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日立のスーパーエンジニア、AIで「幸福度」を数値化! 原点はジャズに?

NIKKEI STYLE 10/14(金) 7:47配信

 日立製作所のスーパーエンジニア、矢野和男氏が人工知能(AI)研究へと向かうきっかけは、半導体事業の見直しに伴う全社的な事業再編だった。AIという言葉を口にするのもはばかられるような環境の中、ブレークスルーできたもう一つの原点は、学生時代に没頭したジャズにあるという。無関係にも見えるジャズと研究との接点は、どこにあったのだろう。
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 科学者になることを志した高校生のころ、ノーベル物理学賞をとった湯川秀樹博士に憧れていました。第1志望は湯川博士の出身大学、京都大学でしたが、残念ながらかなわず、早稲田大学に入りました。

 そのころ、サークル活動でサックスを吹き始め、かなり没頭しました。ただある時、サックスを究めるだけでは、サックスは究まらないということにも気づきました。

 たとえば、同じサークルの中に、後から入ってきたはずなのにどんどん伸びてうまくなる人がいる。そういう人はやはりサックスだけではなく、ピアノやギターも弾けば、アレンジもこなすなど、トータルで音楽そのものを知っていました。彼らにとって、サックスはあくまでも表現手段の一つにすぎなかった。

 それに比べて、私は音楽をやっているのではなく、ただ単に、サックスという楽器を吹きこなそうとしていた。音楽そのものを楽しみ、没頭するというところにまでは至っていなかったのです。

■定量データ分析に心理学を掛け合わせる

 ジャズにまつわるそんな苦い経験があって以来、研究者として何かのテーマに取り組む際にも、より一段高い視野で見て、自分で垣根を作らないようにしようということは心がけてきました。半導体の研究をしていた時も、保守本流のテーマを攻めるというよりは、Aという分野とBという分野を掛け合わせたらユニークな研究ができるのではないか、ということばかり考えていたような気がします。

 じつは、AI研究のブレークスルーにも、このような掛け合わせが関係しています。人間の計測と定量データ分析に心理学的要素を加えたら、より人や組織に関する本質に迫れるのではないか。そんなふうに考えたことが、大きなきっかけになっています。

 出会いのひとつは、仕事で米国出張した時にありました。シカゴのオヘア国際空港の書店に入ると、カリフォルニア大学のソニア・リュボミルスキー教授の『ハピネスの方法(The How of Happiness)』がレジの前に平積みされていた。AIの研究が再注目されるのと歩調を同じくして、この10年あまり、人間の幸福というものに対しても、科学のメスが入れられるようになってきました。いわゆる「ポジティブ心理学」と呼ばれる分野です。リュボミルスキー教授はこのポジティブ心理学の専門家でした。

 人間をより幸せにすることができるテクノロジーを開発できたら、そのインパクトは極めて大きなものになる――。買い求めた本を読み進めるうちに興味が湧き、早速、本人に連絡をとり、ロサンゼルス郊外のリバーサイドにある教授の研究室を訪問。そこから、幸福の心理学が専門のリュボミルスキー教授とのユニークなコラボレーションが始まりました。

 ハンガリー出身の心理学者で、クレアモント大学院大学のミハイ・チクセントミハイ教授との出会いも、大きな刺激になりました。彼は人間が行為に集中し、没頭することを「最適経験」と呼び、これを「フロー状態」と名付けました。私はこの「フロー」という概念を本で読み、そこに人間行動と幸せを結びつける鍵があるのではと直感し、早速、チクセントミハイ教授にメールで連絡をとり、会いに行きました。

 このように加速度センサーを使って幸福度を測定する研究は、従来ある学問の垣根を取り払い、分野を横断したところから生まれています。考えてみたら、アインシュタインもニュートンもみな、複数の分野をまたいでいる。新しい分野を切り開くには、「これは物理学だ」「これは心理学だ」と垣根を作らずに、ものごとをトータルで広く見る姿勢が重要なんだと、再認識しました。

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最終更新:10/14(金) 7:47

NIKKEI STYLE

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