「松茸が生えている場所は独特の盛り上がり方をするんだ。地面に出きっているものは誰でも見つけられるけど、その前の段階で見つけて最適な大きさになるまで待って採るのがプロのワザだよ。毎日歩いてるとさ『ん? あそこの地面はこないだ通ったときとくらべて盛り上がってるな』ってのがわかるんだよ。まぁ、感覚的な話になるんだけど、地面がグッと持ち上がっているっていうかね。あんまり早い幼菌の段階で採ると次の年に生えないこともあるから、そういうものは枯れ葉や苔で隠しておくんだ」

 実際にそのポイントも見せてもらった。だが、大袈裟な表現かもしれないがその盛り上がり加減は数字にして1cmもないようにしか見えなかった。それは盛り上がっている云々ではなく、自然な地面の凹凸にしか我々にはどうしても見えなかったのである。

 その後も彼はポイントをいくつか変えて魔法のように松茸を採り、足跡を消して枯れ葉を撒き、時にはワザと木の枝を折って派手に足跡を付けていく。一つ一つの所作、すべてに意味があるのだ。その姿はまさにハンター。

 松茸は合計で6本。その他にもキクラゲやシモフリシメジ、クロカワなどカゴ一杯にして森を出て車に積み込んでいると一台の車がやって来た、すると彼は松茸の入ったカゴをさりげなく車の後部座席に置き、ジャケットを上から掛けた。車は横に止まり男性が窓から顔を出し、「どう? 今日は?」と声を掛けてきたので、彼は笑顔で「今年は厳しいね。クロカワのポイントがあったから今日はクロカワばっかだよ」とシレッとかわした。

「あれは同業者。オレがウソついてんのもバレバレだけど、まぁ、挨拶みたいなもんだよ(苦笑)。それはそうと、あんたらに“お土産”があるんだよ」

 そういって彼は林道の横にある木の根元に我々を連れて行き、こんもりと積まれた木の枝を払いのけた。そこには手のひら大に開いた巨大な松茸が生えていたのであった。

「灯台下暗しってヤツだね。ここのポイントは数日前に偶然見つけたんだよ。あんたらが取材で来るっていうから、見つからないように隠しといたんだ。このくらいでっかいと写真映えするでしょ(笑)。ここら辺は林道の邪魔な木の枝が掃かれて積まれているから、それと同じようにごっそり枝を積んどいたんだ。まんまとみんな騙されたね(笑)」

 ちなみにここまで大きくカサが開くと、香りも飛んでしまい松茸としての価値はグンと下がってしまうのだとか。さらにこれだけ地上に出てると虫に食われている可能性もあい、虫食いの痕があると数百円にしかならないこともあるという。実際、この巨大松茸も香りはすでにあまりなく、オマケに虫食いだらけ。虫抜きをして食べたが、それはなんとか松茸の味と香りはしたものの、ウットリできるものではなかった。

 キノコ狩りの後、彼は最近のキノコ狩りブームについていろいろと話してくれた。

「やっぱりインターネットの普及ってすごいと思うよ。キノコって夕方から夜に雨が降った次の日が最高の狩り日になるんだ。そういう情報とか知識って昔は一部の人しか知らなかったんだけど、今はネットで全部調べられるでしょ。オマケにピンスポットの天気情報もわかるから、この一帯だけ夜雨が降っているとかもわかるワケでしょ。そんな時はすごいよ、前なんか台風来て夜中に直撃したときなんか、直撃する前の晩から台風で閉鎖された林道の入り口に車の列が起きてたもん。そんでもって台風が去った夜中の3時にはもう、大渋滞(苦笑)」

 さらにここ数年は変な客も……。

「キノコ狩りのプロだって、どっから聞いたのか知らないけど変な注文してくるヤツもいるね。ベニテングダケが手に入ったら売ってくれって。おい、それ毒キノコじゃねぇかよって。『塩漬けして毒抜きすると旨いんですよ』って……確かにベニテングダケって塩漬けにして毒抜きして食べる地方もあるけど、素人がやっていいわけがない。あと、15年くらい前から山の中に機材持ち込んで勝手にレイブやってた連中いたじゃない。ああいうヤツら『ベニテングダケが生えてるとこ教えてください』って来たことも何度かあるね。まぁ、何に使ったのかはわかんねぇけどさ(笑)」

 過熱気味とも思えるキノコ狩りブームだが、危険と隣り合わせであることも頭に入れて欲しいと彼は言う。

「毒キノコを甘く見てると痛い目に遭うってレベルじゃないわな。本当に死んじゃうこともあるから。オレもそういうキノコ狩りしたキノコの鑑定を頼まれることがたまにあるけど、ドヤ顔して毒キノコ持ち帰ってきたなんてことはよくあることよ。松茸だってカサが開ききって時間が経ったものはアミノ酸が変化して、吐いたり下痢したりすっからさ、ネットの知識だけに頼ってキノコ狩りするのは、危なっかしいったりゃありゃしない。できることなら、プロの人に最後は見てもらった方がいい。そうやって教えてもらって現場で学んだことはネットで得た知識よりも身につくんじゃないかな」

 キノコ狩りはマナーと知識を持って楽しんでほしい。キノコ猟師の切なる願いである。

取材・文/SPA!キノコ狩り取材班

日刊SPA!

最終更新:10/12(水) 16:53

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