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映画の“予告編”はどう作られる? 『ジェイソン・ボーン』制作担当者が語る裏事情

リアルサウンド 10/13(木) 12:22配信

 近年、日本では年間約1000作品以上の映画が公開されている。そんな数ある映画の中から、どの作品を劇場で観るかを決める、大きな判断基準のひとつになるのが、予告編だろう。映画館はもちろん、TVCMや映画の公式サイト、近年はSNSなどでも目にすることが多い予告編。しかし、映画がどのように制作されているのかを知る機会があっても、予告編がどのように制作されているのかを知る機会はなかなかないだろう。そこで、リアルサウンド映画部では、洋邦問わず年間約30作品の予告編制作を手がけている制作会社ラフグラフィックスで、主に洋画作品の予告編を制作している瀧澤逸美氏にインタビュー。10月7日に公開された『ジェイソン・ボーン』を中心に、予告編制作にまつわる話を訊いた。

■「『ジェイソン・ボーン』の予告編は重厚感や本物感を重視した」

ーー予告編が世に出るタイミングは作品によっても違うと思いますが、だいたいどのようなスケジューリングで制作されているのでしょうか?

瀧澤:おっしゃるとおり、洋画の場合は、本国との公開時期の間隔などの兼ね合いもあり、作品によって異なります。配給会社から1年以上前に予告編制作のオファーをいただくこともありますが、だいたい1年前から半年前ぐらいのタイミングでオファーをいただくことが多いかもしれません。映画公開の半年前ぐらいに約30秒の特報と言われる映像、3ヶ月前ぐらいに約90秒の予告編、そして3週間ぐらい前に15秒や30秒のTVスポットを出すというのが大きな流れとしてあります。基本的にはその流れに沿って動いていく感じです。

ーー予告編の中でも、第1弾や第2弾などいくつか種類があるパターンもありますよね。

瀧澤:そうですね。邦画の場合は、約30秒の特報が2種類、90秒以上の予告編が1種類というケースが多いですが、洋画の場合は、本国のものにテロップを載せて字幕をつけて、そのままどんどん出していくことが結構あるので、本国が作った本数だけ出すこともあります。ただ、劇場限定だったりWEB限定だったり、出し方に関してはいろいろと工夫をしていますね。そういう意味では、邦画と洋画では予告編に関しても大きな違いがあると言えるかもしれません。洋画はいつ何がくるかがわからないこともあるので、それが面白かったりします(笑)。

ーー『ジェイソン・ボーン』でいうと、日本ではファーストルックと呼ばれるものが最初に公開されましたよね。

瀧澤:まさにこれは本国からもらった素材をそのまま使って、日本語の字幕だけを入れた特報にあたるものです。映画の公式サイトでは、特報のほかに、海外の予告編に字幕を入れた約140秒の海外トレーラーや、30秒のCMなどを見ることができますが、劇場を中心に流している90秒の日本限定予告編も制作しました。海外トレーラーは2分以上のものが多いのですが、日本の劇場では、90秒とかでなければ流せないことが多いんです。ちなみに、『ジェイソン・ボーン』はこれまで私が携わらせていただいた洋画の中で、制作した映像の本数が最も多い作品でした。

ーーそうなんですか?

瀧澤:特報や予告編、TVスポットのほかにも、instagramやFacebookなどの専用映像も何本か作ったんです。中でも、instagram専用映像の制作はチャレンジングでした。作業的には特報映像の画角を正方形にするだけなのですが、ただ単純に画面の真ん中で切り出すと、顔がはみ出たり、見せたいものが切れてしまう。なので、どこを中心に切り出すか、1カットずつ考えなければいけませんでした。それに、SNSはスマホで見る人がほとんどなので、字幕も通常の倍以上の大きさにしたりして、新たな挑戦となりました。

ーー最も見られる映像はやはりTVスポットなのでしょうか?

瀧澤:そうですね、TVスポットは一番見られる可能性が高いです。ただ、TVスポットは、“ながら見”が圧倒的に多くて、注意して見てくれる人がなかなかいないんですよね。いかに15秒や30秒のあいだ見てもらえるかを重視しなければいけないので、ナレーションや効果音など、“音”でインパクトを付けるように心がけています。また、『ジェイソン・ボーン』ではやっていませんが、TVスポットは、終盤に作品のタイトルが出たあと、“オチ”として1シーン入れることが多いんです。その1シーンが作品の方向性を表すので、そこにも注目していただけると嬉しいです。

