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書名を隠した“謎本” 「文庫X」が売れている!

Book Bang 10/18(火) 14:00配信

 Amazonのランキング上にはけっして出てこない、「正体不明のベストセラー商品」─『文庫X』をご存じだろうか?



 平たく言ってしまえば、それは書名を隠して販売している、とある文庫本にすぎない。ひとりの書店員の熱いメッセージが手書きでびっしり連ねられたカバーをかぶせ、一冊ずつシュリンク包装してある。



 今年7月、たった一軒の書店から始まったその試みが、全国の書店に広がり、2万部以上の増刷を呼び込んだ。当該文庫本の累計刷数は5万部。実に全体の5分の2に相当する数字だ。



「もっと早い段階で書名がネタバレすると思っていたのに、実際に買って読んでくださった方々はちゃんと秘密を守ったまま、他の人にお薦めしてくれたんです」。『文庫X』の仕掛け人、盛岡・さわや書店フェザン店のスタッフは感慨深そうに語る。確かに2カ月が経った今でも、ネット上で検索をかけて一発で書名に辿りつくケースは少ない。「カバーにもあるとおり、中身は“知らないでは済まされない現実”を描いている。読後に芽生える共有意識をみなさんが大切にしてくれている結果なんでしょうね」。表面的な賑やかしではなく、その作品の本質をきちんと拾いあげた発想の勝利でもあるのだろう。



 購読者から寄せられる感想の中で最も目立つのは、「この形のおかげで出会うことができた」という声。当該本はノンフィクションという性格上、タイトルも表紙も硬いイメージを醸し出している。文章そのものはいたって平易で読みやすく、衒(てら)いなくストレートに心を揺さぶる名著なのだが、「見た目」でまず一定の読者を遠ざけてしまう。『文庫X』は、そのハードルを裏技でとっぱらったわけだ。



 作り手側は良い本だと信じて出版している。だから「売れる理由」なら無論、心当たりがある。けれど「実際に買ってもらえない理由はなかなか具体的に見えてこない。それを教えてもらった気がします」(編集担当)─人の手から手へ。作品を読者に手渡しで届ける、書店という空間だからこそできることがまだまだある。



[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
※「週刊新潮」2016年10月13日号 掲載

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最終更新:10/18(火) 14:00

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