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社会人こそ要注意! 職場での麻しん感染を防ぐのが困難なワケ

HARBOR BUSINESS Online 10/13(木) 16:20配信

 今年は夏以降、麻しん(はしか)が流行しています。8月には米人気歌手、ジャスティン・ビーバーのコンサート来場者に感染者が見つかったり、9月には関西空港内での集団感染のニュースが記憶に新しいのではないでしょうか。国立感染症研究所は8月25日に「麻しんに関する緊急情報」を発表しましたが、その後も患者数は増加しており、現時点ですでに昨年の年間患者数の約4倍の患者さんが確認されています。

 麻しんは感染しやすく、こじらせると危険であるとともに、妊婦が感染すると、流産や早産のリスクが高まることもわかっています。さらに麻しんウイルスは感染力が非常に強く、コンサート会場や体育館などどんなに広い場所であっても、その免疫を持っていない人は同じ空間にいるだけで感染します。

 感染すると約10日後に発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状が現れ、2、3日熱が続いた後、39℃以上の高熱と、発疹が出現します。合併症のない限り、7~10日後には回復しますが、肺炎、中耳炎を合併しやすく、患者1000人に1人の割合で脳炎が発症する人もいます。死亡する割合も、先進国であっても1000人に1人と言われています。

◆職場における麻しん対策の現状

 さらに麻しんは職場においてもなかなか有効な対策が取れずに困っているのが現状です。

 今回は職場における麻しんの何が問題か。どのような対策が有効で、なぜそれができないのか。さらに現状、最善の策として何ができるかについて説明したいと思います。

 職場における麻しんの理想的な対策は、麻しん感染者、または家族が感染した者が人事に自ら申し出て、社内でそれを速やかに公表することでしょう。それが他の社員への予防と早期発見の第1ステップとなるはずです。また、実際に麻しんにかかった社員は学校保健安全法と同じく、解熱した後3日を経過するまで出勤停止とするのが理想的でしょう。

◆立ちはだかる個人情報の壁

 しかし、ほとんどの会社ではこれが社員にできません。理由はその裏付けとなる法律がないことと病名などが個人情報であり、本人の同意なしに会社が勝手に扱えないためです。

 麻しんは感染症法では「五類感染症 全数把握疾患」であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならないとされています。しかし、医師も保健所も会社には伝える義務はありません。なので、会社は患者本人が麻しんであることを自己申告しないとわからないのです。

 また、学校保健安全法では、麻しんは第2種の感染症に定められており、解熱した後3日を経過するまで出席停止とされていますが、労働安全衛生法をみても会社におけるこのような規則はありません。そのため、熱が引いて、すぐに出勤する社員を止めることは難しいというのが現状です。

 一般論としてもし社員が病気で会社を休んだ場合、就業規則などで診断書の提出を求め病名を会社が把握するとは合法的に可能です。しかし、たとえ該当社員の名前を公表しなくても他の社員が麻しん感染者を容易に想像できる形で、社内で公表することは本人の許可なければ、個人情報(個人の医学的情報)の開示となりますので、会社に新たなリスクをもたらします。

◆危険なのは妊婦さんへの感染

 では、全社員だけではなく、社内の妊婦さんにのみ、麻しんにかかった社員がいることを公表するのはどうでしょうか? 実際、私の産業医クライアントには麻しん感染者本人の同意のもと、そのようにしている会社もあります。しかし、これも万能ではありません。

 第1に、すべての妊婦さんが会社に自分の妊娠を早い段階で伝えるとは限らないからです。12週位の安定期に入ってから、上司や人事に伝える方はたくさんいます。会社が把握していない妊婦さんは同僚の麻しん情報を教えてもらえないわけです。

 第2に、会社に教えてもらったとしても、それ以降は在宅勤務などが可能であれば対処できますが、在宅勤務ができない場合は有給休暇扱いなのでしょうか?そのようなことを明記する就業規則を私は見たことがありません。また、最悪のケースとして、会社に教えてもらった時点で、既に感染してしまっている可能性もあります。

 それではどうしたらいいのでしょうか。実は、麻しんから身を守る方法はあります。

◆麻しんウィルス抗体の有無を確認すべし

 まず今まで麻しんにかかったことが確実である人は、免疫を持っていると考えられるため予防接種を受ける必要はありません。

 麻疹の予防接種を受けるべきは、定期接種の対象年齢の方々(1歳児、年長の幼児)と、それ以外でも「麻しんにかかったことがなく、ワクチンを1回も受けたことのない人」です。もしワクチン接種の回数や以前に麻しんにかかったか否か、記憶が曖昧なときは、最寄りの医療機関で採血して、麻しんウィルス抗体の有無で確認できます。お近くのお医者さんに行きましょう。

 私は産業医として特に妊娠可能な年齢にある女性には麻しんワクチンの接種や抗体価の確認をお勧めしています。麻しんは、妊娠中に麻しんにかかると流産や早産を起こす可能性がありますので、妊娠前であれば、未接種・未罹患の場合、ワクチン接種を受けることを必ず検討すべきです。ただし、ワクチン接種後、2か月間は妊娠を控える必要がありますのでご注意ください。

 もしあなたがすでに妊娠しているのであればワクチン接種を受けることはできません。麻しん流行時には外出を避け、人混みに近づかないようにするなどの注意が必要です。詳しくは、かかりつけの医師にご相談ください。

◆なぜ麻しん患者が増加したか?

 実は最近ニュースになっている麻しんの流行における患者さんは、20~30代の若者がほとんど。なぜ最近の麻しんの流行は肉体的に元気であるはずのこの世代を中心に流行しているのでしょうか。理由は大きくわけて3つあります。

 1つ目に20~30代の人たちの中には、今まで一度も麻しんの予防接種を受けていない人がいます。麻しんは、かつては小児のうちに一度感染し、自然に免疫を獲得するのが通常でした。しかし、麻しんワクチンの接種率の上昇で自然に感染する人は少なくなってきています。この人たちは、麻しんにかかっていない限り、麻しんウイルスに対する免疫を持っていません。

 2つ目の理由はそもそも麻しんの予防接種は一度で十分な免疫が獲得できるとは限らず、麻しんワクチンを1回接種しても、数%程度の人には十分な免疫がつかないことが知られています。’90年4月1日以前に生まれた人は、子どもの頃に麻しんワクチンは1回受けるのみでした。そのため、現在の26歳以上の若者は、時間の経過とともに麻しんウィルスに対する免疫が徐々に弱まって来ている人がおり、麻しんウィルスに対する充分な免疫が得られていない状態です。つまり、現代の若者は麻しんにかかりやすい人がいる世代なのです。

 3つ目の理由として海外からの麻しんウイルスの侵入が挙げられます。日本は’15年3月に世界保健機関西太平洋地域事務局により、麻しんの排除状態にあることが認定されています。最近の国内における麻しんのニュースはほとんどが海外から持ち込まれた麻しんウイルスによるものなのです。

 外国との人々の交流が盛んな現在、海外からのウイルスや病気の侵入は避けて通れません。一人ひとりの予防意識が求められているのです。

<TEXT/武神健之>

【武神健之】

たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある

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最終更新:10/13(木) 16:28

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北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。