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“睡眠によい食べ物”のウソ

ナショナル ジオグラフィック日本版 10/13(木) 10:32配信

ネットにあふれる記事のさまざまな落とし穴

 睡眠に関する鉄板ネタの一つに「食」がある。

 睡眠と食についてちょっと検索すれば、「アレを食べると寝つきが良くなる」「コレを食べると眠りが深くなる」など、快眠をもたらす食品、飲み物、サプリ、各種ビタミン、ホルモン、アミノ酸を紹介しているサイトが星の数ほど引っかかる。

こんなに大きい睡眠薬のプラセボ効果

 医薬品を服用するのは抵抗があっても、身近な食材や果物、天然素材から抽出したエキスと聞くと、なんか安心感がある。期待しながら飲むと、それがまたプラセボ効果(偽の薬でも本物と信じて服用すると一定の治療効果が出る現象)を高めたりする。中には特殊な成分を抽出した限りなく医薬品に近いものもあり、「こんなの毎日飲んでも大丈夫?」と心配になるものもあるのだが。

 書籍やネット上には食と睡眠に関する情報が氾濫しているが、実は根拠となるデータ(エビデンス)はごくごく少ない。どのくらい少ないかというと、ある睡眠学のスタンダードな教科書では「食品と睡眠」に関する記載は全700ページの中で 1ページにも満たないほどである。

 最近でこそ時間栄養学という学問分野が活発になり、カロリー摂取や栄養素が体内時計や睡眠に及ぼす影響についてデータが徐々に蓄積されているものの、動物実験段階の研究が大部分である。特定の食品が人でも効果があるか示したデータはごく限られている。

 では、ナゼ研究成果が少ないのか。それは研究手法がとても難しいから。10年以上も前になるが、国の大型研究費が採択されて睡眠研究の全国チームが組まれたことがある。さまざまな研究課題が設けられた中で、難題と分かっていた「食と睡眠」については、お互いに尻込みをしてしまい担当する研究者がどうしても決まらなかった。

寝つきがよくなることはある。ただし…

 一口に「食」といっても科学的に紐解くのはとても難しい。まず、食べる(飲む)という行動自体がとても複雑である。食べるためには目覚めて食事の準備をしなくてはならない。(夜であれ)光も浴びるし、体も動かす。食行動は味覚や視覚、条件反射などを介して感情も動かす。感情が刺激されれば当然ながら睡眠に影響する。

 実際に食すれば血糖値が上昇し、腸管は押し広げられ、それらが刺激になって副交感神経が活性化される。副交感神経が活発になると放熱が進んで脳温が低下することで眠りやすくなる。このあたりは「お風呂で快眠できるワケ」も参考にしていただきたい。

 これら一連の生体反応の大部分は食品の種類にかかわらず生じる「非特異的反応」と呼ばれる現象であって、特定の食材や栄養素の作用ではない。「食」による睡眠調節があるとしても、案外、この食べるという行動(とそれに伴う非特異的反応)自体が一番強く睡眠に作用している可能性がある。つまり、どのような食品でも一定の効果があるのかもしれない。

 ちなみに、満腹になれば腸に血液が集まるため脳血流が少なくなって眠気が出る、などという説もあるがこれは眉唾だ。そもそも簡単に脳血流が減少しては命に関わるため、急激に変動しないように調整するメカニズムがある。食後に血糖値が上昇すると、脳内の覚醒ホルモンであるオレキシンの分泌が低下するという動物実験の結果があり、こちらの方が科学的にみて可能性が高そうだ。

 ところで、私は最近チーズにハマっている。クラッカーやフランスパンにチェダーチーズなんぞを乗せたカナッペがお気に入りで、寝る間際に読書をしながら堪能している。小太り中年としてはやってはいけない悪習慣だが小腹も満ちてグッスリ眠れる、ような気がする(あくまで個人的な体験でエビデンスはありません)。

 例えば、カナッペが睡眠に作用しているか調べようと思えば、先の「食べるという行動」の影響をさっ引く必要がある。しかしこれが難しい。カナッペを食べずにカナッペの効果を調べられるはずがない。カナッペの栄養素を全部取っ払った「カナッペもどき」を食べさせて、本物のカナッペの効果と比較すればよいのだが、そのような類似品があるわけない。

 奥の手として胃チューブで直接カナッペを胃に流し込んでやれば食べた人はホンモノかもどきか分からない。特殊な医学実験ではそのような方法を使うこともある。しかし、食品会社がそこまでやるか。そのようなカナッペの食べ方(もはや摂取と呼んだ方がいいが)で効果を実証しても、消費者にアピールするどころか思いっきり引かれてしまいそうだ。

 ちょっと熱くなってしまった。一息入れよう。

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最終更新:10/13(木) 10:36

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