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ラオスで影響力を拡大する中国系企業 国営の携帯電話事業者を買収

HARBOR BUSINESS Online 10/15(土) 9:10配信

 東南アジア唯一の内陸国、ラオス人民民主共和国(ラオス)。同国の首都・ビエンチャンでは2016年7月24日より東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議が開催された。そこでは南シナ海問題が取り上げられたが、開催国・ラオスなどの反対により共同声明では南シナ海問題に言及することは見送られ、この件は日本でも多くの報道機関が報じた。

 南シナ海は領有権問題を抱えており、中国、フィリピン、ベトナムなどが領有権を主張している。フィリピンは中国の領有権主張や人工島建設は国際法に違反するとして中国を相手に提訴し、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年7月12日に中国の主張には国際法上の根拠がないとの裁定を下した。

 常設仲裁裁判所の裁定後に開催されたASEAN関連外相会議では南シナ海問題も議論されており、フィリピンやベトナムは共同声明に南シナ海問題を盛り込むことを要求したが、ラオスとカンボジアが強く反対した。そのため、結果的に共同声明では南シナ海問題に直接言及しなかった。

◆ラオスやカンボジアが言及を避けた理由

 ラオスやカンボジアは中国から大規模な投資を受けており、南シナ海問題の言及を避けた背景には多額の支援を期待できる中国への配慮がある。ラオスには多くの中国系企業や中国人が進出しており、ビエンチャンを訪問すると街中には中国語が目立ち、中国は存在感を強めていることが実感できる。

 中国の存在感は携帯電話業界にも浸透しており、携帯電話小売に関してはラオス資本の小売チェーンもあるが、中国人が経営する個人商店や、中国系企業が建設した市場も確認できた。

 ラオスには多くの中国人移民が流入しており、中国人移民が経営する個人商店は少なくない。中国人が携帯電話の販売を手掛ける個人商店では、英語で話しても中国語で突き通されることがしばしばあったが、金額は電卓で示して、SIMカードのプランなどはパンフレットを見せてくれるため、中国語でなくとも最低限の意思疎通はできた。

 また、ワットタイ国際空港の近くにあるショッピングモールの三江国際商貿城は中国資本の企業が建設した。その一角には三江通訊市場が占めており、携帯電話を販売する個人商店などが集合している。中国資本の企業が建設しただけに中国語がいたるところに見られ、中国の地方都市にいるのではないかと錯覚しそうになるほどだった。ラオスでは様々な分野に中国系企業や中国人が入り込んでいるが、携帯電話小売の世界も例外ではないのだ。

◆ラオスの携帯電話業界に激震

 そんな中、2016年9月にラオスの携帯電話業界に大きな動きが起きた。

 中国の京信通信系統控股は、香港特別行政区の迦福控股がラオスの携帯電話事業者であるETLを買収することを正式に発表したのだ。

 京信通信系統控股によると迦福控股とラオス政府の間で、迦福控股がETLの株式51%を9,180万米ドルで取得することで合意したという。なお、迦福控股は京信通信系統控股の関連会社であり、京信通信系統控股が迦福控股の株式49%を保有する。京信通信系統控股は迦福控股がETLの株式を取得するために、5,000万米ドルを拠出することを明らかにしており、京信通信系統控股は積極的にETLの事業に参画する方針だという。

 ETLはラオスの国営企業であり、ラオス政府がETLの株式100%を保有しているが、迦福控股との取引完了後は49%に減少することになる。

◆純国営の通信会社が消滅

 ラオスの携帯電話事業者はStar Telecom、Lao Telecommunications(LTC)、VimpelCom Lao、そしてETLの4社である。

 Star TelecomにはLao Asia Telecom(LAT)が51%、ベトナムのViettel Global Investmentが49%の比率で出資している。Lao Asia Telecomはラオス政府が所有する企業で、Viettel Global Investmentはベトナム国防省が所有するViettel Groupの国際事業を管轄する企業であり、実質的にラオス政府とViettel Groupの共同出資となる。LTCにはラオス政府が51%、タイを拠点とするThaicomの子会社でシンガポールのShenington Investmentsが49%の比率で出資している。VimpelCom LaoにはオランダのVimpelComが78%、ラオス政府が22%の比率で出資している。

