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「お疲れさま」を日本人が多用する本当の意味

東洋経済オンライン 10/17(月) 15:00配信

浄土真宗本願寺派僧侶でありながら、通訳や翻訳も手掛ける大來尚順氏による連載『訳せない日本語~日本人の言葉と心~』。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボによりお届けする。

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■いつでも「お疲れさま」

 知り合いの方とすれ違ったりしたときに、つい口にしてしまう言葉のひとつとして、「お疲れさま」があると思います。これは本来、相手の労苦をねぎらう意味で用いる言葉です。しかし、今日では「おはようございます」「こんにちは」の代わりとなる、挨拶のように使われているような気がします。

 これは私が学生時代の話ですが、同期の友人やサークルの先輩や後輩に会うと、朝であろうと夕方であろうと、「お疲れ~」「お疲れさまです」を口にしていました。このような会話に馴染めていなかった大学入学当時は、朝から「お疲れさま」と言われても、まだ何もしてないし、疲れていないので、どう返事をすればいいいのかわからず、内心困惑したことを覚えています。しかし、慣れというのは怖いもので、気がつけばそれが大人の挨拶かのように錯覚し、私はどこでも、誰に対してでも、自然と「お疲れさま」を口にするようになっていました。

 この調子でアメリカへ留学したものですから、やはりアメリカでも同期の友人や先輩とすれ違ったりすると「お疲れ~」という言葉を伝えなければと思い、英語に訳そうしたとき、改めて「お疲れさま」を挨拶とする会話に馴染めていなかった頃の感覚を覚えました。

 「お疲れさま」を英語に直訳すれば、「You did good job!」「Well done!」「It was great!」などになります。これは何か仕事などをした相手に労いの気持ちを伝える意味での「お疲れさま」です。これを朝、昼、晩のいずれかのタイミングで出会った方にいきなり言っても、明らかに不自然です。

「お疲れさま」の2つの意味

 そこで私は再び困惑してしまったのですが、それでも気持ち的に何か相手に言葉を掛けたいという思いが滞っていて、英会話やアメリカでの生活に慣れるまではすっきりしない気持ちで過ごしていたのをよく覚えています。

 冒頭でも触れましたが、「お疲れさま」は、本来相手の労苦をねぎらう意味で用いる言葉です。しかし、私たちが使っている「お疲れさま」は、はたしてねぎらいの意味だけで使用しているかといえば、恐らく首を縦に振る方は少ないと思います。もはやその意味も複雑になっているので考えることすら放棄しがちですが、私たちは大きく分けて2つの意味で「お疲れさま」という言葉を使っているのです。

 ひとつは、言葉の漢字から感じ取られるように、相手の「仕事」の苦労をねぎらう意味です。大変な「仕事」、大きな「仕事」をやりきった同僚や仲間にかける「お疲れさま」があてはまります。

 もうひとつは、「挨拶」です。実は、この「挨拶」がとても複雑なのです。それは「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」の意味をはじめ、「やあ!」「元気?」「調子はどう?」というようなカジュアルな語りかけの意味をも含むからです。ここに私たちの頭を混乱させる原因があるのです。

 試しに英語にしてみると、「Good morning.」「Hello.」「Good evening.」「Hi!」「How are you?」「How’s it going?」という感じになります。「お疲れさま」には多様な意味があるということを認識していなければ、英会話は不自然なものとなってしまいます。しかし、逆に考えてみると、この「お疲れさま」の意味の多様性をきちんと把握していれば、英語でも私たちがついつい口にしてしまう「お疲れさま」の「気持ち」を伝えることができるということになります。

 ここで考えるべきことは、なぜ私たちは日頃ついつい「お疲れさま」を口にしてしまうのかということです。

 例えば、同僚や仲間とすれちがったときなど、別に何も言わなくてもよいところを、言葉を発してしまうのはなぜなのでしょうか。むしろ、何か言葉を発しないと気まずいように感じてしまうことはないでしょうか。少なくとも私はそう感じてしまい、「お疲れさまです」という言葉を口にしたり、何も言わなくても会釈をしたりします。

■「お疲れさま」を口にしてしまう心

 では、なぜそのような感覚を持ってしまうのでしょうか。そこには、日本の「和」を大切にする精神が流れていると私は思うのです。この「和」というのは、国外に日本文化を説明する際に使用される代表的な表現のひとつです。この「和」とは、辞書によると「仲よくすること」「互いに相手を大切にし、協力し合う関係にあること」「調和のとれていること」を意味するようです。

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最終更新:10/17(月) 15:00

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