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欧州の「ポピュリスト」を甘く見てはいけない

東洋経済オンライン 10/16(日) 15:00配信

 告白しよう。私は最近の政治動向について悩み、眠れない夜を過ごしている。今はフランス南西部の自宅で過ごしているが、初秋の日差しは暖かく、木の葉は色づき始めている。地元の農家は今年のブドウの収穫に備えている。ここを嫌いになる理由がない。

 しかし左派にせよ右派にせよ、主要な政治家で今年がそれほどよい年だった人はいないのではないか。

■欧州全土で盛り返すポピュリスト

 フランスでは、オランド大統領の来春の選挙の再選が厳しいとみられている。一方でサルコジ前大統領とジュペ元首相が中道右派を掌握し、オランド大統領や極右の国民戦線のルペン党首に対抗している。

 ルペン氏が大統領に選ばれる確率は低いとされるが、6月の英国民投票でEU(欧州連合)離脱派が勝つとの見方も少数派だった。米大統領選でドナルド・トランプ氏が共和党候補に指名されると見ていた人も少なかった。

 私の悩みの種は、欧州全土でポピュリストが盛り返していることだ。

 ドイツではメルケル首相が難民受け入れ政策に絡んで有権者の怒りを買っている。極右政党「ドイツのための選択肢」は反移民感情をあおっており、同首相の地元などの地方選挙で与党を打ち負かしている。

 イタリアではレンツィ首相が景気低迷へのテコ入れに苦戦。ベルルスコーニ元首相率いる中道右派の野党が凋落し、ポピュリストの「五つ星運動」などが勢いづいている。

ポピュリストの主張は幻想に過ぎないが

 スペインでは中道右派の国民党を率いるラホイ首相が、野党の社会労働党から支持を取り付けられず、他党との連立に苦慮している。

 英国では、メイ新首相が与党保守党の取りまとめに苦しんでいる。閣僚の一部が欧州からの完全離脱を提唱する反面、最大の貿易相手先であるEUとの通商関係を維持するように求める向きもある。

 スウェーデンやオランダのような国にもポピュリズムが忍び寄っている。米国のトランプ氏は今や、欧州の大半の国で非常にくつろいだ気分になれるかもしれない。

 2008年の世界経済危機以降の成長鈍化で、伝統的な政党への有権者の支持は低下した。右派にせよ左派にせよ、政権を取った与党は国際協力や自由貿易、公的支出、減税などの点で折り合ってきた。

 しかし今日のポピュリストは、主流のコンセンサスから外れた単純すぎる答えを求めている。彼らは暮らしや経済を破壊するとしてグローバル化を非難し、不透明感や社会的地位低下をもたらした「他者」を、敵に仕立て上げようとしている。

 ポピュリストの世界観はあいまいさを認めず、そこに中道はありえない。合意や調和を求めることは裏切りに等しく、雄たけびや扇動を通じ、迷信や反啓蒙主義がはびこる時代に時計の針を戻そうとしている。

 もちろんポピュリストが唱える古きよき時代というのは幻想である。とはいえ、それほど多くの有権者がその“フィクション”を好んでいるというのも現実だ。

■民主主義をあきらめるな

 われわれは今、民主主義を決してあきらめるべきではなく、ポピュリストに正面から向き合わねばならない。彼らの見掛け倒しの議論を一つずつ論破し、彼らの怒りの姿に対しては、静かに理性的に熟慮する必要があるだろう。

 重要なことは、経済的な疎外感の原因を解決することだ。まずは恵まれない環境下のコミュニティに、より充実した公共サービスを提供し、教育や技術への投資を進め、高賃金で熟練した仕事を増やすべきだ。

 ポピュリストから逃げたり、その戦術や議論をまねしようとすると、民主主義を支えてきた社会契約を傷つけることになる。今、主流派の政治家の前には険しい道が待ち受ける。彼らはつねに戦う姿勢を忘れてはいけない。そして自らの主張への自信も示さねばならない。これは勝たねばならない戦いである。

(週刊東洋経済10月15日号)

クリス・パッテン

最終更新:10/16(日) 15:00

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