 このようにETL以外はすべて外国企業の資本が入っており、計画通りに取引が完了すれば全社とも外国企業が資本参加することになる。中国がラオスで影響力を拡大する中で、それはラオスの携帯電話業界にも波及し、もはや社会インフラとも言える携帯電話事業にも中国資本が進出する。

◆ETLが「身売り」した理由

 ETLの前身はラオス政府が設立したEnterprise of Posts and Telecommunications Lao(EPTL)で、1995年にEPTLの組織再編で郵便事業を管轄するEnterprise of Posts Lao(EPL)と電気通信事業を管轄するEnterprise of Telecommunications Lao(旧ETL)に分離した。旧ETLは1996年にLao Shinawatra Telecom(LST)との合併によりLao Telecommunications(LTC)を設立したが、2000年にLTCの一部事業を分離して現在のETLが設立された。

 ETLは2002年に第2世代移動通信システム(2G)のGSM方式で携帯電話サービスを開始し、2011年に第3世代移動通信システム(3G)のW-CDMA方式を導入した。しかし、高速なデータ通信サービスを実現する第4世代移動通信システム(4G)は導入しておらず、ラオスの携帯電話市場で加入数シェアはStar TelecomとLTCに続く3位に沈んでいる。上位2社はそれぞれ外国企業から大規模な投資を受けて、4GとしてLTE方式を導入しており、通信品質を大幅に向上したことで顧客からの支持を高めている。VimpelCom LaoもLTE方式を試験中であり、商用化に向けて準備を進めている。

 この状況でETLは競争力を確保するために4Gの導入は避けられない状況であるが、ラオス政府の国家財政は余裕があるわけでもなく、そこで外国企業から出資を受け入れることに決めた。間接的に資本参加する京信通信系統控股は通信設備に関連した事業が専門で、4Gを導入するための通信設備や技術的知見をETLに提供する方針を示しており、ETLが4Gとして世界的に主流のLTE方式を早期に導入できるよう準備を加速することは確実と考えている。

◆中国系企業はなぜラオスに参入するのか?

 ラオスは決して人口が多いわけでなく、むしろ人口を増やすために中国からの移民を受け入れていると言われているほどだ。また、国際連合が指定する後発開発途上国から脱却できておらず、最貧国と呼ばれることもある。携帯電話普及率は低くなく、急速な加入数の増加が見込めるわけでもない。

 それでは、京信通信系統控股および迦福控股はなぜラオスに参入するのか。

 中国系企業の相次ぐラオス進出によりラオスは中国系企業が活動しやすい環境が整いつつあり、これはラオス参入を後押しした要因のひとつであることには間違いなく、親中外交を進めるラオス政府としても中国系企業からの投資は大歓迎で、それゆえに交渉が円滑に進んだと推測できるが、それだけではない。

 京信通信系統控股はETLに自社の設備を納入することで事業拡大が見込める。また、ETLがLTE方式を導入すれば、加入数やデータ通信収入の増加も期待できる。競合のStar Telecomは動画配信サービスのMobile TVやLTE方式の導入により急成長を遂げ、他社との差別化や収益拡大につなげた。ラオスは貧困国で市場規模は大きくないが、事業拡大および収益拡大の可能性は秘めており、市場規模が大きくないからこそ投資額を抑えられるという一面もある。

 昨今のラオスと中国の関係に加えて、現状打破のために外国企業からの投資を求めるETLと、事業拡大を目指す京信通信系統控股および迦福控股の思惑が合致したため、迦福控股がETLに出資することが決まったと考えられる。

 中国系企業は今後もラオスに積極的に進出してくる可能性は高い。<取材・文/田村 和輝>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:10/15(土) 9:10

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