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タイ国民に広く愛された国王崩御。現地記者が見た街の様子

HARBOR BUSINESS Online 10/18(火) 9:10配信

 70年3か月と在位最長記録を更新していたタイ王国の君主、プーミポンアドゥンヤデート国王が13日、崩御した。

 12月5日で89歳の誕生日を迎える直前だった。高齢であったこともあり、この数年間は国立シリラート病院へ入退院を繰り返しており、今年6月には心臓の手術を受け、崩御する4日前にも容態が安定しないことが報道されていた。

 国王の崩御によって、在住日本人や観光業界関係者に日本から問い合わせが殺到している。中でも多い質問は「タイ旅行は中止するべきか否か」という内容だ。2006年から政情不安が続いており、毎年クーデター、あるいは暴力的な騒動を含んだ反政府集会などが勃発していることから、旅行に関して不安を感じるのも無理はない。同時に、日本の報道の一部ではタイ国内が混乱しているなどの内容もあったようで、不安を駆り立てているのかもしれない。

 果たして、タイ現地の様子はどのようになっているのか?

 国王の崩御でなにか混乱があると予測していた人々が拍子抜けするほど、タイは国王崩御による大きな影響は今のところない。企業や商店はいつも通りに営業しているし、電車などの公共交通機関も通常運行している。道端にはいつも通りに物乞いが座り込んで、カップに小銭を恵んでもらおうとしているくらい、以前とまったく変わりのない時間が過ぎている。

 いつもと違うのは街中を歩く人々が喪に服すために黒あるいは落ち着いた色の服装になっていること。アルコール販売が自粛の方向になっており、バーなども深夜0時で閉店している(通常は2時まで営業可能)。FacebookなどSNSでタイ人たちがアップする写真がモノクロになっていたり、街中の広告などが白黒になっている。これくらいしか変化はなく、物資の運送が滞ってスーパーなどで買い出しをしておかなければならないということもない。

 タイには王室に関する不適切な発言をすると逮捕されるなどの不敬罪がある。そのため、タイ国内のメディアは王室に関する発言はかなり慎重であった。そんな中、6月の手術以降容態が安定しないニュースが目立つようになり、崩御4日ほど前にはかなり危険な状態であることが報道され、在住外国人の間では「タイのメディアがこのような報道をするということはかなり危ない」という認識が以前からあったのもこうした落ち着きの要因かもしれない。

 13日になり、夕方には非公式ながら国王崩御の情報がSNSなどを通してタイ人の間で一気に広まり、同日19時(日本時間13日21時)に全チャンネルが一斉に政府の放送に切り替わり、崩御が公になった。

 プーミポンアドゥンヤデート国王は国民に愛される存在であった。街中には国王の肖像画が飾られ、紙幣もすべて国王の顔が印刷されている。14日の16時30分ごろ(日本時間同18時30分ごろ)にシリラート病院から棺が運び出され、チャオプラヤ河の対岸にある王宮へと移された際にも沿道にはたくさんの市民が集まり、またこの様子はタイ全土に生中継された。日系のデパート「伊勢丹」前にある大型ビジョンでも放映され、デパート館内では移送中である趣旨と国王を讃える言葉が放送されていた。ビジョンに映る映像を観ながらすすり泣く声も聞こえ、いかに愛された王であったかを肌で感じられた。

 プーミポンアドゥンヤデート国王は今年6月に即位70年を迎えていることから、平均寿命が74歳程度とされるタイでは大半の国民が君主が崩御するというのはまったく初めての経験になる。そのため、混乱が予想されたが、今のところ大きな問題は起きていない。むしろ、日本の昭和天皇崩御のときよりもタイ国内は落ち着いていると言える。

 タイ政府も公務員は1年間喪に服すことを発表し、同時に、民間には向こう1か月間は派手なイベントなどを控えてほしい趣旨を伝え、特別に休日にしたりするようなことはなかった。そのため、翌14日も特に街中に変化はなく、黒い服装、哀悼の意を示す垂れ幕などがあるくらいで、渋滞も発生しているし、休業する店も多くなかった。悲しみに暮れながらもタイ人は気丈に日常生活を送っている。

 外国メディアが懸念していた新国王の問題も崩御された日の深夜にはワチラロンコーン皇太子が即位することが決まったようだ。王位継承者がほかにもいたために、極端な意見では王位を争って内戦が勃発するという見方もあったが、来年10月に予定されているプーミポンアドゥンヤデート国王の葬儀ののちに皇太子が即位する予定になり、現状は非常に落ち着いた状況になっている。

 また、外国メディアの中にはタイ経済が冷え込むという見方もある。逆にタイ国内では大きな影響はないという意見が多いように見受けられる。元々タイの公務員は個人個人で法解釈をしていることから、例えばなんらかの申請などにおいて担当官によって必要書類が変わってくることがある。懸念されるのは、このように統一されていない対応が、喪に服しているという理由からより悪化することで、実際に喪に服すこの1年間は景気悪化の要素はある。

 しかし、それもほんの一部、あるいは外国からの投資に影響がある程度で、内需は変わらないのではないかと見られてもいる。タイ政府が一般市民に喪に服すことを強要しておらず、1ヶ月間だけ派手なイベントを控えれば、以降は通常通りに戻る見込みが高い。つまり、年末商戦などには国王崩御の影響がかなり小さくなるはずだ。

 タイ人は心の奥底では自身の父親を失った以上の悲しみに打ちひしがれているが、日々の糧を得るための経済活動はまったく別の問題であり、政府も国民もそれとこれは切り離して考えているようである。そのため、タイはあくまでも13日以前と同じ毎日があり、外国人がタイ旅行を控える理由は今のところどこにも見当たらない。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:10/18(火) 9:10

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