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アメリカ二大政党「恋愛観」の違い~民主党は「純愛」主義、共和党は? リレー読書日記

現代ビジネス 10/17(月) 15:01配信

スティーヴン・キングの圧倒的筆力

 アメリカ中西部のとある町。職を求める人々が、就職説明会の会場に深夜から列をなしている。夜が明けてからでは、間に合わないからだ。

 乳飲み子を抱えた女。その世話を焼く男。雨がポツリポツリと降り始め、霧が濃くなっていく。すると、駐車場から煌々とヘッドライトを照らしたメルセデス・ベンツがやってくる。あろうことかスピードを上げ、列へと突っ込むではないか―。

 スティーヴン・キング初のミステリー、『ミスター・メルセデス』は容赦のない幕開けで読者を一気に引き込む。

 ピエロのマスクをかぶった犯人(傑作長編『IT』を連想させる)は逃亡。この事件を担当した刑事、ビル・ホッジスは解決の糸口を見つけられないまま退職を迎える。

 ホッジスはテレビとジャンクフードに溺れ、いつしか拳銃を弄ぶようになっていたが(自殺のためだ)、一通の手紙が自宅に舞い込む。それは「メルセデス・キラー」からの挑戦状だった。

 これで生きがいを取り戻したホッジスと、メルセデス・キラーの「一対一」の戦いが始まる。

 今回、キングは読者に対して、登場人物よりちょっとだけ早く種明かしをしていく。「情報の優位性」を読者に与えてくれるのだ。真相を知っているだけに、「ああ、何をやってるんだ!」とやきもきさせられることになる。

 ホッジスの人物造形が素晴らしい。人間としてほぼ不能になっていたわけだが、捜査の過程で(退職刑事だから、あくまで個人行動)、文字通り「男性」としても甦る。60歳過ぎの恋愛。

 ミステリーは初めてとはいえ、70歳近いキングが紡ぎ出す「ストーリーの力」は圧倒的。アメリカ最高のミステリーに贈られるエドガー賞を受賞したのも納得した。

 『ミスター・メルセデス』の舞台は、おそらくオハイオ州だ。ここは11月8日に投票が行われるアメリカ大統領選挙で、鍵を握る州である。

米民主党は「純愛」主義?

 冷泉彰彦氏の『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』は、ヒラリー対トランプの構図解説だけでなく、民主党と共和党という二大政党が持つ「キャラ」について、カルチャー的にも読み解く刺激的な本だ。

 民主党といえばリベラル、共和党は保守というイメージが日本人にはあると思うが、19世紀の南北戦争の時代は、民主党が南部(=奴隷制支持)を地盤としていたのに対し、リンカーン大統領の共和党が、北部のエスタブリッシュメント(=奴隷解放)を支持層にしていたという記述は興味深い。

 それが今世紀に入ると、産業構造の変革に伴い、北部の都市労働者が組合化され、民主党支持に回ったことから両党の支持層に変化が起き、共和党は企業経営者の利害を代表する政党へとシフトしていく。これは、日本では見過ごされている。

 この本でいちばん面白かったのは、両党の「恋愛観」についての指摘だ。

 民主党には「純愛」の思想があると冷泉氏は書く。「真の愛情があれば、迫害に耐えてその愛を貫く姿勢を美しいとする一方で、その愛情が冷めたらサッサと関係を清算するのも自由」なのが民主党の発想。純愛には同性愛も含まれるというから、なるほど、オバマ政権下で同性の結婚の自由が進んだわけだ。

 対して共和党はどうか。「最初は純愛かもしれないが、年月を経る中で結婚生活に様々な紆余曲折があるのは当然」というのが共和党型の恋愛結婚観という。浮気とか、そういうこともあるよね、という大人のスタンスだ。

 こうした文化面への言及が、他の大統領選挙本とは違う味わいを生んでいる。さて、あなたは恋愛について、どっちの党を支持する? 
 最後は、海を渡って北海道のお話。中村計さんの『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』は、高校野球界の生々しい実像を書く力作だ。

 駒大苫小牧の田中将大と、早実の斎藤佑樹が投げ合ったのは、もう10年前のこと。駒大苫小牧はその前年と前々年、夏の甲子園2連覇を果たしている。

 このチームを作り上げたのが香田誉士史監督である。ところが、彼は優勝することで多くのものを失う羽目に陥る。一例を挙げるなら、飛行機に乗れなくなる。精神的に受け付けなくなってしまったのだ。早実との決勝を戦った後、部長と二人で、なんと大阪から新幹線、夜行バス、フェリー、特急を乗り継いで苫小牧まで帰る。普通ではない。

 香田を追い込んだものは、優勝後に相次いで明るみに出た部内の不祥事だった。体罰、飲酒、喫煙。謝罪会見では、懇意にしていたはずの記者が「ちゃんと答えろよ!」と怒鳴る。人間不信に陥った香田は、過食症にもなった。

 生徒との関係も哀しいものだ。田中将大の学年とは夏の甲子園が終わってから、「ある事件」で断絶してしまう。校内で四面楚歌の状態となり、香田は'08年に追われるように学校を去る。

 膨大な事実の積み重ねが本書のパワーであり、優勝することの「毒」の強さに、読んだ後は呆然とせざるを得ない。高校野球は、コワい。

 『週刊現代』2016年10月15・22日号より

生島 淳

最終更新:10/17(月) 15:01

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