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シリア内戦で民間人を殺している「空爆」の非人道性 - 川上泰徳 中東ニュースの現場から

ニューズウィーク日本版 10/14(金) 18:55配信

<国際社会は「無差別空爆」の非人道性に対する認識が低すぎる。5年半を過ぎたシリア内戦で、アサド政権軍とロシア軍が反体制地域に空爆を繰り返し、子供・女性を含むおびただしい数の民間人の死者を出している。米欧の有志連合による空爆でも同様だ。人権団体は悲惨な現状をリポートしているが、今も関心は低い> (写真は9月26日、アレッポで空爆に遭った後、生存者の捜索を続ける人々)

 5年半を過ぎたシリア内戦で、アサド政権軍とロシア軍による反体制支配地域への激しい空爆がおびただしい数の民間人の死者を出している。8月中旬に、空爆で崩れたビルの瓦礫の下から救出され、救急車に乗せられた5歳の男児の写真が欧米のテレビや新聞で脚光を浴びた。全身が埃に覆われ、固まったように正面を見据える幼い姿は、戦争の悲惨を体現していた。

 しかし、この男児の映像は、生きていたからこそ米欧や日本のメディアに出たものだ。ぼろぼろになった子供の遺体ががれきから引き出され、子供を抱きしめて絶叫する父親や母親の映像が毎日のようにアレッポ発のYouTubeで流れている。

【参考記事】「瓦礫の下から」シリア内戦を伝える市民ジャーナリズム

 シリア反体制地域にスタッフを置いて民間人の被害という戦争犯罪を伝える人権組織「シリア人権ネットワーク(SNHR)」のホームページを見れば、一目瞭然である。

 10月13日に、SNHRのホームページに記載されていたニュースは次の通りだ。

・12日、アレッポのゼブディエ地区でロシア軍機と見られるミサイル攻撃で少なくとも3人死亡。
・11日にアレッポのブスタンカスルへのロシア軍機と見られるミサイル攻撃による虐殺の犠牲者は少なくとも40人に増加した。その中には10人の子ども、5人の女性が含まれる。
・12日、アサド政権軍や親政権軍(ロシア軍)によると見られる攻撃で女性7人の死亡を確認。
・12日、シリア全土で、政権軍と親政権軍(ロシア軍)の攻撃による死者を計77人と集計。
・12日、アレッポのフェルドウス地区へのロシア軍機と見られる空爆による死者は少なくとも15人に増加。
・11日、(シリア東部)デルゾール州のボカマル市バカン村での有志連合による民間の車に対する空爆で民間人5人が死亡。
・12日、首都ダマスカスのエルベイン地区への政権軍機による空爆で少なくとも3人が死亡。
・12日、(シリア中部)ホムス州のカフルラハ町での政権軍機による空爆で少なくとも5人が死亡。
・12日、アレッポのフェルドウス地区への政権軍の同盟国の軍機と見られる空爆で少なくとも死者8人。
・12日、(シリア北部)イドリブ州の東方のジュルジャナズ町でロシア軍機と見られるミサイル攻撃で民間人3人(1人の女性と、その子供)が死亡。

 まるでアサド政権軍とロシア軍の攻撃ばかり取り上げているようであるが、米国が率いる有志連合の空爆による民間人の犠牲も出てくるので、そうではないと分かるだろう。政権軍とロシア軍による空爆で民間人が犠牲になる事例が多すぎるということである。

9月だけで犠牲者1000人超、8割は政権軍・ロシア軍

 SNHRは毎月、「政権軍」「ロシア軍」「反体制組織(自由シリア軍、イスラム武装組織)」「イスラム国(IS)」「シリア・ファトフ戦線(元ヌスラ戦線)」「有志連合」「クルド人勢力」に区分けして、引き起こした市民の死者数を集計し、発表している。9月は1176人の民間人が死亡し、各派の数字は次の通りである。

「政権軍」 602人(51%) 子供192人、女性163人
「ロシア軍」 391人(33%) 子供114人、女性54人
「イスラム国(IS)」 99人(8%) 子供17人、女性5人   
「反体制武装組織」 38人(3%) 子供19人、女性6人
「有志連合」 14人(1%) 子供6人、女性2人
「シリア・ファトフ戦線」1人(0%)
「クルド人組織」 2人(0%)
その他・不明  29人(2%)

 断っておかねばならないが、SNHRの集計がすべての犠牲者を網羅しているわけではなく、同組織が確認できた死者数である。SNHRはISの戦士や政権側での犠牲については、検証できないので集計に入れていないことを明示している。

 なお、反体制地域で活動する人権組織は3つあり、それぞれ独自に内戦に伴う人権侵害や国際法違反を監視している。「反体制地域で活動する」と断るのは、アサド政権の支配地域では政府に批判的な市民組織の活動は認められていないからである。「シリア人権監視団(SOHR)」や、「人権侵害記録センター(VDC)」が残りの2つで、いずれも国連人権高等弁務官事務所のシリア内戦の犠牲者についての情報源として認定されている。



