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『テトリス』を巡る「もうひとつの冷戦」を明かす1冊

WIRED.jp 10/17(月) 12:21配信

10月11日に英国から発売されたボックス・ブラウンのコミック『Tetris: The Games People Play』は、旧ソ連のコンピューター科学者アレクセイ・パジトノフが、1984年に友人たちと制作したデジタルパズルゲーム『テトリス』と、その版権を巡る企業間の戦いを描写したドキュメンタリーだ。エンターテインメントであると同時に、クリエイティヴとビジネスの両側面からデジタルゲーム黎明期の歴史をわかりやすく解説した貴重な資料でもある。

【“もうひとつの冷戦”の内幕を描いたグラフィックをもっと見る】

ストーリーの前半は、競争心や遊び、創造性といった人間のプリミティヴな欲求から生まれたデジタル以前のゲームの考古学と歴史、そして花札メーカーであった任天堂が、横井軍平や宮本茂といった天才を迎え、世界に名だたるデジタルゲーム企業へと成長する経緯が描かれている。それらを踏まえ、パジトノフの芸術的なひらめきと科学的知見にもとづく試行錯誤によって生まれたゲームデザインと(本業そっちのけの)努力によって、『テトリス』が生まれたエピソードへとつながる。

『テトリス』がパジトノフの同僚たちの間でウイルスのように広がった時点では、開発者たちの創造の喜びが描かれた心温まるドラマであった。ところが、ややもすれば中毒になりかねない程にプレイヤーを熱狂させるデジタルゲームが、鉄のカーテンから西側諸国へと出ていった途端、莫大なお金を生むコンテンツを巡る企業間の熾烈な争いへとストーリーのトーンは転換する。

この“ゲーム”のプレイヤーは、海外ライセンス事業に乗り出し始めた任天堂と、アタリ、セガの3社が中心だったが、それだけでは済まなかった。冷戦中ということもあり、ソ連外国貿易協会(ELORG)、ハンガリーのアンドロメダ・ソフトウェア、英国のミラーソフトなど版権に関わる利害関係者や実業家、政治家たちまでもが絡んでくる。

コミックの中盤からは、彼らが『テトリス』の販売権を巡って、さまざまな駆け引きや裏取引を行う様子が描かれるのだが、コミックのヴィジュアルがユーモラスなだけに、なおさら生々しさが際立つ。

さて、かくも『Tetris: The Games People Play』には、多くの人物が登場し、その人物相関図はややこしく入り組んでいる。そこで作者のブラウンは、視覚的な補助線として冒頭のようなテトリスを巡る家系図をつくった。そこには当時のソ連の最高指導者ミハイル・ゴルバチョフや黒い疑惑も噂されるメディア王ロバート・マクスウェルも、さりげなく加わっている。彼らが『テトリス』を巡るサーガにどのように関わるのか、気になる読者諸兄はコミックで確認してみてはいかがだろうか。

MIREI TAKAHASHI

最終更新:10/17(月) 12:21

WIRED.jp

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