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“イヤミスの女王”湊かなえ「嫌な状況を突き抜けたらどうなるかを考えながら書くのは楽しい」

Book Bang 10/14(金) 15:28配信

――新作『ポイズンドーター・ホーリーマザー』は毒気を含んだ六篇が収録された短篇集です。母と娘、抑圧状態の女性、不幸に酔う女の人など、どれも複雑な女性の心理がもたらすものが描かれていますよね。これはもともと一冊の本にまとめることを意識して書かれたのですか。

湊 短篇掲載のお話をいただいたのが、『宝石 ザミステリー』というミステリー小説誌でした。年に一回か二回の刊行だったので、そのたびに何か書きたいものを考えて書いてお渡ししていたので、バラバラなものを書いている感覚だったんです。でも、まとめてみると全体に通じるものがある作品集になったのかなと思いました。発表順に収録しているんですが、巻頭の「マイディアレスト」は四年前に書いたものになりますね。

――この「マイディアレスト」のラストがあまりにブラックで、お、今回はイヤミス短篇集か! と思いました。一人の女性が事情聴取を受けているのか、ずっと自分や家族のことを語っている。彼女の妹が事件に巻き込まれたようなんですよね。姉である語り手は現在無職の実家暮らし、猫を愛でる日々を送っていたところ、妊婦の妹が帰省する。でも、折しも近所では妊婦暴行事件が連続して発生していてという。

湊 これは、最初のタイトルが「蚤取り」だったんです。独身女性が猫を飼い始めると猫ばかり可愛がるから結婚できなくなる、というエピソードを聞いたことがあったんです。それで、それが行き過ぎて猫に依存してしまう女の人を書こうと思いました。仕事もしていない、結婚もしていない、家族からも疎まれて、毎日スーパーに行くことくらいしかしていないけれど、私には猫のこの子がいる、と思っている女の人の話です。猫に依存すればするほど、外との壁を厚くしてしまっているんです。

――この「マイディアレスト」のラストがあまりにブラックで、お、今回はイヤミス短篇集か! と思いました。一人の女性が事情聴取を受けているのか、ずっと自分や家族のことを語っている。彼女の妹が事件に巻き込まれたようなんですよね。姉である語り手は現在無職の実家暮らし、猫を愛でる日々を送っていたところ、妊婦の妹が帰省する。でも、折しも近所では妊婦暴行事件が連続して発生していてという。

湊 これは、最初のタイトルが「蚤取り」だったんです。独身女性が猫を飼い始めると猫ばかり可愛がるから結婚できなくなる、というエピソードを聞いたことがあったんです。それで、それが行き過ぎて猫に依存してしまう女の人を書こうと思いました。仕事もしていない、結婚もしていない、家族からも疎まれて、毎日スーパーに行くことくらいしかしていないけれど、私には猫のこの子がいる、と思っている女の人の話です。猫に依存すればするほど、外との壁を厚くしてしまっているんです。

――猫好きの自分としては耳の痛い話です。でも湊さんも猫を飼っていますよね。たしか『豆の上で眠る』の時に、家出した猫を探した経験が描写の役に立ったという。

湊 そうです(笑)。この短篇を書いた頃にちょうど飼い始めたんです。私は外飼いしているんです。家の中では甘えてくるのに、家から離れたところで会うと、よそよそしいんですよね。「なんでここにいるの?」という顔をする。その様子を見ると、こっちが思うほど好かれていないのかなと思ってしまう。この短篇でも、そうした猫の様子を踏まえて書いてあります。

――母親の態度も気になりました。小さい頃から、姉には厳しかったのに、妹には甘いという。それで妹がちょっと図に乗っている印象もありますね。

湊 私も二人姉妹の姉で、母が私に厳しかったんです。でも悪気があったわけではなくて、ここに出てくるお母さんも言っていますが、一人目の時は頑張ったけれど、二人目の頃になると年齢的にも体力が落ちて「しんどいねん」ということらしいです(笑)。それに妹も姉の様子を見ているから、要領よく立ち回るんですよね。私がテストの点数が悪くて叱られている姿を見ているから、自分の点数が悪かった時は泣きながら「できなかった」と報告する。すると親も「そこまで気にするほどじゃない」と言ってくれる。
 私のほうが頑張ったのに、妹のほうが楽しそう、と思っているお姉さんって世の中にたくさんいると思います。そういう思いを抱えながら、猫に依存しきってしまうようになった女の人がいたらどうなっていくかな、と考えました。イヤミスを書こうと意識はしていませんでしたが、こうした嫌な状況を突き抜けたらどうなるかを考えながら書くのは楽しいですね(笑)。

――次の「ベストフレンド」も実体験がヒントになっているのではないでしょうか。湊さんは作家になる前に脚本賞に応募していらしたそうですが、これは脚本の新人賞で優秀賞に選ばれた女性が主人公。授賞式で一度だけ会った最優秀賞の女性に、その後嫉妬と羨望の気持ちを抱き続けていくという話です。

湊 私がはじめてシナリオコンクールで佳作に入って授賞式に行った時、大賞の人はもうすでに何回かプロデューサーと打ち合わせをしているようだったんです。入選者のなかでその人だけすでに向こう側の世界に行ってしまった感じがありました。その大賞受賞者は私たちのことは眼中に入っていなかったかもしれませんが、私には妬ましい気持ちと頑張ってほしい、という両方の気持ちがずっとあるんですよね。今でも名前を見かけると、頑張っているんだなって思います。授賞式の時しか会っていない遠い存在なのに、そんなふうにライバル認定する関係というのは、なかなかないですよね。そもそも大人になるとライバルも友達もできにくいですし。それが面白そうだと思いました。
 それと、小説の賞はペンネームを使えますけれど、当時シナリオの賞は本名で応募するのが原則だったんです。会ったこともないのに一次選考や二次選考の結果を見て、名前でおぼえる人も多かった。それで、今回は作中に珍しい名前を使いました。

――ああ、主人公の名前が漣涼香(さざなみすずか)、大賞を獲ったライバルの名前が大豆田薫子(まみゆうだかおるこ)などといった名前なのは、そのためなんですね。

湊 「珍しい名字辞典」というものでいろいろ調べて登場人物たちの名前を決めていきました。ついでに私の「湊」という字についても調べたんですよ(笑)。「港」は海側、「湊」は陸側を指すそうです。人の名前や地名の「みなと」に「湊」の字が多いのは、陸側の部分だからなんですね。

――なるほど(笑)。漣さんはその後、大豆田さんの手がけた作品だけでなく、それに対するネットの評判も必ずチェックするようになる。そして批判的な書き込みを見ては溜飲を下げたりもします。

湊 私は作り手になりたい人が、中途半端にネットに中傷を書き込んでは駄目だろうと思っています。ただ楽しみのためだけに批判を書き込む人はそれでいいかもしれませんが、自分で創作をしたい人にとって、悔しいとか妬ましいという負の感情は大きな原動力になります。それをネットに吐き出してしまうのではなく、作品にぶつけたらものすごく面白い一本ができるはずなのにな、って思っています。自分も何かを悪く言うことくらいはありますが(笑)、でも怒るようなことがあったら、それを公に出したくはないですね。どうせなら作品に叩きつけたいです。

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最終更新:10/14(金) 15:28

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