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戦後最大の経済事件の内幕を張本人が綴る『住友銀行秘史』がスゴい! 約四半世紀を経て、衝撃の事実が…

現代ビジネス 10/19(水) 11:01配信

戦後最大級の経済事件

 國重惇史氏の『住友銀行秘史』は「凄い本」だ。発売から1週間で10万部を突破したと聞くが、それも納得である。

 想像していただきたい。メガバンクのエリート行員が、銀行の幹部が深く関わる悪事に気づき、これを事細かに記録するかたわら、銀行を救うために自ら内部告発を行った。そして、当時の記憶と記録とを、その本人が一冊にまとめ上げた。

 悪事とは「イトマン事件」のことだ。

 住友銀行から社長が派遣されていた中堅商社イトマンを通じて、バブルの時代を舞台に不動産や絵画などに対して裏社会に流れたものも含めて不適切なカネの流れが発生し、住友銀行は泥沼に嵌まった。

 著者によると、同事件は住友銀行に約5千億円の損失をもたらした。戦後最大級の経済事件だと言える。

 著者は、後に住友銀行の取締役になった人物だが、これまで彼が内部告発を行った当人であったことは一切明かされていなかったし、彼が克明に残したメモもおそらくは墓場まで持って行くつもりの記録だっただろう。

 元銀行員が書いた小説は少なくないが、本書は、金融界や銀行員を題材にした凡百の小説とは、スケールと迫力が違う。何と言っても実話なのだ。直接内部告発に関わった当事者が著者なのである。あえて名前を挙げた比較はしないが、世間でよく読まれている銀行小説、金融小説の100倍は凄いと申し上げておく。

 銀行というビジネス・組織を深く理解したい現役の銀行員、就職先として銀行を考える学生、加えて、日本の「組織」「世間」「官庁」「マスコミ」などについて深く理解したい人には、本書を複数回読み込むことを薦めたい(複数回の理由は後述)。

記憶と記録のスーパーマン

 本書を評するにあたっては、評者と著者との関係を説明しておくことがフェアだろう。著者の國重惇史氏は、評者が約10年前に現勤務先の楽天証券に入社した時の社長であった。評者は、数年間、國重氏の部下だった。

 本書を読んだ方は一端が分かると思うが、國重氏は、他人を惹き付けるチャーミングな人物で、相手の懐に巧みに入ることができる対人スキルの持ち主である。同時に、頭脳明晰で諜報に長けた策士でもあった。時代劇に出て来る黒田勘兵衛をもっと女性にモテるようにしたような人物だと想像していただくといい。

 加えて、氏は、他人と話した内容を、後から再現してほぼそのままにメモにまとめられるような記憶力を持ち、同時に、記録を確保し整理することに熱意のある、「記憶と記録のスーパーマン」であった。

 本書は、著者が克明に残した手帳の記述と、著者の記憶に基づく本文によって構成されているが、こと内容の正確性については、元部下として保証してもいい。この本の記述は事実であり、著者は、根拠のない事実以外の推測や都合のいい創作を混ぜる人ではない。そして、事実だけで十二分に面白い。

 ただし、事実の大半を明かした書ではあるものの、内容に大きな影響を与えない範囲でだが、当事者の名誉や現在の利害に関わる影響を考えて公開を抑制した部分があることは、あらかじめ申し上げておく。必要な抑制は利いており、暴露趣味の本ではない。

 多くの関係者が鬼籍に入り、あるいは引退した。また、著者も(まだまだお元気なのだが)70歳になった。今だから書ける話になったのだろう。約四半世紀前の事件だが、記録としての価値は高く、内容がはらむ教訓は普遍的だ。

 一方、この本の読み方に関わってくるが、記述に間違いはないはずだが、この本に書かれた事実は、あくまでも「著者の立場から見た事実」だ。そう思って見直すと、この本の内容は一層膨らむように出来ている。特に、金融マンには、再読、三読をお勧めする。

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最終更新:10/19(水) 16:31

現代ビジネス

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