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日本の“今”を歌う七尾旅人「人々の目が届きづらい場所で、国の本性が現れてくる」

週刊女性PRIME 1/7(土) 19:03配信

「駆けつけ警護」の新任務が可能になるなど安保関連法は本格始動、憲法改正への流れも固まりつつある。大きな曲がり角に立つ平和国家ニッポン。未来を志向する前に、過去をありのまま見つめ、今をとらえて課題に向き合うための「言葉」を探りたい。戦争の危機感を鋭く表現した映像作品『兵士A』が話題のシンガー・ソングライター七尾旅人(ななお・たびと)に聞いた──

「彼は鈴木くんかもしれないし、山田くんかもしれない」

 暗がりの中、迷彩服に身を包んだ丸刈りの青年がラジオをチューニングしている。ノイズに混じって聞こえてくるのは、子どもたちの声。

《戦後生まれのお父さん、お母さん、ありがとうございます。僕たち、私たちは、大きくなりました。そして今、戦前を、戦前を生きています。》(『戦前世代』より)

 シンガー・ソングライターの七尾旅人が発表したライブ映像作品『兵士A』は、こんなシーンで幕を開ける。

 戦後71年にわたり殺し、殺されることのなかった自衛隊に、初の戦死者が出るかもしれない─。そんな予兆を真正面からテーマに据え、七尾は、“戦後1人目の戦死自衛官Aくん”に扮して彼の生涯を歌う。Aくんを取り巻く人々を縦糸に、戦後日本の足取りを横糸にして、いびつな平和国家の姿を美しいメロディーにのせて織り上げる。

《1人目の彼はどんな人だろう 1人目の戦死者Aくん 1人目の彼はどんな人だろう 何十年目の戦死者Aくん》(『兵士Aくんの歌』より)

 七尾は言う。

「自衛隊の若者が戦死するリスクはかつてなく高まっているけれど、まだまだ関心がない人は多い。彼は鈴木くんかもしれないし、山田くんかもしれない。想像してもらえるように(匿名性の高い)兵士Aとしたんです」

「日本もいよいよここまで来ちゃっているんだな」

 政府は昨年11月、離れた場所にいる国連職員などが武装集団に襲われたとき、自衛隊が武器を使って助け出す『駆けつけ警護』を閣議決定、国連平和維持活動(PKO)のためアフリカ・南スーダンへ派遣される陸上自衛隊の新任務に加えた。安保関連法がついに本格的に動きだす。

「海外の戦場で公式な戦死兵を出した瞬間から“非戦国家日本”は事実上、崩壊します。沖縄に大きな負担をかけた欺瞞的な平和ではあるけれど、一応、建前としてやってきたその土台が崩れれば、戦後に築き上げてきた言葉や思想も崩れ去る。

 戦後71年の歴史が切断される大きな局面に立っているのに、みな、あまり気にしていないし、自覚もないことに焦りを感じています」

 戦争をしない国から、戦争をする国へ。'16年度予算案の軍事研究費は前年比18倍の108億円に膨れ上がった。憲法改正に向けた動きも活発だ。こうした現状を“新たな戦前”と呼ぶ人もいる。

 だが七尾は、今につながる流れをアメリカ同時多発テロが起きた'01年当時、すでに感じ取っていたという。

「冷戦が終わり一強支配だったアメリカが少人数のテロであっけなくやられた。すごくインパクトがありました。その後のアフガン・イラク戦争は泥沼化、多くの負債を抱えるようになり、金融危機にも見舞われてアメリカは衰弱していきました。それにつれて日本の状況も変わってくるのは明白と思ったんです」

 “世界の警察官”を降りるなど内向きになっていくアメリカと、再び戦場に回帰していく日本。冒頭で触れた『戦前世代』は9・11のあと、募る危機感が書かせた曲だ。

「戦前世代といっても当時は全然伝わらなかった。それがここ数年で正面から受け取られるようになったというか、リアリティーを帯びて響くようになったんでしょうね。複雑な気持ちです。日本もいよいよここまで来ちゃっているんだな、と」

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最終更新:1/7(土) 19:03

週刊女性PRIME

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