ここから本文です

“転売ヤー”取り締まりはなぜ難しい? ネット上のチケット高額転売の法的論点を弁護士に訊く

リアルサウンド 10/13(木) 16:00配信

 一般社団法人 日本音楽制作者連盟(FMPJ)、一般社団法人 日本音楽事業者協会(JAME)、一般社団法人 コンサートプロモーターズ協会(ACPC)、コンピュータ・チケッティング協議会の4団体が多くの国内アーティストやイベントの賛同を得て、8月23日に発表した『チケット高額転売取引問題の防止』を求める共同声明。新聞全面を使ったその表明は、世間に大きなインパクトを与えた。9月14日にはさらに賛同アーティストとイベントを追加し、再び意見広告を掲載。その試みは各メディアに大きく取り上げられることとなった。

 以降、団体関係者がメディアに露出する機会も増えており、声明を発表するにいたった経緯として、ネット上のサービス・システムを使った「ネットダフ屋」「転売ヤー」の存在に危機感を抱いたことが背景のひとつとして随所で語られている。しかしながら、それらを抑止する明確な糸口は見出されておらず、雑誌『MUSICA』(2016年10月号)の意見広告に登場した株式会社ヒップランドミュージック/有限会社ロングフェロー野村達矢氏は「転売そのものが今法律でも条例でも規制できない状態」であると、転売を取り締まることの難しさについて述べていた。

 今回、この高額チケット転売問題について音楽の著作権法に詳しい弁護士・小杉俊介氏に話を聞いた。まず、先述の「転売そのものが規制できない状態」が意味するのは、具体的にはどのようなことなのか。

「これは、インターネットを介してチケットを高額で転売する行為を取り締まる法律がないことを意味しています。現状は、別の目的で立法された条例や法律に当てはめて規制している状態。たとえば、迷惑防止条例は公衆に著しく迷惑をかける行為を防止するもので、コンサート会場の周りにたむろするダフ屋行為を規制していますが、インターネット上での取引には適用は難しい。また、先日嵐のコンサートチケットをネットで転売した人物が古物営業法違反で逮捕されました。古物営業法は、古物商を許可なく営むことを規制しており、盗品等の売買の防止が本来の立法目的です。嵐の例は、個人でも1000万円ほど利益を得ていたため、古物商の免許取得が必要となる業としての取引だと判断されたのだと思われます。さらに、物価統制令が適用された事例もまれにありますが、本来この法律は終戦直後の経済混乱期に、生活必需品を買い占めて高値で売りつける行為を規制するためのもの。要はすべてチケット高額転売そのものを取り締まることを目的とする法律ではない。問題のある転売行為について、本来は別の目的のために存在する法律に引っかけて規制しているのです。簡単に売買ができるツールが劇的に増え、個人でも営利目的で売買しやすい環境が増えているのに、規制が追いついていない。転売ヤー、ダフ屋がその中に紛れて活動しやすくなっているということも事実です」

 4団体は法改正についても検討していくという意向を声明により明らかにしているが、小杉氏は海外の事例を挙げながら、その難しさについて以下のように解説する。

「高額転売は全世界的な問題。アメリカでも転売行為を取り締まる規制がある州もあり、たとえばニューヨーク州では定価の一定割合を超えた価格での再販売を禁止していますし、本来のチケット売り場から一定の距離内での再販売を禁止するなどの例もありますが、高額転売行為は蔓延しています。チケットが取れないことで有名な超人気ブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』のチケットの転売で、転売屋はこれまでに60億円以上の利益を挙げているとの試算があるほどです。最近、連邦議会で「The Better Online Ticket Sales Act」、通称BOTS法案という規制案が審議されているとの報道がありました。これは、チケットが売り出されると同時に転売目的でTicket Botと呼ばれるある種のソフトウェアを用いて一気に買い占めを行う行為を禁止する法案です」

 このように、アメリカでもある一定の行為に対しての法整備にとどまっており、高額チケット転売全体をカバーする対策は難航しているという。では、高額転売はどのようにして防いでいけばよいのか。

「先ほども例に挙げた『ハミルトン』では、二次流通でのチケット価格の高騰を受けて、最高額のチケットの正規価格をブロードウェイ史上最高の849ドルまで値上げましたが、ネットではその10倍を優に超える1万ドルで取引されている例もあるようです。日本に比べてチケット価格の高騰が顕著なアメリカでも高額転売が問題になっていることからも分かる通り、一定の効果はあるでしょうが、チケット価格の値上げだけで問題は解決しないでしょう。しかし、残念ながら法的に抜本的な解決策があるわけでもありません。高額転売禁止の周知、やむを得ない事情で転売する場合に利用できる公式ルートの整備、入場時の本人確認の徹底などの可能な手段を尽くす以外ない、というのが現状です。今回の意見広告のように業界やアーティストがチケット高額転売を問題視しているんだということを広く知らせるなども一つの防止の手段としては意味があるでしょう」

 10月12日放送の『クローズアップ現代+』(NHK総合)でも「追跡!チケット高額転売の舞台ウラ」という特集が組まれ、コンサートやスポーツ観戦、テーマパークチケットなどの転売の実態について報じられていた。番組終盤にはジャーナリストの津田大介氏と弁護士の福井健策氏の解説のもと「高額転売を防ぐ方法」として、「本人確認の徹底」「高額転売の法規制」「価格の弾力性」の3点が挙げられた。問題の解決について考えれば考えるほど、多様な論点が浮かび上がる『チケット高額転売問題』。すべてを解決することは極めて難しい。しかし、各論点にひとつひとつ対処していくことで、チケット販売・流通システムの理想形に少しずつ近づけるのではないだろうか。

リアルサウンド編集部

最終更新:10/13(木) 16:27

リアルサウンド

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。