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「グローバリズムと戦後日本の精神風景」(前編)~姜尚中(政治学者)【5】

nikkei BPnet 10/18(火) 9:14配信

 気鋭の若きフォトジャーナリスト安田菜津紀の「未来への扉」対談シリーズ。日本を代表する論客で政治学者の姜尚中氏をゲストに迎え、国内外の多様な問題について話を聞いた。

 今回は全世界を席巻するグローバリズムの真実について。アメリカの大統領選で女性蔑視発言で失速したドナルド・トランプ候補だが、それでもなお一定の支持を得る理由は何なのか。イギリスのEU(欧州連合)離脱という、冷静に考えれば自国民にとって不利益な決断を下すことになった背景は何のか。そして、全世界的に内戦的状況を作り出すことになったグローバリズムの正体とは何なのか。対談を通じて探った。

(構成=高島三幸 対談写真=村田和聡)

安田 前回の議論では、差別を巡る問題は閉塞感によって引き起こされるというご指摘がありました。

姜 グローバル化の中で、自国が置かれているポジションが相対的に低下して、経済成長も止まり閉塞感が漂っている。そうすると、富が自分たちの「外」に拡散しているにも関わらず、自分たちの「内」に奪われているという錯覚が起こる。

 アメリカの大統領選ではドナルド・トランプ候補が雇用の問題はイスラム系移民やメキシコからの不法移民のせいだとして、イスラム教徒の入国拒否やメキシコ国境に万里の長城を築け、などという発言が出てくる。それらが一定の支持を得るわけです。

「転移」では問題の本質的な解決にはならない

姜 イギリスが欧州連合(EU)を離脱することになったが、彼らの考えもこれに似ている。シリアなどの難民を受け入れたり、北欧や東欧の安い労働力を受け入れたりすることで、イギリス人の雇用が奪われ、本来受けるべき恩恵が受けられなくなる。だから、EUから離脱して雇用の流動化をなくせば、自分たちが豊かになると。結果、国民投票ではEU離脱の票が半数を超えてしまった。

 日本においても、前回の都知事選では「新宿区の市ヶ谷商業跡地に定員割れしている韓国人学校の2つ目をつくるから、待機児童問題が解消しない」なんていうヘイトスピーチが出てくる。そんな候補に10万もの票が集まってしまう。

 ではこうした考えが本当に問題解決につながるかと言えば、難しい。それは精神分析学者のジークムント・フロイトが言うところの「転移」(過去の記憶に痕跡を残している強烈な満たされない感情をカウンセラーに向けて解消する行為)でしかない。

 つまり、問題の本質は切開できないから、その問題を「転移」させて、誰かを攻撃することでユーフォリア(多幸感)状態になるわけです。しかし、それは問題の本質には関わらないから、むしろ自分の首を絞めることになる。例えばイギリスからポーランド人を追い出したところで、イギリス人の雇用が改善するかとなると、それは難しいわけです。

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最終更新:10/18(火) 9:14

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