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インポテンツも体位も“文化”として考察――性器や性的不能と社会を繋ぐ「異端と逸脱の文化史」の系譜

サイゾー 10/18(火) 15:00配信

――『江戸の糞尿学』『“特殊性欲”大百科』『ヴァギナの文化史』『お尻とその穴の文化史』……。タイトルは強烈だが、装丁はエレガントな人文書。中身は知的好奇心をくすぐり、社会や人間の本質を浮き彫りにしていく内容……。そんな「異端と逸脱の文化史」シリーズの刊行を続ける作品社の編集者にインタビューを行った。

 書店で人文書のコーナーを覗く人なら、『○○の文化史』というタイトルの分厚い書籍を見かけたことがあるだろう。中でもひときわ目を引くのが、『性的不能の文化史』『ヴァギナの文化史』『体位の文化史』『お尻とその穴の文化史』といった、人間の下半身をテーマにした書籍群だ。実はその大半が、作品社という出版社の「異端と逸脱の文化史」シリーズの書籍であり、そのすべてをひとりの編集者が手がけている……ということは、そう多くの人は知らないはずだ。

 本稿では、その「異端と逸脱の文化史」シリーズの編集者である作品社・内田眞人氏にインタビューを敢行。同シリーズの狙いや、そこで扱うテーマと現代社会との関係を解き明かしながら、書籍の内容を紹介していこう。

 これまで内田氏が手がけてきた「異端と逸脱の文化史」シリーズは計23冊。シリーズの最初の作品となる『悪食大全』は1995年の発売だ。なお内田氏は作品社に84年に入社している。

「私が入社した当初も現在も、作品社は哲学思想や政治、経済、文学などの書籍を手がけるカタい出版社です。ですから、『異端と逸脱の文化史』のような性に関する書籍をつくろうとは、当初はまったく考えてはいませんでした」
 シリーズが始まるきっかけは、『悪食大全』の訳者でもある高遠弘美氏(現・明治大学教授)から、同書の翻訳出版をもちかけられたことだった。

「『こんなおもしろい本があるんだよ』と原著者であるロミの本を紹介していただいて、『ぜひ出しましょう』という話になったんです。それが出版後、朝日新聞などの書評にも取り上げられて、売り上げも評判もとても良かった。それでロミのほかの書籍も出していくことにしたんです」

 ロミ(1905~95年)はフランスの著述家。作品社からは『悪食大全』のほか『おなら大全』、『でぶ大全』も高遠氏の翻訳で出版されている。そのほか『娼館の黄金時代』(吉田春美訳、河出書房新社)、『乳房の神話学』(高遠弘美訳、角川ソフィア文庫)などの著作があり、通常は歴史学の対象とはなりにくいテーマの史書を多数著したことで有名だ。

 なおロミは骨董屋、ジャーナリスト、編集者など多数の職業を持つ一方で、風俗ポスターを2万5000枚も集める稀代のコレクターでもあったという。そのため著作のスタイルも「逸話収集」「図版資料重視」が基本。「異端と逸脱の文化史」シリーズも、図版1200点収録の『フェティシズム全書』など、図版が豊富なのが特徴で、その点はロミの著作群と共通しているといえるだろう。

「『異端と逸脱の文化史』シリーズは、“知的なおもしろさがあること”を大切にしています。だから下半身がテーマの本でも、性的に露骨な図版が入っていればいいというわけでない。あくまで下半身は入口で、そこから社会や歴史、人間の深淵さなどが見えてくるような、射程の長さを持った作品にしようと意識しています」

 なお『悪食大全』に続く『おなら大全』も売り上げや評判は上々。「女性からの反応が多かったのも驚きで、荻野アンナさん(現・慶應義塾大学文学部教授)にもおもしろがって読んでいただいた」とのこと。新聞の書評に取り上げられ、研究者からの評判もいいこのシリーズ。一般の読者もインテリ層が中心だという。

「このシリーズは下ネタをテーマにしていますが、あくまで人文書の枠に入る作品としてつくっています。価格は2000円、3000円を超えますし、図版は多くてもやはり活字が中心。このようなハードカバーの本を積極的に買う方は、やはり知識欲が旺盛で、活字の本を読むことが生活の楽しみになっている方なんです。地方からの注文では、教員や公務員の方が多い印象で、『郵便局留めで』という依頼もときどきあります。さすがにこの書名で家や職場に届いたら困るのかもしれません(笑)」

 確かに『ヴァギナの文化史』『うんち大全』などのタイトルだと、書店でレジに持っていくのも多少気が引ける。

「だからこそ、装丁は人文書らしく、知的でエレガントな雰囲気を意識しているんです。このようなテーマで価格もそれなりにするのに、安っぽいつくりにしてしまったら中身も安っぽいと思われてしまいますからね。タイトルも『ヴァギナの文化史』だと知的な雰囲気がありますが、『アソコの謎』にしちゃうとダメなんです(笑)」

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最終更新:10/18(火) 15:00

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