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〈見られていないと興奮しないの〉 天才職人の見出し文字集!

Book Bang 10/15(土) 18:00配信

 かつて大衆雑誌には、タイトルや見出しを扇情的に見せるべくデザインされたハンドレタリングが躍っていた。あれが「描き文字」である。

 劣情に訴えかけるのをもっぱら使命としていた描き文字は、エロ雑誌や実話誌、女性誌などで重用されていたが、70年代半ばから写植にその座を奪われていき、80年代にはほぼ姿を消した。

 出自はカストリ雑誌。昭和30年代、40年代に最盛期を迎えた。著者としてクレジットされている橋本慎一は、その最盛期に活躍し、つい最近まで現役だった職人である。昭和4年生まれの87歳、武蔵野美術学校卒業後、製版所に就職することになりレタリング技術を学んだ。3年ほど勤めたのちに独立、『週刊文春』に創刊から関わったことで描き文字職人として第一線を張るようになった。

 装丁にあしらわれた三つの描き文字から雰囲気がつかめる。ある世代以上の人は懐かしく思い出すだろう。本文には、縦書き・横書きに分けて171本の作品が収録されている。

「見られていないと興奮しないの」といった直球から、「情事を愛するからアイ・ジョージ」なんてダジャレ、「女と男をひとりで演じた美人局」という三文ドラマが始まりそうなものまで、惹句は実にバラエティに富んでいる。

 字体は、文面に応じて毎度案出していたそうだ。「思いつきだね(笑い)」と橋本はいなすが、手癖に流れず変化を持たせ続けるのはさぞ難儀だったに違いない。藤木TDCが解説で、見よう見まねで描き文字を制作したことがあるが「熟練の職能がなければ分からないことが多々あった」と述べている。こうしてたくさん並ぶと、芸術と呼ぶつもりは毛頭ないけれど、壮観である。

 版元のカストリ出版は、赤線や遊郭などに関する貴重資料の発掘復刻に特化した一人出版社。ロゴマークは橋本慎一の作である。社のイメージによく似合った素敵なロゴだ。


[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)
※「週刊新潮」2016年10月13日号 掲載

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最終更新:10/15(土) 18:00

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