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「毎日同じ服はおしゃれ」が招く百貨店不況

東洋経済オンライン 10/18(火) 6:00配信

 有名な話ですが、亡くなったアップルの創始者、スティーブ・ジョブズは、いつも同じ服を着ていました。イッセイミヤケの黒いタートルネックTシャツに、ぼろぼろのジーンズです。一体何故でしょうか。服装がトレードマークだから、といった見方もできるかも知れませんが、最大の理由は、「服を選ぶための時間を仕事に使いたい」ということのようです。

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 これは、ジョブズに限ったことではありません。日本でも、有名な経営者やコンサルタントの中にはこれと同じ理由で毎日同じ服を着る人がいます。例えば、経営コンサルタントの大前研一さんは、大体いつもスタンドカラーのシャツを着ています。今最も人気の高い「nendo」というデザイン会社を率いる佐藤オオキさんも、毎日同じ白いシャツを着ることが多いそうです。最初こそ、クライアントのブランドを理解するために着ていたそうですが、使い続けるうちに好きになって、同じシャツが20枚あったり、同じ靴が4足あったりする。少ない種類のアイテムで、数だけが増えていくのだそうです。

■向田邦子は、「同じ服」を「色違い」で大量買いした

 もう少し時代を遡ると、戦後に大活躍した放送作家で、小説家の故・向田邦子氏にも同じことが言えます。同じ服を色違いで、お店から在庫が無くなるくらい大量に購入していたらしいのです。向田邦子は30年以上前に亡くなっていますが、今なお毎年新しく本が出版されています。美人でおしゃれで仕事ができて、恋人もいて…という彼女の生き方は、生前の活躍を知らない30~40代の働く女性にとっても、憧れの存在であり続けているようです。

おカネを使わない人が尊敬される?

 こうした服の選び方を良しとするのは、今や成功した有名人だけではありません。今は、毎日とっかえひっかえする人よりも、毎日同じような、しかもシンプルな服を着る人が「おしゃれ」「かっこいい」と思われる時代のようです。効率的かつクリエイティブに仕事ができる、あるいは自分を確立しているイメージがあるからです。

 言い換えると、仮におカネがあっても、やたらと新しいものを買うよりも、買わない人の方が尊敬されるということです。そして、どうせおカネを使うなら、むしろ「伊勢丹で靴を直してもらいました」「気に入った服をもう一度買いました」という消費スタイルの方がエシカル(倫理的)だとして評価される。こうした気運というのは、30年ほど前からじわじわと広がってきて、現在はかなり大きな流れになりつつあります。百年間同じ家具を大切に使うような、イギリスはじめとしたヨーロッパ的な価値観です。これが、百貨店の不況に拍車をかけているのです。

■女性の「黒スーツ」が普通になった理由

 さらに、女性が仕事服により実用性を求めるようになってきました。現在、日本人の女性が仕事で黒いスーツを着ている姿はそう珍しくありませんが、そうなったのはほんの10年ほど前からのことです。それまでの女性はもう少し明るい色のスーツを着ていました。

 ところが、2004~2005年くらいに社会人大学で教えていた私は、そこに来ていた女性が一様に黒いスーツを着ていることに気が付きました。そこで、「何故黒のスーツなのか」と聞いてみると、「痩せて見える」「汚れが目立たない」といった答えが返ってきたのです。それでも、当時は、おカネがある人は「トム・フォード」や「プラダ」といったブランドものを着るのが流行っていましたが、今や仮におカネがあっても、スーツ量販店のものでよい、という人が増えています。

 黒のスーツというのは、基本的に異性にモテることを狙ったものではありません。仕事中は、モテなくてもいい。それどころか、女で勝負しているとは思われたくない、それよりも実用性を重視する、という考え方の女性が増えているのでしょう。仕事をしているときは、男も女も関係ない、オフィシャルな人間であるということのアピールなのです。

 これは、現在女性が下着やスカート、ファンデーションにかけるおカネが減り続けていることにもつながる問題です。自らを“飾る”ためのものを買うのではなく、例えば下着であればファストファッションブランドの「ユニクロ」で、汗を吸う機能付きのものを買う。これは、男性が「歩きまわってもムレない靴下」を買うのと同じ発想です。

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最終更新:10/18(火) 17:45

東洋経済オンライン

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北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。