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「準備万端」な研修ほど能力開発には役立たないこれだけの理由

HARBOR BUSINESS Online 10/19(水) 16:20配信

 ビジネスマンならば、社外にしろ社内にしろ、なんらかの研修に参加したことがあるだろう。

⇒【資料】研修運営マニュアル例

 研修会場に入ると数人の受付担当者に出迎えられ、出欠をチェックされ、座席表を渡される。会場へ誘導する担当者もおり、誘導された席に着くと、印刷された名札が机上におかれ、研修資料が整然と並べられている。

 研修が始まるや否や、「携帯はオフ」「PCは閉じろ」「内職禁止」と注意事項が羅列される。気配を感じて後ろを振り向くと、監督者席にはお偉いさんか人事や研修担当が目を光らせている……社内研修でよく見られる光景だ。

 実は、研修ひとつ実施するにしても、研修部門の担当者の準備の苦労は並大抵のものではない。(表1)は、ある企業の研修運営マニュアルの抜粋だが、一部だけでも、これだけある。これに、主担当、副担当、確認者、決裁者が各々につくのだ。

◆一生懸命準備すればするほど研修効果は低下する

 これでは、研修をやろうと思っても、準備がたいへんで、なかなか出来ないという事態となるのも無理はない。中には、アウトソースして研修の準備や当日の対応を行う企業も出てきているのが実態だ。

 真面目な会社であればあるほど、研修部門が一生懸命準備を徹底する。しかし、実は、一生懸命になればなるほど、準備をすればするほど、研修効果は低下するのだ。このように書くと、違和感を覚える読者が多いに違いない。

 しかし、そうなのだ。私の20年来の研修実施経験をふまえると、準備をすればするほど、研修効果は低下することは、間違いない。

 なぜ低下するのだろうか?

 それは、よかれと思って一生懸命準備したことが、参加者の研修参画モチベーションを次から次へと減殺するからなのだ。

・会場に到着するやいなや、受付で、出欠をチェックされる。

・座席図を渡されて、名札のおいてある、指定席へ向かわされる

・席には一律に水がおいてあり、飲みたければ、水を飲まされる

・研修資料が整然とおいてあり、教材として使わされる

・始まるやいなや、「携帯はオフ」「PCは閉じろ」と従わされる

・監督者席から無言の圧迫を感じさせられる・・・

 これらのことは、ことごとく、参加者にああしろ、こうしろと「させる」ことばかりである。そのことが、知らず知らずのうちに、参加者を受け身にし、「やらされ感」が増してしまい、参加者のモチベーションを低下させるのだ。

◆研修参加者のモチベーション向上がすべて

 研修で能力開発をするのは誰かと言えば、他ならぬ参加者自身である。能力開発することに何か一番影響を与えるかと言えば、20年来、トレーナーとして、能力開発に取り組んで来た経験をふまえれば、参加者自身の、能力を高めたいというモチベーション以外にほかならない。

 言い変えれば、参加者自身が、どれだけ能力を高めたいと思うかどうか、高めたいというモチベーションを高められるかで、能力開発できるかどうか、つまり、研修の効果が決まると言い切れる。

 それを、みすみす、研修運営の仕組み自体が、研修効果を無に帰するような、本末転倒なことが、とても多くの企業で行われているのだ。企業だけではない、研修運営のサポートをするアウトソース会社が、それに輪をかけているという事態が発生しているのだ。では、どうすればよいのかという声が聞こえてきそうだ。私は、真逆のやり方を実施している。

 真逆のやり方とは、こうだ。

 そもそも研修対象者を決めない。研修は、希望者先着順で参加いただく。従って、申込を受け付けるだけなので、あらためての事前の出欠確認は必要ない。座席は、自由席だ。来た者から好きな席に座っていただく。

 従って、誘導も必要ない。名札も作らない。A4用紙を四つ折りにして、三角に折りたたんで名札代わりにし、参加者自身に自分の名前をサインペンで書いていただく。水は、配らない。何種類かの飲み物を、それもできるだけカラフルなパッケージのジュースを取り混ぜて、おいて置き、自由に取っていただく。

 資料は配らない。ほとんどが演習なので、資料を見たり、記入したりする暇がそもそもない。携帯の使用や、PCの使用は自由だ。もっとも、二人一組やグループで演習が繰り返されるので、携帯やPCを見ている暇は全くない。

 監督者は絶対におかない。どうしても研修を傍聴したいのでれば、どのような職位や役割であろうと、一参加者として参加いただく。会場には、研修参加者以外の人はいない状況をつくるのだ。

◆能動的な行動をとり続ける研修が効果を上げる

 研修参加者は、はじめのプロセスから、自ら手を上げ参加申し込みをし、好きな席に着き、名札を書き、好きな飲み物をとり、能動的な行動に取り続ける。やらされることは一切ないのだ。

 高いモチベーションで演習に参加するので、「携帯はオフ」「PCは閉じろ」「内職禁止」などと小言を言わなくても、携帯やPCを使ったり、内職をしたりする者などいないし、そんな暇もなく演習が続く。研修参加者の集中力を削ぐような監督者はいない。

 そして、この方式だと、準備に手間がかからない。たいていは、トレーナー一人で、人数分のポストイットやサインペンやロープレ用三脚を詰め込んだキャリーバックを引きずりながら、研修会場を行脚して、準備し、実施し、片付けをしているのだ。(表2)のとおり、研修運営マニュアルに書かれていた対応事項のほとんどは、不要であったり、トレーナー自身が実施したりできることなのだ。

 研修は、研修参加者の能力開発のためのものだ。それ以外の要素を全てそぎ落とすと、このような形になる。このような研修に参加してみたいと思わないだろうか。

※「モチベーションを極大化するプログラム」は、山口博著『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)で、セルフトレーニングできます。

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第19回】

<文/山口博>

※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。

【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。国内外金融機関、IT企業、製造業企業でトレーニング部長、人材開発部長、人事部長を経て、外資系コンサルティング会社ディレクター。分解スキル・反復演習型能力開発プログラムの普及に努める。横浜国立大学大学院非常勤講師(2013年)、日経ビジネスセミナー講師(2016年)。日本ナレッジマネジメント学会会員。日経ビジネスオンライン「エグゼクティブのための10分間トレーニング」、KINZAI Financial Plan「クライアントを引き付けるナビゲーションスキルトレーニング」、ダイヤモンドオンライン「トンデモ人事部が会社を壊す」連載中。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある。慶應義塾大学法学部卒業、サンパウロ大学法学部留学。長野県上田市出身

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最終更新:10/19(水) 16:20

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