 私はSNHRの数字で状況の推移を見ることが多い。それはSNHRが民間人の犠牲の集計に力を入れていることと、リポートの中で犠牲者の名前、年齢、現場の写真、現地の人々の声などが紹介され、集計の元になった現場の情報を開示しているためである。

 上に紹介したSNHRの9月の民間人の犠牲の数字は、内戦開始以来、各派によって多少の増減はあるものの、傾向は変わらない。特に政権軍と、政権を支援するロシア軍が、民間人犠牲者の8割以上というのは変わらず、世界的には諸悪の根源のように言われているISが民間人死者の10%前後というのもいつものことである。シリア内戦で空軍力を持っているのは国内で政権軍だけであり、住宅地への無差別空爆や巨大爆弾の投下が最大の市民の犠牲を出している。ロシア軍は政権支援の立場から、一緒になって反体制地域を空爆している。

「戦争犯罪として国際的な法廷で裁かれるべき」

 ロシアは9月中旬にあった1週間のシリア停戦を米国と合意したことから、シリア和平に熱心なように受け止められているかもしれない。しかし、昨年9月末に始まった反体制地域へのロシア軍の空爆を見れば、その非道さこそが、シリア内戦を悪化させている元凶の一つというしかない。

 今年10月初め、過去1年間のロシアの空爆について、先に挙げたシリアの人権団体のSNHR、SOHRの両組織が集計を発表した。SOHRの発表によると、ロシア軍の空爆で計9364人が死亡し、その内訳は民間人が3804人(うち子供が906人、女性561人)▽IS戦士が2746人▽その他反体制戦士2814人――という結果である。SNHRの数字は、民間人の死者計3264人で、子供911人、女性619人という結果である。

 両組織とも、民間人の死者が3000人を上回り、想像を超える無差別空爆となっている。SOHRの集計では、ロシア軍による民間人の死者が、IS戦士の死者よりも多いのは驚きである。ロシア軍がアサド政権とともに反体制地域に懲罰的な無差別攻撃を加えていると考えるしかない。

 SNRHのリポートは27ページにわたって被害の詳細を出している。それによると、民間施設への攻撃417件▽クラスター爆弾の使用147件▽焼夷弾の使用84件▽救急隊や消防隊への攻撃、死者は救急隊員32人、消防隊員11人▽報道関係者への攻撃、死者12人――などとしており、「戦争犯罪として国際的な法廷で裁かれるべきである」と勧告している。

【参考記事】アレッポに蘇るチェチェンの悲劇
【参考記事】オバマが見捨てたアレッポでロシアが焦土作戦

 10月初めにフランスとスペインは、ロシア軍によるアレッポ上空の軍用機飛行および空爆の停止を求める決議案を国連安全保障理事会に提出したが、ロシアは拒否権を行使した。フランスや米国は、反体制地域に対するロシア軍やアサド政権軍の空爆を国際司法裁判所などに提訴する可能性も示唆している。

 やっと悲惨な空爆に関心を向ける動きが出たようにも見えるが、空爆の非人道性への関心というよりも、米欧とロシアの政治的な確執の色合いを強く帯びている。ちなみに、米軍が主導し、フランス軍も積極的に参加する有志連合のIS空爆は、イラク側で2014年8月から、シリア側では9月から始まったが、SNHRの集計によると、誤爆や巻き添えによって、これまでに約600人の民間人の死者が出ている。ロシア軍空爆による3000人を超える民間人の死者は許せないが、有志連合による600人の民間人の巻き添えはやむを得ないという議論は成り立たない。

 政権軍であれ、ロシア軍であれ、さらに有志連合であれ、民間人を巻き添えにする空爆に対する認識の甘さが世界に蔓延している。空爆で民間人が殺戮されることの重大性が軽視されている。



ISの残酷行為に目を奪われ、現実が見えていない米欧

 シリア内戦に限って言えば、政権軍やロシア軍による激しい空爆がこれまで続いてきた理由の一つは「イスラム国(IS)」の存在だろう。米欧は、ISの残酷行為に目を奪われて、ISさえ排除すれば、シリア内戦の問題が解決するかのような幻想に陥っている。

 ドイツの国際放送「ドイチェ・ヴェレ(DW)」に興味深い記事が掲載された。昨年、100万人の難民が地中海を渡って欧州に押し寄せた。最も多くの難民を受け入れたドイツで昨年10月、人権組織が約900人の難民に対して、難民化した理由について質問した。70%が「アサド政権の攻撃から逃れた」と答えたという。この調査結果を伝えたDWの記事に、調査に関わったドイツ人人権活動家の次のようなコメントがある。

「ドイツでは多くのシリア難民が出ているのはISのせいだというイメージが広がっているが、それとは異なる調査結果が出て驚いている。ISとの戦いを続けても、難民を減らすことにはならないということを示す。ドイツの外交官は念頭に置いておくべきだ」

