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人類の親戚、酵母がもたらしたノーベル賞

JBpress 10/13(木) 6:10配信

 秋といえばノーベル賞、ノーベル賞は秋の季語です。10月3日にはノーベル医学・生理学賞の発表があり、2016年の受賞者は大隅良典・東京工業大学栄誉教授に決まりました。「オートファジー(自食)機構の発見」に対してです。おめでとうございます。

微分干渉顕微鏡で観察した出芽酵母(写真)。

 しかし「オートファジー機構の発見」だとか「トポロジカル物質相と相転移の理論的発見」(ノーベル物理学賞)だとか、題目を聞いても何のことやらさっぱり分からないのが理系の研究の特徴です。

 これが一体なにを意味するのか、少々解説を試みましょう。そしてついでに、新聞・雑誌やテレビなど、旧メディアのニュースでは伝えきれない、受賞にまつわる事情をいくつか紹介しましょう。

■ 細胞内にリサイクル処理施設があった! 

 私たちヒトの体は約60兆個もの小さな細胞の集合です。細胞は1個1個が生きていて、外部から栄養を取り込み、酸素を消費して二酸化炭素を排出し、必要とあらば分裂して増殖する等々、絶えず生命活動を行なっています。

 細胞内には、泡のような細胞小器官がいくつも漂っていて、それぞれ重要な役割を担っています。

 例えば「ミトコンドリア」という細胞小器官は酸素を使ってATPという物質を生産します。

 「核」は、細胞内の全ての活動を制御する、DNAとその転写システムからなる情報処理装置です。

 そして「リソソーム」は、細胞内の不要なタンパク質や細胞小器官を、分解してばらばらのアミノ酸にしてしまう、いわばリサイクル処理施設です。

 細胞内では、その場に応じて必要なタンパク質が絶えず作られていますが、不要になったタンパク質も絶えず分解されています。もしタンパク質が分解されないと、細胞内は用済みのガラクタタンパク質でいっぱいになり、新しいタンパク質の材料となるアミノ酸が足りなくなり、また製造に失敗した不良品のタンパク質が悪さを働き、何もかもがうまくいかなくなります。

 リソソームは、そういう用済みタンパク質や不良品タンパク質を、時には不要な細胞小器官まるごと、強力に分解する、きわめて重要な細胞小器官なのです。また、自分由来でない、外部から来たタンパク質の分解処理も行ないます。

 大隅良典栄誉教授は、不要なタンパク質や細胞小器官が、どうやって隔離膜に包まれ、リソソームに運ばれて分解されるのか、そのメカニズムや働きを明らかにしたのです。

 典型的な処理方法は、不要なタンパク質や細胞小器官を、大きな膜がえいやっと丸ごと包んでしまい、そのままリソソームとくっついて中身を分解させるというものです。

 こうやって、細胞が自分の内部のタンパク質や細胞小器官を分解する現象こそが、「自分を食べる(自食)」という意味の「オートファジー」と呼ばれるのです。

■ 大隅良典栄誉教授の研究対象は美味しい酵母菌

 ただし、大隅良典栄誉教授の(ノーベル賞を受賞した)研究はヒトの細胞を対象とするものではありません。

 研究対象は、酵母菌という、たった1個の細胞からなる単細胞生物です。パンを膨らませたりビールを泡立てたりする美味しい菌です。

 高等な人間様と下等な酵母菌じゃ全然違うじゃん!  と思われるかもしれませんが、実はヒトと酵母菌は案外近縁で、兄弟と言ってもいいくらい似通っているのです。

 最近、地球の全生物の世界は予想を超えて広く多様で、細胞の構造やDNA配列が大きく異なるグループが多数存在することが分かってきました。

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最終更新:10/13(木) 15:35

JBpress

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