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井伊直虎ほか、戦国時代に家の存続をかけて戦った三人の女たちを描く 『おんなの城』 (安部龍太郎 著)

本の話WEB 10/13(木) 12:00配信

安部龍太郎さんの最新作『おんなの城』は、戦国時代を熾烈に生きた女性三人を描く中篇集だ。2017年のNHK大河ドラマの主人公に決まった井伊直虎をはじめ、当時の女性がおかれた状況と、その生き方とは――

――戦国時代を舞台に、女性を主人公に作品を書こうと思った理由を教えてください。

 当時、政略結婚で嫁いだ女性は人質として翻弄されました。これは、男の辛さとは質が違うと思うんです。男は自らの決断で行動できる場面が多く、嫌ならば家を捨てて出て行くという選択肢もあった。ところが女性の場合はそんな選択肢はなく、嫁にいけと言われればいかなければならないし、人質ですから、嫁いだ先ではスパイとみなされる。その二重の辛さのなかで自分をまっとうする生き方をするのは、困難であり、知恵も必要で、自分をどう御していくかを常に問われるでしょう。そのような女性を主人公に連作を書きたいという思いがあったんです。

 以前、『戦国の山城をゆく』という本の仕事で岐阜県の岩村城へ取材に行ったのですが、そこに「女城主の里」という看板がありました。これは、織田信長の政略によって岩村城主・遠山景任に嫁いだ女性のことですが、地元の人たちが、女城主として今でも彼女に敬慕の念を抱いていることに驚いたのも、執筆のきっかけになりました。

――意外な形で愛を得る珠子(「霧の城」)。七尾城主の夫が城から追放され、城と息子を守るために戦うことを決意する佐代(「満月の城」)。井伊家存亡の危機を切り抜けるべく、還俗して女地頭となった奈美(「湖上の城」)。本作で描かれる三人は、それぞれの方法で試練を乗り越えようとし、家を守ろうとします。

 戦国武将にとって城は、敵からの攻撃を守る要塞です。しかし、その中で暮らす女性にとって城は生活の場そのもの、つまり「家」に他なりません。城は、生活をして、子どもを産み育て、次の世代に引き渡すための器なのです。ですから、その城が戦争によって破壊される時、男よりも女のほうが、受け止め方が深刻で切実なのではないかと思います。

 それに、女性は子を産む存在ですから、次の世代へと命を繋ぐ責任感を持っているように感じます。自分や子孫を守るために生きようとする女性の本能的な強さは、もしかすると、男には想像のつかない強さなのかもしれません。

――戦国時代を生きた女性についての資料は少なかったのではないでしょうか。

 戦国時代の女性については、記録がほとんど残されていません。歴史的な背景と、主人公が生きた当時の周囲の状況、断片的に残っている資料から浮かび上がらせました。資料は少ないのですが、主人公がどう生きたかを描くのは文学の領域ですから、逆に歴史から離れて自由に書ける部分もありましたね。

 さらに、戦国時代は今も、250年続いた江戸時代の史観で語られています。ですから、女性についても、当時の日本人にはあまり重視されていなかったはずの儒教の考え方が反映されてしまっている。女性を主人公にして戦国時代を描いたのは、今まで伝えられてきた歴史観に対する挑戦の一環でもあるんです。

――井伊直虎もあまり知られていない存在でしたが、2017年のNHK大河ドラマの主人公に決まって有名になりましたね。

 徳川家康について書くためにいろいろと調べていて、家康が遠州攻めの際に通過した井伊谷も、実際に訪ねて取材しました。井伊谷は非常に狭い場所ですし、なぜこんな辺鄙な場所に井伊家という名家が続いたのか不思議に思われるかもしれませんが、浜名湖や天竜川の水運を考えると、あの地が栄えたのはよくわかります。そういうことを調べるうちに、井伊直虎も面白いな、と興味が出てきたんです。

 三河の徳川、甲斐の武田、駿河の今川のちょうど中間にあるために、どこからも誘いがかかるし、どこからも狙われる。そんな中で身を処していく難しさがあって、対応に失敗した男どもがみんな死に絶え、最後に、出家していた女性が還俗して直虎と名乗って女地頭となる。しかも、結果的に、井伊直政という歴史上に名を残す武将を育て、井伊家を守ったわけです。女が男となってこの戦国の世を闘ったらどんな闘い方をするのかを、「湖上の城」で私なりに描いてみました。

安部龍太郎

1955年福岡県生まれ。久留米高専卒業。90年『血の日本史』でデビュー。
2005年『天馬、翔ける』で第11回中山義秀文学賞を受賞。13年『等伯』で第148回直木賞を受賞。著書に『信長燃ゆ』『下天を謀る』『蒼き信長』『レオン氏郷』『冬を待つ城』『維新の肖像』『姫神』など多数。

聞き手:「本の話」編集部

最終更新:10/13(木) 12:00

本の話WEB

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