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連載|荏開津広「東京/ブロンクス/ヒップホップ 1983ー1996 」第3回

ローリングストーン日本版 10/15(土) 18:00配信

原宿でブレイキングするB-BOYたちのあとに現れた近田春夫、いとうせいこう、タイニー・パンクスがまずラップに真剣に取り組んだ。つまり、ミュージシャン、作家、DJだ。

連載|荏開津広「東京/ブロンクス/ヒップホップ 1983-1996 」第1回

1982年に製作された映画『ワイルド・スタイル』は、ラップ、DJカルチャー、ブレイク・ダンス、グラフィティを接合しヒップホップというカルチャーを形成した。大体、当時"ヒップホップ"という言葉が今とは違って使われていた。そもそもサウス・ブロンクスのオリジナルなラップ・グループ、グランドマスター・フラッシュ&フューリアス5 のカウボーイが、1978年に"ヒップホップ"と軍隊の行進の様子を擬音化してリリック(歌詞)にとりいれたのがその語源だというが、この言葉が印刷されたのは(のちに世界最初のヒップホップについての書籍を著すことになる)スティーヴン・ヘイガーによるNYのローカルな新聞『ヴィレッジ・ヴォイス』への寄稿記事がその最初だ。そこではDJアフリカ・バンバータのプレイしていた音楽を指して、従来のディスコやファンクといったジャンルと区別するために"・・・がプレイしていたヒップホップな音楽は・・・"と形容詞的にこの単語は使われていた||アメリカのヒップホップが日本に入ってくるにはすごく時間がかかったのではないし、その成立からヒップホップという音楽にはメディア(この場合は映画や雑誌)が抜き差しならぬように関わっていたのだ。

東京/ブロンクス/ヒップホップ 1983-1996 03_(2)

結果として映画『ワイルド・スタイル』はアメリカの映画祭で上映されたあと、映画プロデューサー葛井克亮氏の慧眼によって、世界プレミアが日本での公開になり映画のキャストとスタッフが総勢約30人来日したのだった||1983年に。

この映画『ワイルド・スタイル』(とそのプロモーション)の日本で与えた影響については、ひとつだけ触れておく。この映画に触れた者が日本でヒップホップを始めたという事実だが、それは多数派ではなかったどころか、数えるほどだった。しかし、それは時代を後戻りさせなかった。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー・アルバムがロックの歴史に与えた影響を少し思い出させる。

ポピュラー・ミュージックの歴史のタイムラインで起こっていたのは次のようなことだ。パンクがロックの死を宣言し、ポスト・パンクがロックをばらばらに解体した。実はほとんどの人間はそれを真剣にとっていなかったのだが、実際にロックのイデオロギーは崩れ、ダンスの時代がやってきたのであった。ロックがなくなったのではない。だが、それまでロックが担っていた役割の多くをヒップホップ~ラップ・ミュージックが奪ったのだ。なぜそれが可能だったか? ロック評論家が当時から指摘していたように、
ダンス・ミュージックの持つはっきりした肉体性の復権が大きいのか? そのことは実は前号に書いたトレヴァー・ホーンの仕事に要約されている。

ヒップホップの世紀の始まりだ。1984年にはブレイカーたちが原宿の歩行者天国で段ボールの上でお互いの技を披露し始めた。1985年にはアフリカ・バンバータ、LLクールJ と二組のヒップホップ・アクトが来日した。この時点でストリート・レベルでのブレイカーやDJは他にもいるだろう。だが、ラップに取り組むのが早く、実際のリリースまでに持ち込むのが早かったのは3組だ。プレジデントBPMこと近田春夫、いとうせいこう、そして藤原ヒロシと高木完のタイニー・パンクス。つまり、プロのミュージシャン、編集者/役者/(のちの)作家、そしてDJだ。

連載 第3回:東京/ブロンクス/ヒップホップ 1983-1996
ローリングストーン日本版 2016年10月号掲載

Hiroshi Egaitsu
荏開津 広 執筆/DJ/京都精華大学、立教大学非常勤講師。ポンピドゥー・センター発の映像祭オール・ピスト京都ディレクター。90年代初頭より東京の黎明期のクラブでDJを開始、以後執筆/翻訳/選曲など主にストリート・カルチャーの領域で活動。近年より批評的なアプローチをとる。エッセイ『Attempt To Reconfigure ‘PostGraffiti’』(2010)、『Art As Punk』(リヨン現代美術館, 2012)、翻訳に『サウンドアート』(フィルムアート社、2010)。本連載は単行本『初期の日本のヒップホップ(仮)』となる予定。

Hiroshi Egaitsu

最終更新:10/15(土) 18:00

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北朝鮮からの脱出
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