ーーどのような映像を作るかは、配給会社と相談しながら決めていくのですか。

瀧澤:基本的に、配給会社からいただいたオーダーに沿って作っていくことが多いですが、配給会社からのオーダー以前に、作品によっては様々な決まりがある場合もあります。例えば、『テッド2』なんかは、1作目の『テッド』が日本でも大ヒットしたので、日本の観客が好んでくれそうな予告編を作りやすかったですね。一方、今回の『ジェイソン・ボーン』のように、ポール・グリーングラス監督をはじめとする制作陣の意向が強い場合は、オリジナルのまま流すことが多いです。なので、字幕やコピーだけで日本の観客に届くものを制作しなければいけませんでした。『ボーン』シリーズはアクションが特徴的なので、今回、配給元の東宝東和さんからは、重厚感や本物感を出してほしいというオーダーをいただきました。私はこれまで『ワイルド・スピード』シリーズのような勢いのあるアクション映画の予告編を多く手がけてきたので、テロップにもバンバンCGを使うことが多かったんです。でも今回は、テロップを早く出し過ぎてしまうと疾走感が出てしまって、重厚感が薄れてしまう。なので、文字の大きさや流れるスピードなど、テロップを何回も調整しながら制作していきました。そこが最も難しかったポイントですね。

■「見た人が違和感なく入り込めるような字幕を意識している」

ーー字幕は本編とは違うものが入っていますよね。これも瀧澤さんが入れているんですか?

瀧澤:本編は戸田奈津子さんが字幕を担当されていますが、予告編の字幕は私が入れました。予告編に字幕を入れる場合、映像内で使われているシーンの英文テキストが本国から送られてくることもあるのですが、公開タイミングなどの関係で、テキストをいただけない場合もあります。今回はテキストもなかったので、映像内で登場人物たちが話している内容を耳で聞き取り、それを翻訳する作業も必要でした。作品の情報がほとんどない状況で映像を読み解かなければいけないのです。

ーーなるほど。それはなかなか大変な作業ですね。

瀧澤:訳し方も直訳するのではなく、なるべく意訳するように心がけています。予告編は幅広い世代の方々に見られるので、子どもでもわかるように心がけています。また、限られた文字数の中で作品のテイストを崩さずに字幕を入れなければいけないので、その辺りのバランスも難しいですね。個人的に、字幕はパッと見てすぐ読めるほうがいいと思うので、なるべく1行に収まるようにしています。字幕に関しては、いかに短い日本語で伝えるかということが非常に重要なんです。

ーーご自身が作った予告編と映画の本編を比較するのも面白そうですね。

瀧澤:予告編の段階では映画の情報がまったくない場合もあるので、本編を観て、予告編のあのシーンはここで使われていたのかとか、こんな繋がり方をするのかとか、いろいろ発見がありますね。予告編で使われていた映像が本編では使われていないことも結構あるんですよ。邦画の場合は、特報映像を作らなければいけないタイミングだと、本編がまだ完成していないことが多くて、場合によっては、一切映像がないこともあるんです。そういう時は映像を使わずに、テロップだけで制作したり、特報用に映像を撮ってもらったり、場合によっては実際に現場に行って撮ることもあったりするので、予告編と本編を見比べるのはとても面白いと思います。

ーー予告編に対するリアクションは気になりますか?

瀧澤:SNSなどのリアクションはやっぱり気になってしまうので、よくチェックしていますね。もちろん批判もあります。これまで、「この翻訳おかしくない?」といったような字幕についての批判を目にすることが結構あったので、字幕に関しては特に細心の注意を払うようにしています。私自身、字幕の付け方のバリエーションを増やし、場面に応じて直訳にしたり、意訳にしたり、見た人が違和感なく入り込めるような字幕になるように心がけています。でも正直、賛否両論あっても、話題にしていただけるだけで嬉しいです。自分が作った予告編が世に出て、SNSなどで皆さんがその感想を発信しているのを目にすると、あまりの反響の大きさに驚くことも多々あります。個人的には、その予告編が劇場で流れているのをほかのお客さんたちと一緒に見たときに、この仕事の醍醐味を感じます。作るまではものすごく大変なんですけど、「楽しかったな」って思えるんですよね。

ーー今後、予告編の見方も変わってきそうです。

瀧澤:そう言っていただけるとありがたいです。予告編って、映画館で本編の上映が始まる前に流れているのを何気なく見ている方や、TVで流れているCMをながら見している方が多いと思うのですが、その予告編にもいろいろな情報が詰まっているんです。洋画だったら、制作者が1文字1文字試行錯誤しながら考えた字幕がつけられているので、「自分が入れるならこう入れるのに」と比べながら見ていただくのも楽しいと思いますし、邦画だったら、本編にないカットが使われている可能性もあるので、そういうところを楽しんでいただくこともできるんです。制作者の立場としては、予告編1つにも、1ヶ月や2ヶ月という時間をかけながら作っているので、ひとつの作品として楽しんでもらえたら嬉しいです。

宮川翔

最終更新:10/13(木) 12:22

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