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描くは“画家が描いたかもしれない”新作 贋作作家が明かす一冊

Book Bang 10/13(木) 8:10配信

「贋作」という言葉には魅惑のにおいがする。ホンモノと思わせる巧みさ、社会の裏をかく強(したた)かさ、既成の価値観を覆す小気味よさ……。本書は「ピカソが生きていたら彼を雇ったであろう」といわれるほど腕のたつ贋作作家の自伝だ。

 なぜ、ピカソが雇うのか。ギィが描くのはすでにある名画の複製ではなく、画家が描いたかもしれない新作だからで、手が足りなかったりアイデアの枯渇した画家のよき助っ人になっただろうというわけだ。

 フランス・ロアンヌの娼館で生まれ育ち、青春期は路上を学校とする。裏社会の重鎮たちと出会い、

贋作ビジネスに接近していく前半部は、超個性的な人々が登場し、裏町のにおいがぷんぷんする。

 もともと手先が器用で、十代で絹織物図案工房に拾われ絵の基本をものにし、独学で美術史を勉強。それらが贋作制作の元手になったが、白眉はピカソやシャガールになり切る方法を説いた箇所である。もしピカソがある時期に十点のデッサンを作ったとすると、その十一点目を想像して作るのが彼の仕事だ。そのためには既にある十点を徹底して調査する。どんな画材を使ったかはもちろん、画家がその頃だれと付き合い、どんな心理状態にあったかも調べあげる。そうやってピカソに身を移して創作に入るための瞑想をするのだ。スタイルが似ているだけでなく、絵には魂が入っていなくてはならず、この作業がもっとも難しいと語る。

 制作をつづけるうちに、絵を描いていないと調子が出なくなる。金銭のためではない。絵を描きながら画家と対話しひとつになるとき、この高揚感に勝るものはこの世にないという境地に達するのだ。

 二〇〇五年に逮捕され、刑が確定して彼の贋作はすべて没収されたが、いまだにオークションやギャラリーに並んでいるものがあるという。美術業界の闇がどれほど奥深いものかも教えてくれる。

[評者] 大竹昭子(作家)

※「週刊新潮」2016年9月29日号掲載

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最終更新:10/13(木) 8:10

Book Bang

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