 この調査から分かるのは、シリアの難民問題を収束させられるかどうかは、市民を無差別に殺戮するアサド政権の空爆をいかに終わらせるかにかかっているということである。シリア内戦が引き起こした現実に直面しているドイツでさえ、「イスラム国」の肥大化したイメージにごまかされ、現実をとらえきれていない。DWが書く「多くのシリア難民が出ているのはISのせいだというイメージ」はドイツ人だけの幻想ではなく、難民問題を引き受けようとしない欧米諸国や日本ではもっと深刻であろう。

 このことは、米欧が重視するISのテロともかかわってくる。米欧でのISのテロの発端となったのは、有志連合の空爆に対する報復として、ISの報道官のアドナニが「民間人、軍人の区別なく、有志連合に参加する国々の国民を、あらゆる可能な手段を使って殺せ」と声明を出したことである。

 その声明の中に、次のような下りがある。

「信仰者たちよ。あなたたちは十字軍の軍隊が市民も戦士も区別せずに、イスラム教徒の土地を空爆している時に、アメリカ人やフランス人、さらに他の有志連合の国民が、この地球を安全に歩くのを放っておいているのか? 彼らは3日前にシリアからイラクに運航するバスを空爆して、9人のイスラム教徒の女性を殺害した。あなたたちはイスラム教徒の女性たちや子供たちが昼夜なく続く十字軍の爆撃機の轟音を恐れて震えている時に、不信仰者どもを家で安全に眠らせておくのか? あなたたちは自分の兄弟を助けることなく、キリスト教徒の胸に恐れを投げ入れることもなく、彼らによる数多くの空爆に対して何かしようとすることもなく、人生を楽しみ、安眠を得ることができるというのだろうか?」

 有志連合によるIS空爆によって600人の民間人が殺害されているというリポートが、中立的な人権組織から出ていることを考えれば、空爆に報復を求めるIS報道官の声明は、IS支持者にはいまなお意味をもっているだろう。ISが自らが支配している民間人の命を尊重しているというつもりは全くないが、逆に、欧米もIS支配下の民間人を軽視しているという点では同列であろう。



自軍の犠牲を最小限にするため、空爆やドローン攻撃が主体に

 シリア内戦を離れれば、21世紀に入ってから、アブガニスタン戦争やイラク戦争以降を見ても、空爆による民間人の犠牲は増えている。イラク戦争で明確に出てきたように、自軍の犠牲を最小限にするために、大規模な空爆やミサイル攻撃を行った後で、地上軍を進めるという手法がとられるようになった。イラク戦争後にイラクで取材をして、イラク人から米軍の空爆で家族を失ったとか、家族に致命的な障害が残ったという訴えを行く先々で聞いた。米軍から補償を受けたという例を、私は聞いたことがない。

 2008年末以来、3回にわたったイスラエル軍によるガザ攻撃でも、大規模な空爆によって、多くの民間人が命を落としている。2014年夏の50日にわたる攻撃では、国連の調べで、2551人が死亡し、そのうち民間人1462人(65%)である。この時の国際社会の反応の鈍さには驚いた。国連安保理の場での責任追及さえなかった。

 2009年1月に就任したオバマ米大統領は、イラクからの米軍撤退やアフガニスタンからの米軍削減など、地上部隊を減らしたが、その代わりに、空爆やドローン(無人爆撃機)を使った軍事作戦に集中した。今年7月には2015年末までの7年間に軍事作戦の巻き添えで死んだ民間人は「64人から116人」だと発表した。この数字は、SNHRが集計したシリア国内だけの有志連合の空爆による民間人の犠牲を遥かに下回る。

 オバマ大統領の発表については、欧米メディアでも実際にはもっと多いのではないかと疑問を投げかける記事が多い。SNHRは米軍が民間人の犠牲を認めないと繰り返しリポートで書いている。この発表を見る限り、オバマ政権には空爆やドローンがもたらす非人道性への認識が低いと考えるしかない。

 現在のアレッポなど反体制地域へのアサド政権軍やロシア軍による無差別空爆は、スペイン内戦に介入したドイツ空軍によるゲルニカ爆撃や旧日本軍による中国・重慶爆撃で始まった敵への戦略爆撃の流れの中にあると考えるべきだろう。日本は加害者でもあるが、第2次世界大戦末期に日本本土空襲を受けて、日本全国で30万人以上が死んだ被害の経験も持つ。

 私事になるが、私の亡母は1931年生まれで、13歳で遭遇した長崎県・佐世保大空襲で逃げ回った記憶を、生前繰り返し話した。2時間ほどの間に1200人以上の市民が死んだ。煌々と空を焼く焼夷弾の恐ろしさや、市が焼け野原となり家を失った話など生々しい経験である。アレッポの悲惨なニュースに接して、日本人は空爆の非人道性にもっと敏感であってもよいのではないかと考える。

川上泰徳

最終更新:10/14(金) 18:55

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